
暑くて玄関先にさえ出る気がしない昨今、優雅な鉄道の旅を探していたら、Tren Crucero というのが涼しくて絶景なんだと。あまり聞いたこともないので、どこを走っているのか、と思ったら、エクアドル。じつは、20世紀末までに、すべて廃線。世界の金持ち向けに、超高級特別観光列車として運行されているのみ。値段を見て驚いた。
たしかに絶景だ。アンデス山脈の斜面をジグザグに海抜2800メートルの首都キトまで登っていく。エクアドルが、イコール、つまり、南北半球の中央、赤道を意味することからわかるように、ここには夏も冬も無い。一年中、暑くなく、寒くもない、平均20度を保つ。千年前、インカ帝国の第二首都として作られた理由が、よくわかる。ただ、富士山の七合目より上だから、空気は薄いだろう。
ここが世界のまんなかであるのは、町を見ればわかる。火山性の地形だからか、町の真ん中に、ヘソのような小山があるのだ。この東北側が旧市街。聖フランシス修道院の広場を中心として、その南北の谷間高原に細長く新市街が延びている。18世紀、すでにヨーロッパは啓蒙の時代、ここでは現地の文化と融合した、すぐれたキリスト教芸術が最盛期を迎えた。色合いも、顔付きも、アンデスの人々のもの。
ちょっと行ってみたいが、行くのは恐い。自国通貨を放棄し、米ドル建てにしたことで、中南米にしては珍しく経済は安定しているが、実情は、碌なもんじゃない。世界中にコカインを輸出しており、隣国コロンビアなどはもちろん、国内、首都キトの中でも、マフィアの抗争だらけ。小中学校さえみかじめ料を納めている。政治家も軒並み暗殺される。バカな観光客も擦られるくらいで済めばまし。殺してカネを奪い、山に捨てて、行方不明でおしまい。
キトの聖母。キト派のキリスト教芸術の代表作。町のまんなかの小山の上にも、大きな模造が立っている。ただ、あまり平和なものではない。黙示録12章に因み、原罪の実を咥えた悪魔を踏みつけて踊っている。気にはなるが、近づき難い。


