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【Q&A】 【Q1】 定期借家契約とは

2007年11月13日 | 定期借家・定期借地契約

 【Q1】 定期借家契約とはどういうものですか。


 【A1】 定期借家契約とは、契約の期間あるいは建物の種類・用途を問わず、契約期間が満了したときには、契約が更新されることなく、終了する契約です。(借地借家法第38条)

 これまでの借家契約では、契約期間が満了しても、家主に建物を使う必要など正当の事由がないときは契約が更新されることになっていました。

 ところが、定期借家契約では、契約期間満了に際して、家主と借家人との間で、特に再契約の合意がなされなければ借家を使用し続けることができなくなったのです。したがって、定期借家契約を結ぶかどうか慎重に考える必要があります。

 また、定期借家契約の場合、これまでの借家契約と異なり、契約期間が重要な意味を持つことになります。これまでは、契約期間が満了しても、更新が予定されていましたので、契約期間がそれほど重要な意味をもっていなかったのですが、定期借家契約になると、契約期間が満了することによって当然に借家契約が終了することになりますので、期間を何年にするかが、重要な意味を持つことになります。

 借家人は、定期借家契約を結ぶに当り、建物をどういう目的でどのように使用するかの計画を立て契約期間が長くも短くもないように決めなければなりません。

 そして、3年なり、5年なり、あるいは10年という期間で契約することになるわけですが、契約内容によっては、中途で解約できなかったり、解約する上で厳しい条件がついていることもありますので、この意味でも契約期間を慎重に決める必要があるのです

 

Q&A 定期借家契約」(東京借地借家人組合連合会編)より

 


 

借地借家法
(定期建物賃貸借)
第38条  期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定を適用しない。

2  前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。

3  建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。

4  第1項の規定による建物の賃貸借において、期間が1年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の1年前から6月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から6月を経過した後は、この限りでない。

5  第1項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が200平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了する。

6  前2項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

7  第32条の規定は、第1項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。

 

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車庫証明書

2007年11月12日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 車庫証明書の発行申請に地主・家主の事前承認は不要
        大阪府府警本部が確認

 大阪府住宅供給公社新千里西町A団地自治会は、公社の一方的な立替計画に反対し係争中ですが、居住者のDさんは、自家用車の買替えのために、豊中警察署へ車庫証明書の発行を申請したところ、公社の承諾印が必要であることを理由に拒否されました。

 同時期に、東淀川区に住む借地人のNさんからも、東淀川警察署が地主の承諾印がなければ車庫証明は発行しないと拒否されたとの問い合わせがありました。

 大借連(全大阪借地借家人組合連合会)は、1980年10月2日に大阪府警本部と面談し、次のことを確認しました。
 「新車を購入する際、民法や借地借家法から車両の保管場所が確保され、その確認が出来れば車庫証明の発行は出来る。そのために、賃貸契約書、賃料の領収書、供託書のいずれかと借地人の場合は土地の、借家人の場合は建物の「登記簿謄本」が必要である。また、紛争中であっても書面さえ整えばよい」。

 このことを豊中警察署は知っているのかと照会すると、同署の窓口担当者は「そんな難しいことをいわれてもわからないので、府警本部へ確認してほしい」と対応するばかりです。

 そこで、大借連は船越康亘会長と狩俣寛敏副会長が大阪府警本部、交通部駐車対策課へ出向き、「1980年10月2日に面談し確認した車庫証明書の発行にあたっては、車両の保管場所が確認出来れば地主・家主の事前の承諾は必要ない」との確認事項は現在も変更ないものと考えているが、その変更はしていないかとの確認を求めました。

 府警本部の対応した取締指導係長の前窪一幸警部補は、「従来どおり地主・家主の承諾が得られなくとも、車両が保管できる場所と賃貸契約を証明できるものがあれば車庫証明書の発行はしている」と回答しました。その上で、豊中警察署と東淀川警察署へは発行するよう連絡することを確約しました。

 その後、豊中警察署へ車庫証明書の発行を申請したDさんからは、「警察は、何も言わずにすぐ車庫証明書を発行した。本当に有難うございました」と述べています。

 

全国借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 マンション居室工事による階下の騒音

2007年11月09日 | 借家の諸問題

 判例紹介

 本件は、マンションの居室改装工事によって受忍限度を超える騒音が発生したことについて、工事を設計監理した一級建築士及び工事を施工した業者が階下の住人に対して不法行為責任を負うとされる一方、注文主の責任は否定された事例である。東京地裁平成9年10月15日判決 確定 判例タイムズ982号229頁)

 (事件の概要)
 X1:原告(マンション居住者)
 X2:原告(マンション居住者、X1の妻)
 X3:原告(マンション居住者、X1の長女)
 X4:原告(マンション居住者、X1の二女)
 Y1:被告(一級建築士)
 Y2:被告(工事施工者)
 Y3、Y4:被告(マンション居室工事の注文主Aの相続人)

 Xらは、都内にある本件マンション(1階は事務所・店舗、2階以上が住居)の702号室に居住していたが、その真上の部屋である802号室に入居することになったAが、昭和63年8月3日から部屋の改装工事を行った。

 この際に発生した振動により、Xらの702号室の洗面所の洗面台の下に組み込まれていた給湯管の持出し管が折損し水漏れが発生したり、また、騒音・振動が受忍限度を超えるものであったため、ホテルに一時退避しなければならないなどの損害を被ったとして、この工事を設計監理した一級建築士Y1、工事を施工したY2、工事を注文したAの相続人であるY3、Y4に対して、不法行為に基づき総額465万円余の損害賠償を請求した。

 争点は、
 1.工事によって702号室に受忍限度を超える騒音・振動が発生したか
 2.工事の騒音・振動によりXらが被った損害はいくらか
 3.工事の騒音・振動についてYら3名に責任があるか、
であった。


 (理由)
 本件マンションは、昭和48年に建築された13階建のマンションであって、2階以上はすべて居宅である。本件マンションは、JR某駅の東南約300メートルに位置し、用途地域は商業地域であり、北西側は交通量がかなり多い道路(平成2年2月23日金曜日の調査では、路線バスが1日に200本以上通り、10分間の通過車両数は、午前9時に65台であるほかは、午前10時、午後零時、2時、6時とも約100台であった)に面していることが認められる。

 [争点1.について]
 本件マンション改装工事によって発生した騒音・振動が受忍限度を超えるものかどうかは、騒音・振動の程度、態様、発生時間帯、改装工事の必要性、工事期間、騒音・振動の発生のより少ない工法の存否、そのマンション及び周辺の住環境等を総合して判断すべきであると解する。

 本件工事による騒音・振動は床衝撃音が主であるが長時間継続するものではなく断続的で、その発生は3ヶ月間だけで昼間に限られていること、Aが802号室について本件工事をすることを計画したことには不当と解すべきところはなく、設計内容に違法なところはないこと、本件工事で使用された電動工具より騒音・振動の発生の少ない機器が当時開発されていたり、マンション・リフォームについて騒音・振動の発生の少ない工法が当時開発されていたりしたことはないこと、Aは802号室にピアノを置く予定でいたが取りやめ防音工事を中止したこと、702号室における暗騒音は窓を閉めた状態で50デシベル、窓を開けた状態で64デシベルであることなどを考慮して判断すると、ダイヤモンドカッターが使用された昭和63年8月3日ないし6日……の騒音並びに台所の既存タイルはがし工事がされた9月13日の騒音は、受忍限度を超えたものであるというべきである。もっとも、右各日に発生した騒音の音量、持続時間、総時間等からすると、702号室から退出してホテル等に一時避難しなければならない程度であるとまで認めることはできない。

 [争点2.について]
 給湯管等の修理代:702号室の給湯管に対してかなりの振動が伝わっているので、右給湯管は本件工事の振動によって折損したことが推認されるところである。したがって、給湯管の折損によってX1が支払った修理代2万8000円及び給湯管の折損に伴い破損した洗面所戸棚の修理代2万3000円は、本件工事と相当因果関係がある損害である。

 軽井沢の山荘利用、ホテル及びリゾートホテルの宿泊代など:Xらが主張する本件工事の騒音・振動から避難するための軽井沢の山荘の利用代、避難するためのホテルの宿泊代や担当医師からX2の気分転換のため転地して静養することを勧められたとするリゾートホテルの宿泊代などは本件工事の騒音・振動との間に相当因果関係があると認めることはできない。

 Xらの精神的損害について:X1は、当時某会社の専務取締役の地位にあったが、本件工事がされているときに702号室に在室していたことが非常に少なく、慰謝料支払を要する程度の被害を受けた事実は立証されていないというべきである。また、担当医師より、X2の頭痛等の症状等は本件工事の騒音・振動による精神的変化を原因とするとの事実など、X3の強迫神経症等や、X4の神経症等は本件工事の騒音・振動が原因であるとの診断を受けた事実などが認められる。以上より、本件工事により被った精神的苦痛に対する慰謝料は、X2は20万円、X3は10万円、X4は10万円が相当である。

 [争点3.について]
 Y2の責任について:本件工事によって702号室の受忍限度を超える騒音が発生したので、本件工事に施工したY2は、損害を被ったXらに対し、民法709条に基づく賠償責任がある。なお、Y2は、昭和63年当時、特にマンションリフォームを意識して開発された騒音対策部品はなく、低振動・低騒音の工具が開発されていなかったため、建築業者が通常手に入れることのできる機材等を利用して工事を行う限り、一定の騒音の発生は不可避であったと主張しているが、右主張の通りであっても、Y2が責任を免れる根拠となるものではない。

 Aの責任について:Aは、民法716条の注文者であるところ、Y2に対し本件工事を注文したことに過失があるとは解せられないし、Y2に対し本件工事について何らかの指図をした事実を認めるべき証拠もないので、本件工事による騒音の発生について責任はない。なお、Aは、802号室にピアノを置くため防音工事をする予定でいたがピアノを置くことを取りやめ、その旨をY1に伝えているが、これを指図とみても受忍限度を超える騒音が発生したこととは無関係である。

 Y1の責任について:本件工事によって702号室に受忍限度を超える騒音が発生したが、Y2は、Y1の指示・設計に基づいて施工した(解体工事及び台所の既存タイルはがし工事は、Y1の指示・設計に従うものであり、その際にダイヤモンドカッター及び振動ドリルを使用することが予定されていた)ので、Y1は、民法719条の共同不法行為者として、Y2とともに損害を被ったXらに対し賠償責任がある。


 (解説)
 本判決は、マンション居室改装工事によって受忍限度を超えた騒音が発生したことにより、給湯管が破裂したり、X2らが精神的疾患に罹患したなどの損害を被ったとする事案で、工事を設計監理した一級建築士及び工事を施工した業者が階下の住人に対して不法行為責任を負うとされる一方、注文主の責任は否定された事例である。

 注文主の責任が認められなかった理由は、改装工事を依頼したことに過失がないこと、その改装工事について指図はしておらず、また、騒音・振動の発生のより少ない工法は存在しなかったこと、工事が昼間に限られていたことなどが考慮されたためである。

 しかし、どのような注意をしても、受忍限度を超える工事しかできないとすれば、そのような工事を設計すること、工事を引き受けること自体に過失があると同時に、階下の住人に対して受忍限度を超える騒音・振動が発生していることが判明した後も、注文主が、そのような受忍限度を超える損害を発生させている工事の中止をしないことについては、事情によっては、注文主にも過失がある場合も考えられる。

 確かに、注文主の不作為に対して不法行為責任を課すことは困難な問題を生じるが、階下の住人の強い抗議を考慮して、苦情を受けた施工者が注文主に対して工事の中止を打診しているなどの事情がある場合には、漫然と工事の中止を指示しなかった注文主にも責任が認められる余地はあり得ると考えるべきであろう。

 

国民生活センターHPより

 

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【判例紹介】 シックハウスを理由とするマンションの売買契約の解除

2007年11月08日 | 借家の諸問題

 判例紹介

 本件は、マンションを購入した夫婦が、シックハウスを理由として本件契約の解除等を求めた事案である。裁判所は、瑕疵(かし)担保責任に基づいて契約解除および損害賠償は認めたが、債務不履行および不法行為を理由とする損害賠償は斥(しりぞ)けている。東京地方裁判所平成17年12月5日判決、『判例時報』1914号107ページ、一部請求認容(控訴))
 
 (事件の概要)
 Xら(原告):消費者(夫婦)
 Y (被告):不動産管理仲介業者

 平成14年7月27日に、XらはYから新築マンション(以下、本件建物)を購入した。本件建物のパンフレット等には、「環境物質対策基準 JAS(日本農林規格)のFc0基準とJIS(日本工業規格)のE0・E1基準の仕様 目にチカチカとした刺激を感じるなど、新築の建物で発生しがちなシックハウス症候群。〈ベルザ×××〉では、その主な原因とされるホルムアルデヒドの発生を抑えるために、JAS規格で最も放散量が少ないとされるF1基準やJIS規格のE1基準以上を満たしたフローリング材や建具、建材などを採用。壁クロスの施工などにもノンホルムアルデヒドタイプの接着剤を使用しています」との表示があった。

 Xらは、本件建物がいわゆるシックハウスであり、居住不可能であるとして、(1)消費者契約の申し込みの意思表示の取消し、(2)詐欺取消し、(3)錯誤無効、(4)瑕疵担保責任、(5)債務不履行責任、および、(6)不法行為責任を理由として、代金の返還と損害賠償を求めた。

 瑕疵について、Xらは、本件建物はホルムアルデヒドの放散する環境物質対策の不十分な建物であり、Xらの健康を害し居住に適さない状態にあることから、本件建物には瑕疵があると主張した。YはJASのFc0基準またはJISのE1基準以上を満たした建材等を使用しており、本件建物に瑕疵はないと争った。

 債務不履行については、Xらは、Yは本件建物の売り主として、設計段階において、本件建物につき有害物質の放散により居住者の生命身体に危険を生じさせる恐れのない建物を設計すべき注意義務があると主張した。Yは本件建物には瑕疵がなく、債務不履行はないと主張した。

 不法行為については、XらはYの広告宣伝から売買契約に至る一連の行為は、本件建物のような環境物質対策が不完全な目的物を環境物質対策が十分なものとして売却したとして、不法行為となり、また、下地材にホルムアルデヒドを発散させる素材を使用するなどの設計・施工をした注意義務違反により、本件建物に瑕疵を発生させたと主張した。これに対してYは、本件建物には瑕疵はなく、不法行為ともならないと主張した。 


 (理由)
1 瑕疵担保(肯定)
 Yは、本件建物の分譲に当たり、環境物質対策基準であるJASのFc0基準およびJISのE0・E1基準を充足するフローリング材等を使用した物件である旨を本件チラシ等にうたって申し込みの誘引をなし、Xらがこのようなチラシ等を検討のうえ、Yに対して本件建物の購入を申し込んだのであり、本件売買契約においては、本件建物の備えるべき品質として、本件建物自体が、ホルムアルデヒドを始めとする環境物質の放散につき、少なくとも契約当時行政レベルで行われていた各種取り組みにおいて推奨されていたというべき水準の室内濃度に抑制されたものであることが前提とされていたものとみることができる。そして、当時行政レベルで行われていた各種取り組みにおいては、住宅室内におけるホルムアルデヒド濃度を少なくとも厚生省指針値の水準に抑制すべきものとすることが推奨されていたものと認めるのが相当である。本件においては、引き渡し当時における本件建物の室内空気に含有されたホルムアルデヒドの濃度は、100μg/立方メートル(0.1mg/立方メートル)を相当程度超える水準にあったものと推認されることから、本件建物には瑕疵が存在するものと認められ、これは隠れた瑕疵ということができる。

2 債務不履行(否定)
 Xらが主張する「本件建物を含むマンションの設計に当たりホルムアルデヒド濃度につき厚生省指針値を超えることがないよう設計すべき注意義務および施工に当たり有毒物質の放散により居住者の生命身体に危険を生じさせる恐れのないように使用する部材を選定・変更すべき注意義務」のような注意義務は、一般的な注意義務として不法行為責任を追及する根拠となることはあり得るとしても、本件売買契約の内容とはなっていない。

3 不法行為(否定)
 建材等が本件建物内のホルムアルデヒドの発生源として一応推認されるとはいえ、これらの建材等としてはJASのFc0基準、JISのE0・E1基準の仕様を有するものが建築に際して出荷されたことおよび施工に際してこれらが他の建材等にすり替えられた可能性を具体的に窺(うかが)わせるような事情も存在しないことを考えると、ホルムアルデヒドの具体的な発生源および発生機序を特定することはできない。また、Yは、JASのFc0基準・JISのE0・E1基準の仕様を有する建材等を用いて本件建物を含むマンションを建築したのであり、Yに注意義務違反はない(慰謝料請求棄却)。

 (解説)
1 瑕疵担保
 本件は、シックハウスであるということが新築建物の瑕疵と認められた初めての判決である。瑕疵については、当事者の取り決めによる品質を基準とする主観的瑕疵を認めている。本件契約当時の平成14年は既に行政基準が作られていた時期であり、これを基準とするという手法は注目され、今後同様の事例の先例となろう。本件のようにパンフレットで、シックハウス対策がうたわれていない場合については、依然として問題が残される。損害賠償については、瑕疵担保に依拠したため、過失を要件とすることなく認められており、管理費や修繕積立金等を信頼利益(注)の損害と認定し賠償を認めている。このように、瑕疵担保によると、消費者である買い主の保護がかなり図られることになる。しかし、健康被害による治療費や慰謝料については、信頼利益の損害ではないので、瑕疵担保では認めることはできない。

2 債務不履行
 債務不履行については、いわゆる付随義務違反による健康被害に対する慰謝料が問題になっているが、Xの主張するような注意義務は不法行為では問題になるが、「売買契約の内容」にはなっていないとして斥けている。付随義務は信義則から導かれるものと考えられており、「売買契約の内容」でなければならないというのは、学説の一般的な理解よりも狭い考えによっているものといえる。しかし、あえて付随的な注意義務ではなく、「シックハウスでない物件を供給する義務」として給付義務自体に問題の内容を組み込むことも考えられ、債務不履行を否定した点については疑問が残される。

3 不法行為
 不法行為については、民法709条によるため「過失」が要件となる。安全配慮義務違反の事例であるが、被用者に対する使用者の過失を否定した判例がある(参考判例[1]参照)。本件では、Yは自ら建物を建設した業者であるが、建材等としてはJASのFc0基準、JISのE0・E1基準の仕様を有するものが建築に際して出荷されており、ホルムアルデヒドの具体的な発生源および発生機序を特定することはできないことから、過失が否定されている。JASのFc0基準、JISのE0・E1基準の仕様の建材を使用すれば、特別事情がなければ、ホルムアルデヒドの発生について予見可能性が否定されたのである。しかし、個々の材料は基準を満たしていてもそれらが複合してどう人体に影響を与えるかは分からないのであり、完成した段階でホルムアルデヒドの濃度を測定するといった注意義務を認めることも考えられ、測定をすれば容易にホルムアルデヒドが基準を超えていることは予見可能であったのであり、過失も否定されることはない。この点で疑問が残る。 


(参考判例)
[1]大阪地方裁判所平成18年5月15日判決、『判例タイムズ』1228号207ページ(社屋を新築し、その新社屋においてホルムアルデヒドにより被用者が化学物質過敏症になったことが認められたが、平成12年当時において、使用者がホルムアルデヒド等の化学物質によるものと認識し、必要な措置を講じることは不可能または著しく困難であったとして、使用者の責任を否定)。

[2]東京高等裁判所平成18年8月31日判決、『消費者法ニュース』71号217ページ(電気ストーブの使用による化学物質過敏症の発症につき、売り主の債務不履行責任を肯定)。


注:信頼利益とは
 損害賠償の対象となる利益についての区別として、有効でない契約を有効であると信頼したために生じた、信頼した者の利益のことを「信頼利益」という。これに対して、契約が有効であり、それが完全に履行されたならば債務者が得たであろう利益のことを「履行利益」という。

 

国民生活センターHPより

 


 

このシックハウス訴訟を報道した新聞記事はこちら
シックハウスが広く認知されていなかった頃の判例はこちら
賃貸住宅のシックハウス訴訟で和解が成立して損害賠償補償がみとめられた静岡の例

 

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【判例紹介】 建替えに際して地下駐車場を造ったことが契約解除の理由になった事例

2007年11月07日 | 増改築・改修・修繕(借地)

 判例紹介

 木造又は簡易鉄骨プレハブ住宅の所有を目的とする借地契約につき、借地人が建替えに際して地下駐車場を造るために借地を掘り下げたことを理由とする契約解除が有効とされた事例 東京地裁平成6年1月25日判決、判例時報1517号78頁)

 (事案) 
 Y(借主)はX(貸主)から木造又は簡易鉄骨プレハブ住宅の所有を目的で借地していたが、借地上の建物を建替えるに際し、地下駐車場を造ることにした。YはXから建替えの承諾を得ていたが、その際地下駐車場を造ることまでは説明していなかった。

 借地をほぼ全域に渡って深く約2メートル余まで掘り下げ土を搬出する工事を行い、そのため借地内にかなりの湧き水が出て水浸しの状態になり、周辺の土地に地割れや近隣家屋の壁等に割れ目が入ったりする被害が発生した。

 Xは、近隣住民から種々の苦情が寄せられたこともあってYに工事中止・原状回復を求めたが、Yが応じなかったため契約違反を理由に借地契約を解除した。

 その後、掘削部分の埋戻工事が実施されたが、地盤が軟弱化し一定の補強をしないと建物の建築が困難な状況になっている。

 (判決)
 本判決は、
 第1に、前記のような掘削工事の規模・地盤の軟弱化などの事実を認定したうえで、本件掘削工事は、土地の形質に影響を及ぼしたものであって、右工事は、本件土地の形状を著しく変質するものというべくXの同意なくして土地の形状を変更してはならないとの約定に違反することは明らかで、本件掘削工事は建物建築のために必要不可欠な掘削という以上のものであるとし、第2に、掘削工事の規模、態様、近隣への影響などに照らすと、Yの行為(土地の形状の変更)について、賃貸人との信頼関係の破壊がない特段の事情があるということはできない旨判示して、借地契約の解除を認めた。

 また、Y(借主)は、近時の土地利用の状況からすれば、地下部分を駐車場として利用することは許容されるべきであるとも主張していたが、これに対して本件判決は、他人の土地を賃借した者には、自らその利用の態様に制限が伴うことは当然で、地主の承諾がなければ本件のように土地の形状を著しく変更することは到底許容されない旨判示してYの主張を退けている。

 (寸評)
 借地人が借地の形状を変更した場合に、その程度によっては保管義務違反や用法違反を理由に借地契約の解除が認められる場合がある。

 本判決は、その一つの判断基準を示したものであり、近時都市部での地下利用が増える中で、今後借地で地下掘削工事をする際の参考になると思われる。

 なお、借地に新たに半地下の車庫を造るなど借地の利用をしようとする場合には、本判決も指摘しているように地主に計画をきちんと説明してその承諾を得るのが最善です。地主が承諾しない場合には、裁判所に増改築の許可の申立をして、裁判所の許可を得てから地下工事をするようにしましょう。

(1995.04.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 賃貸マンションの家賃減額が建物の欠陥などを理由に認められた事例

2007年11月06日 | 家賃の減額(増額)

 判例紹介

 ハイグレードを売り物に高めに家賃額を設定した賃貸マンションの家賃減額が建物の欠陥などを理由に認められた事例 東京地裁平成6年8月25日判決、判例時報1521号78頁)

 (事案の概要)
 X(貸主)は、「光と風、そして美しいロケーション。ゆとりを満喫するクオリティライフ」というキャッチフレーズのもと、眺望が良い、日照・通風なども最大限に得られるなどの内容の宣伝をして、比較的高額の家賃設定(1か月、21万7000円)をして借手を募集した。

 Y(借主)は、質の高い住環境が得られると期待して入居したが、入居後も未完成工事や補修工事の騒音・振動・埃に悩まされ、居室の防音工事が不十分なため階下や通路の物音が聞こえ、雨漏りやカビの発生もあるなど、宣伝文句とは程遠い住環境であったため、賃料を半額に減額する旨の請求をなした。

 Xは賃料全額の支払を求めて提訴。
 (本事案では、賃料減額の可否のほか、Xの原状回復費費用請求・Yのカビ被害等を原因とする損害賠償請求の可否なども争点となっている)

 (判決)
 本判決は、Xの宣伝内容を認め、「このような宣伝には、本件建物が比較的高額の賃料設定をしていることの理由を示すことを1つの要素として、その宣伝内容の真実性を判断し、質の高い住環境が得られることを期待して入居するものであるから、その実体にその宣伝内容とかけ離れた点があり、当該賃貸マンションの提供する住環境に、それほど高額の賃料を支払うほどの価値が無いことが判明すれば、賃料額はその実体に見合った額に減額されるべきである」とし、

 前記の騒音等や雨漏り、カビの発生(カビの発生につき、判決は、主として本件建物の敷地や構造等に起因するものでYの努力で発生を防止できないとしている)と認定して、

 「Y入居後の本件建物及びその周辺の住環境はXが宣伝した本件建物のそれとは程遠いものというべく、(中略)その特殊事情のため、その賃料は減額を免れない。その減額の程度は、減額すべき要因が、住環境の快適さという点に関するものであり、その要因によって受ける影響には個人差のあること、カビによる被害などは、賃借人においてもっと防止に努力すれば、より軽減された可能性のあることを考慮し、賃料の3分の1に当たる7万3000円とするのが相当である」とした。

(なお、本判決は、原状回復費用については工事の項目別に検討して請求の約半額を認め、カビ被害による損害については「賃貸借契約上賃借物件に隠れた瑕疵によって生じた損害として」Xは賠償すべきであると認定してYの請求の3分の1を認めている)

 (寸評)
 この判決は、賃料は賃貸物件の実体に見合った額にすべきである、という極めて常識的な判断に立つものだが、賃料増減額訴訟ではこのようなアプローチがとられることは殆どなく、今後の賃料減額問題を考えるに当たって参考になる判決である。

(1995.09.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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保証金600万円が戻らないかもしれない (東京・台東区)

2007年11月05日 | 敷金(保証金)・原状回復・消費者契約法

 中野さんは台東区上野でスナックを経営している。家賃は税込で49万3500円である。それとは別に電気、水道代を含む管理費を月約20万円支払っている。

 中野さんは夏場に体調を崩し、1か月程病院に入院していた。退院後も体調は思わしくない。スナックを続ける自信がなくなり、70歳を潮時と考え、11月末で廃業する事にした。

 10月3日に店舗を管理している不動産屋に電話で解約予告をした。それに保証金の返還は、何時ごろになるのかを尋ねた。 

 担当者から返事は、次のようなものであった。
 ①契約書に「解約予告の6か月後に賃貸契約は終了する」という特約があるので来年の4月分までの家賃(246万7500円)の支払義務がある。

 ②契約満了日は12月24日であるから、更新料(98万7000円)と更新手数料(消費税込25万9088円)が必要である。

 ③中途解約なので「償却特約」で家賃の2か月分相当を保証金600万円から償却する約束になっている。

 ④原状回復費用などがあるので、それらを精算すると返却される保証金は何もない。

 担当者が更新料も必要といっていたが、何故、更新料を支払わなければならないのか疑問に思い借地借家人組合へ相談した。

 組合からは、以下のように説明した。10月3日に解約予告をし、その6か月後に賃貸借契約が終了するという特約になっている。これは中途解約違約金という意味であり、契約を4月まで継続するということではない。事実、契約書の但書に「一括で6か月分の家賃を支払えば即時解約出来る」となっている。従って、契約の更新は発生しないから、当然「更新料更新手数料」は支払う必要はない。

 また、契約書に「日割計算特約」が書かれているので1か月単位の精算になる。「日割計算特約」は1か月単位の精算にも合理性があり、暴利行為とはいえなという事で一応特約は有効とされている。従って、約1か月分の払戻しは受けられない可能性がある。

 <注意> 殆どの契約書は解約予告通知は文書で行うように書かれている。電話での解約予告は、後日、聴いていないと言われたり、解約予告の通知が無かったと言われ、保証金から6カ月の家賃相当分を差し引かれるトラブルの原因になる。或は文書で通告することになっているが、そのような解約の通知は届いていないと言われ、トラブルになるので、証拠を残すためにも「配達証明付内容証明郵便」を用いることを勧めたい。

 
 (参考例)
 契約書に中途解約の予告期間と解約の制裁金が書かれている場合
 契約書に中途解約する場合は、6箇月前までに書面で通知するか、或は 6箇月分の賃料(予告期間の損料)を支払うという約定に従って貸主が6箇月分の損料(564万円)を借主の保証人に請求した。

 その支払で争われた裁判では、解約は双方の合意に基づくもので、損料支払はあくまで一方的な解約権行使を補償するものなのであるから、この件では損料の支払は不要という判断をした(東京地裁1993年6月14日判決)。家賃の6箇月分の約定損料を過大と判断した結果である。

 

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【判例紹介】 小修繕を賃借人の負担とするとの特約は賃借人に修繕義務を課したものとはいえない

2007年11月01日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

 判例紹介

 小修繕を賃借人の負担とするとの特約が、賃借人に修繕義務を課したものとはいえないとされた事例 (名古屋地裁平成2年10月19日判決、判例時報1375号)

 (事件の内容)
 賃借人は、マンションの1室を住居として使用していたが、ある時、建物を明渡した。
 その後、賃貸人は滞納分の家賃と、温水器の取替え費用の他、畳、襖、障子、クロス、絨毯の張替え、ドアのペンキの塗り替え費用として、50万4200円を賃借人に対し請求した。

 賃貸契約書には、「賃借建物についての修理、取替え(畳、フスマ、障子、ガラス、照明器具、スイッチ、壁、床、その他の外回り建具を含む建具、浴槽、風呂釜(バーナーを含む)その他の小修繕)は賃借人の負担において行う」という特約修理特約と略す)があり、

 また、「賃借人は故意過失を問わず、本件建物に毀損、滅失汚損、その他の損害を与えた場合には、賃貸人に対し損害賠償をしなければならない」という特約賠償特約と略す)があった。

 賃貸人はこの特約を根拠に裁判を起したのであった。

 (判決の要旨)
 「本件修理特約は、一定の範囲の小修繕についてこれを賃借人の負担において行う旨を定めるものであるところ、右特約は、一般に民法606条による賃貸人の修繕義務を免除することを定めたものと解すべきであり、積極的に賃借人に修繕義務を課したものと解するには、更に特別の事情が存在することを要する。

 そして、本件においては、右特別の事情の存在を認めるに足りる資料はなく、50万円の礼金が授受されていること、賃借人が入居した際には前の居住者が退去したままの状態で入居している事実は、むしろ本件修理特約が賃貸人の修理義務を免除するに留まるものであることを推認させるものである。したがって、賃貸人の修繕費用の請求は根拠がない。

 本件賠償特約は、本件建物の毀損、汚損等についての損害賠償義務を定めるが、賃貸借契約の性質上、そこでいう損害には賃借物の通常の使用によって生ずる損耗、汚損は含まれないと解すべきである。

 この点についてみるに、賃貸人が請求する畳、襖、障子、クロス、絨毯の汚損は、建物の通常の使用によって生ずる範囲のものであったと認められる。ドアについては、賃借人の子が貼ったシールが多数あり、それを原状に復するにはペンキを塗る必要が在ったと認められから、通常の使用によって生じない程度に汚損していたことが認められる。

 結局、賃貸人の請求は、ペンキ塗替え費用2万円の損害賠償を求める限度で正当である。」

 (解説)
 本件のような特約がなされことが多いが、道理にそって特約の解釈をした判決である。
 修繕費を口実に敷金返却を家主が拒否するケースがあるが、参考になる事例である。

(1991.09.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

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