菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

講義録: 株式会社の基本構造(6) ~会社法上の債権者保護制度

2012-06-01 00:00:00 | 会社法学への誘い

 それでは、株主有限責任の原則と所有と経営の分離によって不利益を被るおそれのある第三者を保護するため、会社法はいかなる制度を用意しているのでしょうか。
 債権者保護の制度はいくつかありますが、なかでも重要なものとして、①資本、②取締役等の第三者に対する責任、③法人格否認の法理があります。

 資本とは、会社財産を確保させるための一定の金額(基準量)であり、一種のノルマのようなものです(会社法445条1項)。会社財産が債権者にとっての唯一の担保だから、債権者を保護するためには、会社財産、すなわち債務弁済能力の確保を図る必要があります。そこで、会社に資本というノルマを課し、会社財産の実質的確保を図ったのです。
 たとえば、「当社の資本金は1億円です」と経営者が言うのならば、1億円に相当するくらいの財産は会社に確保しておけというノルマを課しています。この資本制度は、債権者のリスク管理にとって一応の目安になります。しかし、現実には主として設立時と配当規制の面でしか機能しておらず、最低資本金制度が廃止されたこととも相俟って、資本の存在意義は希薄化しつつあります。

 取締役等の第三者に対する責任は、取締役等が個人として責任を負う場合があることを認めたものです(会社法429条)。また、法人格否認の法理も、会社の背後にいる支配的な株主などの責任を追及するための法的構成です(最判昭和44年2月27日民集23巻2号511号)。これらはいずれも、会社とは別人格の個人、たとえば取締役や支配株主に対して、直接に債権回収の途をひらくものです。

(次回に続く)