菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

放棄条項(No Waiver)

2012-01-07 00:00:00 | 国際法務
国際法務入門 第14回

 放棄条項とは、相手方当事者に契約上の不履行があった場合、たとえ当該不履行に対して行使できるはずの権利を行使しなかったからといって、その当事者の権利が放棄されたとはみなさない、という条項のことである。国内契約書では規定されることがほとんどない条項だが、英文契約書には一般的な条項である 。

 No waiver of any right hereunder shall be deemed to be a waiver of the same right on any other occasion.
(本契約に基づく権利をいったん放棄しても、それは他の機会における同じ権利の放棄とはみなさない。)

 たとえば、賃貸借契約上、「賃借人が2カ月以上の賃料の支払いを怠ったときは、賃貸人は、賃借人に対し、何らの通知・催告を要せず、直ちに契約を解除することができる」という定めがある場合、賃借人が3カ月遅滞して過去分の賃料を支払ったが、賃貸人が特段の異議を申し立てなかったとする。その後、賃借人が再び賃料支払い怠ったため、賃貸人が賃借人に解除を通知した場合にも、仮に賃借人側から「賃貸人は、前回も遅滞した賃料を異議なく受領したのだから、その解除は無効である」と主張できるとするならば、賃貸人は到底これを許すことができないであろう。

 そこで、このような主張を遮断するために、あらかじる契約に放棄条項を規定するのである。これにより、相手方の不履行に対し、たとえ契約上の権利を行使しなかったとしても、その後の不履行を容認したことにはならないことを明示したことになる。

 国際取引契約には放棄条項が一般条項として規定されるのが通例であることから、その反対に放棄条項を盛り込んでおかなければ、不誠実な債務者から「権利放棄を容認する意思あり」などと主張される危険性もあるため、注意が必要であろう。


(次回に続く)