花冠俳句叢書

花冠発行所 主宰高橋正子

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第Ⅰ期第25巻「樟」矢野文彦句集

2009-04-20 11:38:53 | Weblog
  序

 矢野文彦句集『樟』は、有季定型を食み出すことがなく、特に目立ったところは無いのだが、句の芯に強さがある。それは、作者の内面の強さでもあり、生まれながらにして身に付いているものであろう。作者は、物心ついた頃には既に重度の障害者であった。

  ふり仰ぐ天の深さよ春の雪
  車椅子落花を運び戻りけり
  年来る分相応の欲は捨てず

 車椅子を詠んだ句に佳句があり、生活に明るさがあるのは、作者の内面の強さがあってのことである。

  薫風や電池換えたる車いす
  車椅子薄一本挿し戻る

 作者の明るさは、生まれながらのものであろうが、親兄弟といった温かい家族があったからでもあろうと思う。亡き母を詠んだ句に

  亡き母の植えて好みし乱れ萩

があり、アメリカ在住の弟との交流では、

  外つ国の大年を聞く初電話 

という句があって、世界が広がる。
 少年時代の回想句は、

  ぽっぺんが割れ大泣きの遠き日よ
  少年に空青かりし終戦日

などに、喜びも悲しみもあって、心に残る思い出がある。

  蟋蟀の入り来し部屋の灯を消しぬ
  身のほとり清めるだけの大晦日
  着メロによろこびの歌年送る

 これらの句は、一人で居るときのもので、わが身に合った生活がいい。介護の世話になれば、その人達との交流がいい。
 
  祖母を語る若きヘルパー草青む
  介護ヘルパー時間励行息白し
  初風呂や介護の視線全身に
  七夕竹に一日華やぐデイの部屋

 障害者の生活は限られているが、楽しさがあれば、明るい。

  空に鳥地に蝶が舞い夏至暮るる
  チューリップどの色が好きみんな好き
  飲み余すワインの壜に夜長の灯

 矢野文彦さんは、昭和五年生まれで、十月になれば、七十九歳となり、八十歳の傘寿がすぐそこである。矢野文彦さんの永い人生があって、その人生を丁寧に生きてきた。そのことを句集『樟』が語っている。その代表句を挙げるとすれば、

  樟若葉大きな空はそのままに
  人見えぬながら春田となって来し
  立葵明日の高さを目で測る

であり、明るいところがあっても、浅きに流れていないのである。
 句集『樟』が多くの読者を得て、その俳句が人生の励ましともなればと願っている。

 平成二十一年二月
                   高 橋 信 之



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27 コメント

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句集「樟」拝受の御礼ほか (桑本栄太郎)
2009-04-22 20:25:59
高橋信之先生、正子先生
矢野文彦様の句集「樟「の発刊おめでとうございます。早速お送り頂き、昨日拝受致しました。そして本日、通勤と仕事の合間に拝見させて頂きました。先ずは御礼とご報告を致します。有難うございました。

矢野文彦様
この度は句集「樟」の発刊おめでとうございます。本日、早速拝見させて頂き大変感動致しました。信之先生、正子先生の賛辞にも在りますように、ご自身のハンディーをあるがまま受け止められ、それにめげず努めて前向きに明るく人生を過ごされて来た事。その人生がどの御句からも人、自然、生き物などを優しく見守っておられ穏やかな人柄がとてもよく伺える事。嘗て若かりし頃感動した、武者小路実篤の「天に星、地に花、人に愛」の言葉を思い出しました。すべてに感謝の日々を過ごされている事などは見習うべき事ばかりです。今後益々ご健康に留意され、ご健吟のほどを祈っております。

沢山の佳句の中から、小生の特に印象に強い御句を述べさせて頂きます。
☆薫風や電池替えたる車いす
☆車椅子薄一本挿し戻る
☆ぽっぺんが割れ大泣きの日よ
☆蟋蟀の入りきし部屋の灯を消しぬ
☆身のほとり清めるだけの大晦日
☆樟若葉大きな空はそのままに
☆梅雨寒や山羊が顔出す幼稚園
☆少年に空青かりし終戦日
☆山眠る鳥は一直線に飛ぶ
☆お降りや庭石が濡れ土が濡れ

お礼とコメント (河野啓一)
2009-04-22 21:30:43
高橋信之先生
高橋正子先生
矢野文彦様

 句集「樟」の発刊、誠におめでとうございます。本日拝受し、早速読ませて頂いております。
 人生の先輩として俳句の先達として、矢野さんには平素何かとお世話になっておりますが、信之先生の序にありますように、「明るいところがあっても浅きに流れぬ」作風に多々教えられる所があります。
 「好きな句」は色々あって困るのですが、以下に10句を挙げさせていただきますと。
ふり仰ぐ天の深さよ春の雪
薫風や電池換えたる車いす
日向ぼこ大きな雲がやってくる
初日記大志を一つ書き加え
外つ国の大年を聞く初電話
樟若葉大きな空はそのままに
介護士も踊る浴衣の娘となって
万緑や乗馬クラブの赤い屋根
人見えぬながら春田となって来し
靡くことなくて月下の曼珠沙華




お礼 (藤田洋子)
2009-04-22 22:31:56
信之先生、正子先生、矢野文彦様の句集「樟」本日いただきました。発送のお世話をいただき大変ありがとうございました。
矢野文彦様、このたびは句集「樟」のご出版おめでとうございます。力強く人生を歩まれ、今を生きるお姿、その御句に深い感銘を受けております。ゆっくりと拝読し学ばせていただきます。素晴らしい句集を贈っていただきありがとうございました。
御礼 (矢野文彦)
2009-04-22 22:55:55
桑本栄太郎様。
河野 啓一様。
句集「樟」に早速お目通し頂きありがとうございます。行き届いたコメントに感動致しております。御礼申し上げます。
お礼 (藤田裕子)
2009-04-22 23:02:29
信之先生、正子先生、矢野文彦様の句集「樟」を本日いただきました。お世話いただき有難うございました。
矢野文彦様、句集「樟」のご出版おめでとうございます。ゆっくり拝読させていただきます。有難うございました。
お礼 (柳原美知子)
2009-04-23 00:10:01
信之先生、正子先生、矢野文彦様の句集「樟」を本日拝受致しました。お世話いただき、ありがとうございました。
矢野文彦様、句集「樟」のご上梓おめでとうご
ざいます。丁度樟若葉の美しい季節、「樟若葉
大きな空はそのままに」の御句がぴったりです。素敵な句集をお贈りいただき、ありがとう
ございました。ゆっくり拝読させていただきます。
御礼 (矢野文彦)
2009-04-23 06:15:23
藤田洋子様。
藤田裕子様。
柳原美知子様。
句集「樟」をご覧頂きありがとうございます。
お褒めいただき、勉強不足を痛感いたしております。御礼申し上げます。
お礼 (黒谷光子)
2009-04-23 08:25:41
信之先生、正子先生、矢野文彦様の句集を昨日頂戴いたしました。
矢野文彦様、句集「樟」のご出版おめでとうございます。楽しみに拝読させていただきます。
ありがとうございました。
お礼 (小川和子)
2009-04-23 21:31:41
高橋信之先生、正子先生
矢野文彦様の句集「樟」届きました。お手数おかけ致しましたが有難うございました。
矢野文彦様
この度は句集「樟」のご出版おめでとうございます。お贈り頂きましてありがとうございました。
信之先生の「序」を、正子先生の「跋」をそして「あとがき」を読ませて頂き、私自身筆舌には尽くせないほど、深く明るい気持ちに充たされる思いで、作品にふれさせて頂きました。
くり返しゆっくり読ませて頂きたいと思いますが、ここに好きな句を15句挙げさせて頂き句集「樟」の上梓をお喜び申し上げます。併せて一層のご健康とご健吟を心よりお祈り申し上げます。

好きな句
ラベンダ-港が見えるハ-ブ園
白南風に真向かうもよし車いす
群れつつも一本ずつの曼珠沙華
天動説信じてみたき星月夜
パソコンに零さぬように新茶かな
蟋蟀の入り来し部屋の灯を消しぬ
本降りの雨を弾いて早苗あり
外つ国の人を思いて晦日蕎麦
亡き母の植えて好みし乱れ萩
街灯の死角を照らす月涼し
樟若葉大きな空はそのままに
木も草も居場所定かに梅雨深し
ふり仰ぐ天の深さよ春の雪
少年に空青かりし終戦日
黄水仙咲きしばかりの香に会いぬ
お礼 (祝恵子)
2009-04-23 22:42:30
信之先生、正子先生、矢野文彦様の句集「樟」お送りいただきましてありがとうございます。
矢野文彦様、句集「樟」の出版おめでとうございます。読ませていただきました。前向きなお姿に元気をいただいた気がいたします。好きな句を10句あげさせて戴きます。

白南風に真向かうもよし車いす
落葉踏む感触もあり車いす
闘志まだあり立春の目覚めかな
梅雨寒や山羊が顔出す幼稚園
しゃぼんだま一期一会の光もつ
亡き母の植えて好みし乱れ萩
車椅子薄一本挿し戻る
七夕竹に一日華やぐデイの部屋
介護士も踊る浴衣の娘となって
身に余る冬至の夕日部屋中に

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