生活保護費「業者が不当天引き」
生活保護受給者に宿泊施設をあっせんする複数の事業者が、明確な説明をせずに不当に高い家賃や食費などを保護費から徴収しているとして、全国の弁護士らが支援して受給者が月内にも刑事・民事両面で法的措置に踏み切る。順次、詐欺容疑などで刑事告訴する一方、不当利得の返還などを求める民事訴訟を起こす方針。生活困窮者を狙った「貧困ビジネス」の被害は後を絶たず、各自治体も実態調査を進めている。
弁護士らが法的措置の対象に挙げているのは東京、埼玉、千葉、愛知、大阪にある約10の事業者。いずれも任意団体やNPO法人、不動産業者などで、社会福祉法に基づく「無料低額宿泊所」や無届けの施設を運営する。主に路上生活者を勧誘して住居を提供したうえで生活保護を申請させ、月12万円前後の保護費から生活費を徴収している。
住環境は改装した社員寮や倉庫、老朽化した賃貸住宅の手狭な一室が多く、家賃のほかに食費や布団使用料などの名目で、10万円前後を請求する例もある。徴収方法として、①入所者の銀行口座を管理して天引きする②自治体の窓口に同行し、その場で保護費から集金する、などが目立つ。事業者側の手続きは不明朗で、口座開設について入所者に説明せず、勝手に保護費を引き出したり、天引きや集金の際に明細書や領収書を出さなかったりする例が多い。
入所者の自立につながる就職支援を実施していない施設も目立ち、入所期間が5年を超す例もある。事業者の多くは「自立支援を進めている」と説明するが、それを裏付ける証言は入所者から出ていない。毎月、少額しか手元に残らず、施設を抜け出して被害を訴える例が相次いでいる。
千葉市内の施設に入所していた60代男性は無断で銀行口座を開設され、07年2月~今年4月に保護費計約120万円を引き出されたという。大阪府内でも50~70代の男性3人が事業者に口座を管理され、1食900~1300円と不当に高い弁当代を天引きされていた。
昨年夏、保護費を詐取したとして千葉市の事業者が摘発されたが、被害の全容が表面化する例は少ない。このため、首都圏では8月、貧困問題に取り組む弁護士らが「無届・無料低額宿泊所問題弁護団」(団長・宇都宮健児弁護士)を結成。近畿や東海の弁護士や司法書士らも近く弁護団を組織し、全国で支援のネットワーク化を図る考えだ。
一方、千葉、さいたま、大阪、堺各市などは一部施設で入所者の自立が妨げられている疑いがあるとみて、実態調査を始めた。事業を規制する新たな法整備などについても厚生労働省に求めている。
朝日新聞 2009年10月4日
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