菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

講義録: 株式会社の基本構造(3) ~所有と経営の分離(前編)

2012-01-03 00:00:00 | 会社法学への誘い

 下の図をみてください。

     

 株主は、株主総会を組織し、総会を通じて会社経営の執行部を選任します。その意義をもう少し詳しく考えてみましょう。先ほどのキャッシュ・フローを別な面からみれば、株主は株主総会を通じて経営者を選び、有能な経営者が金儲けをしてくれた結果、その利益は自分のところに戻ってくるという循環システムになります。

 これは、日本の国の統治機構とよく似ていますね。国民は代表者を選び(憲法1条・15条)、代表者は議会を構成します(同法41条)。そして、議会の信託を受けた政府が構成され(憲法67条・68条)、政府は国民に福利を享受させます(同法64条・25条)。これを「よし」とした国民は同様の投票行動に出ますし、不満に思った国民は別な代表者を選ぶ、というのが民主主義の循環システムです。このように、会社の組織構造と国の統治機構はよく似ているように思えますが、その意義をもう少し会社法的に詳しく考えてみましょう。

 何度も説明しているとおり、株式会社は、営利を目的としています。したがって、ごく簡単に表現すれば、上手に金儲けができる組織でなければなりません。したがって、会社が営利を目的とする以上、会社法は、「金儲けにとって最も合理的・効率的な組織運営はいかにあるべきか」を前提に条文の仕組みをつくっているのです。

 ここで歴史が証明する一つの事実があります。それは「金のある奴が、必ずしも金儲けが上手いとは限らない」ということです。逆にいえば、たとえ今、金に困っていても、商才に長けている人間はいくらもいます。たとえば、非常に金回りはいいのだけれども、商売が下手な友だちがいる一方で、ふだんはどうもぱっとしないが、大学祭で模擬店などをやらせてみると、妙に繁盛してしまうような仲間が周りにもいらっしゃると思います。

(次回に続く)