地球儀のスライス | ||
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読 了 日 | 2009/3/23 | |
著 者 | 森博嗣 | |
出 版 社 | 講談社 | |
形 態 | 新書 | |
ページ数 | 309 | |
発 行 日 | 1999/1/8 | |
ISBN | 4-06-182051-6 |
月に読んだ「まどろみ消去」に続いて2冊目の短編集。 講談社NOVELS(本当は文庫で欲しいのだが、こちらの方が安い)で刊行されている森ミステリを目に付くままBOOKOFFで買い求めているが、 短編集はこのほかにもう1冊「今夜はパラシュート博物館へ」が手元にある。 中に何篇か、S&Mシリーズや、Vシリーズと呼べる短編も混じっているので、それを楽しみに買っているのだが・・・。
本書でも「石塔の屋根飾り」と、「マン島の蒸気鉄道」に西之園萌絵や、犀川創平、その他S&Mシリーズのレギュラーメンバーといった人物たちが登場する。 更には、「気さくなお人形、19歳」にはVシリーズでお馴染みの、小鳥遊練無や香具山紫子、それに纐纈老人も登場する。
こうした短編を読んでいると、それぞれの長編シリーズ10巻ずつを読み終わって、それほど時間が経っているわけでもないのに、 とても懐かしく幸せな気分に浸れるのは何故だろう?
それならば、西之園萌絵や犀川創平のその後が期待できる、新しいGシリーズを早く読めばいいのに、と思うが・・・「お楽しみはこれからだ!」誰かが言っているように楽しみを先延ばししている感じだ。
さて、本書のほかの短編では、まず最初の「小鳥の恩返し」という、民話のようなタイトルの1篇は、内容もパスティーシュかとも思えるようなところもあるものの、そこは森ミステリ。一ひねり加えた結末が!?
前の「まどろみ消去」でもそうだったが、この短編集でも森ミステリ・アラカルトとでも言うか、実にバラエティ豊かな構成となっており、楽しませてくれる。
「片方のピアス」では、双子の兄弟と一人の女性との関係がミステリアスに描かれて、余韻を残した結末を迎えるストーリー。また、「素敵な日記」はパラドクスのようなタイトルに表される、日記を巡る短い連作のエピソード等々・・・。シリーズものとは一変して、その対極に位置するような幻想的な雰囲気を持たせたストーリー、不思議な感覚を呼び起こす作品-著者は実はこういう作品の方が好きなのでは?と思わせるような-あるいは泣かせる作品もいくつか配されて、面白い。
て、S&Mシリーズのメンバーが登場する「石塔の屋根飾り」は、長編シリーズの中で何度か紹介されている、西之園萌絵のマンションで愛知県警の若手刑事たちが集まって月に一度開かれる"勉強会"?である。その勉強会の正式名称は「TMコネクション」というが、萌絵の住まいのリビングルームにある大きな黒い窓にちなんで別名「黒窓の会」とも呼ばれている、という説明がされている。
「黒窓の会」すなわち、Banquets of the Black-Windowは、もちろんかの有名なBanquets of The Black Widowers(黒後家蜘蛛の会)のもじりだろう。こんなちょっとしたところに現れている洒落も面白い。萌絵がその会のために犀川創平に話しを提供して欲しいと頼む。話を聞きつけた萌絵の叔母・佐々木睦子や、犀川の同僚で、土木工学科の助教授喜多北斗、犀川ゼミの助手である国枝桃子、さらには萌絵の叔父である愛知県警の西之園捷輔本部長まで出席するということになってしまい、そのため肝心の若い刑事たちは尻込みをして出席を取りやめてしまった。そんな主客転倒の末に集まった面々は執事の諏訪野の接待で和気藹々のお茶の会の後、犀川創平の出したミステリーに挑戦するのだが、このストーリーには結末でもう一つ「黒後家」を思わせる落ちが、それにも一ひねり加えているところが森ミステリたる所以か!
この後に続く「マン島の蒸気鉄道」は日本を遠く離れて、イギリスはイングランドとアイルランドの間のアイリッシュ海に浮かぶマン島を舞台に繰り広げられる「黒窓の会」番外編だ。こうした一種のお遊びのようなストーリーは、著者自身が一番楽しんでいるのではないかと思わせるような感じもするが、僕は冒頭にも書いたが、実に幸せな気分にさせられのだ。なぜ、シリーズの短編集を作らないのかという気もするが、このような短編集に組み込まれているからこその楽しみも捨てがたいのだという気も・・・。。
著者のサービス精神の表れか?!Vシリーズのメンバー、小鳥遊練無が登場する「気さくなお人形、19歳」は、長編シリーズ本編の中でもその一端が紹介されているエピソードである。練無(ねりな)にとってわけのわからない纐纈(こうけつ)と名乗る老人からの、驚くほど割のいいアルバイトを言い出されて戸惑うが、立派な邸に招かれて、食事をしたり、おもちゃで遊んだりというアルバイトが、次第に気にならなくなる。 しかも、香具山紫子の心配をよそに、アルバイトを続けている中、無意識のうちに練無は老人を気遣うようになっていたことに、自身も気づかずにいた。最後の「僕は明子に借りがある」などと共にちょっと泣かせる話となっている。
# | タイトル | 紙誌名 | 発行月号 |
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1 | 小鳥の恩返し | メフィスト | '97年12月号 |
2 | 片方のピアス | メフィスト | '98年10月号 |
3 | 素敵な日記 | メフィスト | '98年5月号 |
4 | 僕に似た人 | 書下ろし | |
5 | 石塔の屋根飾り | ポンツーン | 第1号 |
6 | マン島の蒸気鉄道 | メフィスト | '98年12月号 |
7 | 有限要素魔術 | 書下ろし | |
8 | 河童 | 小説すばる | '98年5月号 |
9 | 気さくなお人形、19歳 | 書下ろし | |
10 | 僕は明子に借りがある | 小説すばる | '98年8月号 |
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