株式会社は、現代経済社会の最も重要な取引主体ですから、1年365日24時間、日々きわめて大量の取引を行っています。多数の債権を取得する一方で、膨大な債務もまた負担するのです。そこには必ず会社に対する債権者等の第三者が存在しています。
しかし、株式会社においては、商売の元手を集めやすくするために、株式という資金調達手段を導入し、株主有限責任の原則を採用しました。このため、債権者は、会社所有者である株主から直接債権の回収を図ることができません。
個人経営の商人の場合であれば、売掛代金などを支払わないでいると、取引先が「お前どうしてくれるんだ、早く売掛金を払え」と怒鳴りこみ、家の箪笥に隠していた金まで吐き出させるわけですが、株式会社のオーナーである株主には、有限責任の原則がありますので、「私どもは出資した限りでしか責任を負いませんよ。あなたの債権を保証するような立場ではありませんから」などと言われてしまいます。
さらに、合理的な企業経営を実現するために、所有と経営を原則的に分離しています。会社経営者はその能力をかわれて企業経営を委ねられた者にすぎず(会社法330条)、会社そのものとはまったくの別人格なのです。
したがって、経営者は原則として、第三者に直接の個人責任を負うことはありません。いくら「経営者なんだから責任とれよ。うちの売掛金をお前のところで払ってくれ」と迫っても、「いやいや、私は会社に頼まれて経営しているだけなので、あなたとは何の関係もありませんよ」と言われるのが落ちです。
(次回に続く)