何かをすれば何かが変わる

すぐに結論なんて出なくていい、でも考え続ける。流され続けていくのではなくて。
そして行動を起こし、何かを生み出す。

医療事故

2007-09-09 08:18:59 | Book Reviews
『医療事故 なぜ起こるのか、どうすれば防げるのか』山内桂子・山内隆久・著、朝日新聞社、2000年。

 レバレッジメモを真似て、それをブログ上に残してみることを試行してみる。

p.5 事故直後に横浜市立大学の医学部長はテレビで「事故原因は看護婦の引継ぎミスで、二人の患者を一人の看護婦が運んだのは、朝の忙しい時間帯であったから」と説明し、看護婦個人の責任を強調していました。

p.18 この事故は看護婦や医師が個人で起こした事故ではなく、病院という組織の中で、複数のエラーやルール違反、ルールの欠如が複雑に絡んで起きた事故ととらえる必要があります。言い換えると、個人ではなく、チームや組織全体のあり方を改善しなければ、事故を防止することはできないのです。

p.64 多重課題 人がエラーを起こす要因の一つとして、二重(多重)課題の問題もあると思います。人は同時に複数のものに集中することはできませんから、あるものに注意すれば、もう一方には不注意となります。ところが、看護婦・士は、日常的に二重(多重)課題を求められることが多く、ナースステーションで注射に薬剤をつめる仕事をしながら、ナースコールが鳴ればそれを中断して病室に駆けつけて患者の処置をし、その後また注射の準備に戻るというようなことをします。

p.66 医師の書いた一週間分の処方箋どおりに薬剤を準備し照合するとき、これは一つのルール(基準)による照合です(「定型型照合」と呼ぶことにします)。ところが、「検査のある日はこの薬剤は除く」とか「血圧を測って○○以上ならこの薬を加える」などと細かい指示が加えられることもあるのです。これは、複数のルールや臨時のルールを使う照合です(「非定型照合」)。

 患者の名前や薬品名などは、書類に書いてあるものと一致しているかという形式的なレベルでの確認ができます(「表層的照合」)。これに対し、その薬剤の作用が患者の症状や病歴からみて適切化という医学上の判断のレベルで照合すべきこともあります(「構造的照合」)。

p.68 外から見ると、この事故に関った作業員たちは、手間を惜しんで守らなかった怠慢な人に見えるかもしれません。けれども、組織の一員としての彼らは、多くの利益をあげるという組織の目標達成のために、本来のルールに違反してまでも効率的に仕事をしようとした勤勉な人たちだったのではないでしょうか。

p.86-7 個人の失敗が事故を引き起こしたように見えたこの事故は、組織の失敗によって生じた組織事故と考えるべきです。
 医療事故をはじめ、さまざまな分野の多くの事故にも、同じように組織的なエラーやルール違反があり、これらの背景には社会心理学の研究が明らかにしてきた集団の心理過程があります。しかし、これらの「組織の失敗」は、従来のような「最前線のスタッフがそのとき起こした失敗が事故の原因」という見方をしている限り、目に見えにくいものです。

p.134 インシデントレポートを出すこと、つまり自分の失敗を明らかにすることには、当然のことながら、心理的な抵抗が大きいからです。
 自分の失敗を報告することには、同僚や上司からの非難、記録が永久に残ること、経歴に傷がついたり場合によっては解雇されたりすることへの恐れが伴うのです。

p.167 患者や家族が十分な情報提供(説明)がなされていると認識しているときには、医療スタッフを医療目標の達成のために自分たちと協同する人たちと見ることができます。患者や家族としての役割の重要性も認識し、医療スタッフに過大な期待をすることもないでしょう。サポートを受けつつ、できる範囲で自立し、医療スタッフとの信頼関係が作られます。このように患者への「説明」の有無、つまり患者が適切な情報を持つかどうかは患者と医療者との信頼関係に大きく影響をおよぼします。

p.172 『ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言』の一節「患者は、明示的に要求したときには、知らされない権利を有する」を引用し、患者がはっきりと「知りたくない」と意思表示したときのみ知らされない権利が生ずるのだとする和田努氏(1996)の主張は的を射たものでしょう。

p.194 事故予防の視点では、医療スタッフには、①エラーや事故につながる業務上のストレスを緩和したり、ストレスに対処したりする援助、②エラーや事故が起きたときのバックアップ、③エラーや事故のストレスを緩和する援助、という三つの側面のサポートが必要です。

p.219 例えば、列車の乗客は、列車の高速の運行や快適な座席などのサービスに費用がかかること、すなわち「効用のコスト」については理解しやすいでしょう。一方、列車を安全に走らせるためには、レールの継ぎ目に油を差し、レールの下に砂利を補給するといった絶え間ない保線作業や、信号の保守点検などの「安全コスト」が不可欠です。しかし、乗客が料金を払うときにこの「安全コスト」までは認識されていないことが多いようです。

p.221 医療において“Safety is not free”(安全はタダでは得られない)ということを、医療者も医療を受ける者も知る必要があるでしょう。

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