菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

講演録「実務家紹介」

2013-07-06 08:00:00 | 法曹への志し

 6月15日(土)に開催された慶應義塾大学法科大学院入試説明会における講演録「実務家紹介」ご紹介いたします。法曹を目指される皆様のご参考になれば幸いです。

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 これから法律実務家についてお話をさせていただきますが、お手元のパンフレット26-27頁もご参照ください。 私の場合、もともと法律家志望だったわけではなく、会社員として社会人のスタートをきりました。営業企画やマーケティングを担当した後、在職中に司法試験に合格し、社会人になって約10年後に法律家の仕事に転向したのです。

 まだ当時は「旧司法試験」と呼ばれていた時代。例年約3万人が挑戦し、そのうち29,500人くらいは落ちてしまうという試験制度でした。また、受験予備校というものも発展途上で、十分に確立されてはおりませんでした。そんな中、ほとんど独学に近いかたちで勉強しながら、この世界に来ることができたのは、偏に司法研究室のおかげだと思っています。 当時の慶應義塾には「司法研究室」という機関がありました。週末そこに通いながら、若手実務家や合格者のゼミで勉強したり、答案練習会に参加したりしたのです。普通のビジネスマンとして働きながら、割に早く司法試験に合格できたのは、この司法研究室での勉強があったからです。

 この司法研究室出身の法律家たちが、現在「三田法曹会」を支える一大勢力となっています。そのことも影響してか、司法研究室の良き伝統が、そのまま現在の慶應義塾法科大学院に継承されているといっても過言ではありません。三田法曹会については、パンフレット28-29頁の見開きに座談会形式でご紹介をさせていただきましたので、どうぞご覧ください。
 皆さんも慶應義塾に参じていただければ、三田法曹会のメンバーになっていただけますし、当然のことながら司法試験合格のサポートも行います。合格後には就職・就業のお手伝いもさせていただきますし、実務法曹としてご活躍されるようになった後は、このパーソナルネットワークの中でお互い研鑽を積み、お互い頼り合える機会が得られます、そういう意味でも、慶應義塾で学んでいただくメリットが十分にあるのではないかと思います。


 実務家の視点で法律をどうみているか、ということを少しお話ししたいと思います。

 実務法曹は立法者ではありませんので、現に存在する法律の条文を解釈・適用することに集中しています。法解釈に際して「私はこう思う/こうあるべきだ」と述べるだけでは、たんなる個人の意見を表明したにすぎず、実務家の世界では通るようで通らない話です。眼前の事実を前提として、条文の文理がもつ客観性・論理性と、法の解釈と適用による結果の妥当性が要求されるのです。

 これによって相手を(法廷の場では裁判官)を説得するのが、我々の仕事であります。法科大学院における実務家教員としての最大の任務は、実務教育の側から理論的教育に対して架橋し、もって高度な専門的知識と十分な職業倫理を身につけた法曹を養成することです。多くの実務家が慶應義塾の法科大学院に馳せ参じておりますけれども、こうした実務感覚を反映させながら講義を進行しています。

 法律学でまず重要なのは結論ではありません。むしろその結論に至る論理の筋が重要なのです。もちろん結論が日常生活の常識を壊すものであっては困ります。法律家としては、その常識に法律的な根拠を提供しなければなりません。したがって、法律家には、①正義・公平の価値観を有すること、②法の趣旨を正確に理解できる能力のあること、③条文の操作や法の解釈・適用といった技術を身につけていること、④事案の解決にあたって結果の妥当性を見通せる力があること、などの資質が求められるのです。

 これらの資質を体得するためには、理解力・推理力・判断力・分析力・論理力・表現力などの能力特性の存在が不可欠です。法科大学院に入学した後は、不断の勉強によって、これらの能力(とくに理解力・推理力・判断力・論理力)を伸長させていかなければなりません。条文の素読と基本書の精読こそが、法律を学ぶ王道です。このことは、憲法でも民法でも刑法でも訴訟法でも、そして私が現在担当している商法や経済法でも同様でありまして、そうした視点から慶應義塾大学法科大学院の教育が実施されていることも一言ご紹介したいと思うわけでございます。

 法曹養成制度の見直しを検討すべきではないかとの状況もございます。しかしながら、この法科大学院がわが国の法曹養成のメイン・ルートであることは、当面いささかも揺るぐものではないと考えております。したがいまして、法科大学院で教育に携わっている我々としても、自負と責任をもって、ぜひ皆様方と一緒に勉強していきたいと思っている次第です。 先ほど片山委員長から「半学半教」のお話がありました。これは「教うる者学ぶ者との師弟の分を定めず」という慶應義塾のよき伝統です。教員が一方的に教え、学生が一方的に学ぶというのではなく、我々はともに学び、ともに教え合い、そしてお互いを高めていこうという姿勢です。法科大学院に学ぶ方々にも、ぜひ「半学半教」の精神に基づく教授陣とのコラボレーションを満喫し、よりよき法曹に育っていただきたいと望んでおります。

 冒頭にも申し上げたとおり、私自身は最初からこの仕事に就きたいと思っていたわけではありませんでしたが、いまでは弁護士になって本当によかったと感じています。法律家は、やりがいのある、いい仕事です。自分が努力すれば、努力した分だけ、周りの人々から感謝され喜んでもらえるからです。ぜひ皆さんがその職に就けるよう、来年からお手伝いをさせていただければと願っております。


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