負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

サイボーグは科学の夢より人間喪失への警告である

2004年09月12日 | 詞花日暦
合衆国の法律には、機械を相手どって
訴訟が起こせる規定があるんですか
――スタニスワフ・レム(SF作家)

 ポーランドの作家スタニスワフ・レムは、それほど一般になじみがない。最近、リメイクされた映画『ソラリス』の原作者である。むろんタルコフスキーの映画『惑星ソラリス』も同じで、この頃から日本にもやや広く知られた。ただし世界的には、前衛SF作家として高名である。
 最初期の作品にサイボーグをテーマにした喜劇がある。舞台はアメリカ、さまざまな人体改造を受けたプロのカーレーサーが人体機器製造会社に訴えられた。裁判は冒頭から被告の認定尋問でもめる。召喚状が送付されたのは、「機械にか、それともこのおれ?」。訴えられているのは、れっきとした人間か「単なる物品」か。法廷は混乱の内に延期される。
 サイボーグは『ターミネータ』『ロボコップ』のアメリカだけではない。人造人間『フランケンシュタイン』『ゴーレム』の古い歴史がヨーロッパにもある。人間が未来に託す科学の夢というより、むしろ人間喪失のほうが大きなテーマ。社会機構も人間も機械化された時代への警告と見るべきだろう。