1997年、やられた! と思った。あの「潮音海岸」は、子供のころ、よく行っていたところ。テレビで見るより、はるかに小さくて、知る人しか知らない、上から降りる道が無いので、そもそもたどりつけない海岸。

父親が絵を描くのについて行っていた。漁村の真ん中の簡易郵便局長が民宿も兼ねていて、そこで長逗留。あそこは、ロマン主義の画家、青木繁なども好んで描いたところ。日本の海の美しさは、岩場と砂浜、リアス海岸と青い空のバランス。岩場だけのところや、砂浜だけのところは、あちこちにあるが、あのあたりは、一つの景色に、これらがうまく収まる。
時刻は、朝と夕方。いわゆるマジックアワー。この時間帯は、ほどよく濃い影が出て、雲も横からの光で立体感がある。お昼時は、ただ明るくて、雲はぜんぶ真っ白で、絵にならない。そもそも暑いと、油絵具がテロテロになって、上に乗せられないどころか、油が分離して黄色く垂れてしまう。
というわけで、昼間は民宿で、海風で涼みながら、昼寝。あのあたりは、昔から避暑地なみに涼しい。私も、地元の子たちと遊んだりして、楽しかった。そんなこんなで、あのあたりの風景を絵にすると、これがよく売れて、あそこで夏を何年か過ごしただけで、郊外に新しい家が建てられた。
父親も国立から私立に移って退職金も入った90年代、あのあたりに別荘を建てようか、ということになって、あちこち見て歩いたが、バブルの乱開発で、砂地だったり、藪中だったり、ろくな出物が無かった。いちばんの問題は、下水。ドラマの民宿ダイヤモンドヘッドは、どうしていた(どういう設定だった)のだろう? より低いところに浄化槽を埋め込むスペースが無いと、排水できない。
結局、それきり。で、ドラマだ。あのあと、「潮音」には、おおぜいの人が来たらしい。しかし、それも、もうあれから四半世紀。近年は、めっきり人が少なくなり、なかなかの好立地でも、わずか数百万で買える。だが、海岸や河川をコンクリで固め過ぎて、海砂が減って、下の石が露出してしまい、海水浴場もあちこち閉鎖だらけ。あのきれいな風景が見られるのも、ドラマの中だけ。

