Sugarのちょっとお寄りなさいよ

ジャズ、クラシック、オーディオ、そしてコーヒーの話題をお届け

ヴィトウスが描く壮大な音曼荼羅『ユニバーサル・シンコペーションズII』

2007年06月10日 | Jazz

世の中には、恐ろしい音がする盤というのがいくつかありますが、近年聴いて一番驚いた盤が、この『ユニバーサル・シンコペーションズII』(ECM2013)。
ミロスラフ・ヴィトウスの大ヒット作『ユニバーサル・シンコペーションズ』(ECM1863)の続編のようなタイトルですが、実際の内容は全く別物です。今回は前回のようなオールスター・キャストでもありません。もちろんランディ・ブレッカーやボブ・ミンツァー、ボブ・マラック、アダム・ナスバウムらの腕利き連が参加していますが、まぁ、前回と比べたらば、という感じです。
さて、ヴィトウスは現在、イタリアに住んでいるようです。そしてそこにあるのがユニバーサル・シンコペーションズ・スタジオ。たぶん自宅をスタジオに改造したところだと思われますが、そこで本作のオーケストレーションやアンサンブル、コーラスなどと言った部分を収録しています。もちろん録音エンジニアは、ヴィトウス本人(!!)というのがとてもビックリなのですが・・・。(前作でもやっていますねぇ)
本作の成り立ちというのは、彼が過去10年以上に亘って取り組んできたいろいろな楽器の音源集のことを知っていないと本当の意味(意義)も分からないかもしれません。(昔は高かったけれど、随分とお安くなりました。そっちの方がビックリ)
さて、ここからは推測ですが、ヴィトウスはオーケストレーションなどの全体の構成(アレンジの細部まで)をまず考えて(プリ・プロダクションを作っているかもしれません)、譜面にその細部をしっかりと起こして、その後バンド演奏を録音して、自宅スタジオで、オケなどをオーバーダブしたというような感じに本作は聴こえます。つまりバンド演奏を録音した後にアンサンブルを被せたのではないのではないかということが感じられるわけです(細部を修正しているでしょうが)。
ちょっとまどろっこしい書き方をしているのは、ご存じのようにヴィトウスはサンプリング音源(ミロスラフ・ヴィトウスのオーケストラ & コーラス・ライブラリー)の大家です。その中でも一番有名なのはストリングスのサンプリングCD(チェコ・フィルの音源)でしょうか。どうもこれらの音源集をここではパーフェクトに使っているような感じがしています。
まぁ、全くの逆に、プリ・プロダクションの時点で、彼のサンプリング集を使って今回のCDの全体の骨格を作って(聴けるようにして)おいて、参加ミュージシャンにそれをしっかり聴かせた後にバンド・レコーディングをしていったということも考えられますが。いずれにしても、今回のアンサンブル、コーラス、オーケストレーションといったところは全てサンプリングによるものではないかと僕は思っているわけです。
演奏なのですけれど、もう1曲目の<オペラ>からビックリ仰天。特に出だしの部分(最後の部分も)は面白いですねぇ。なぜオペラと題されたかが分かるような気がします。今回収録されている曲の各々のバックグラウンドには、ウェザーリポートの臭いやマイルスのビッチェズ・ブリューの感覚などを彷彿とさせる部分がたくさん見受けられます(前作もそうですが)。この曲でも途中から一転して8ビートで迫るような所を聴いているととてもその感を強く感じます。
希有壮大なオーケストラのパートやバンドのソロ・パートなども練りに練った仕上がりで、聴き手に息付く暇を与えません。本作全曲に聴き手側の集中力も必要とさせて、まさに完璧な作りです。正直1枚を通して聴けませんでした。(;´_`;)
ストリングス・オーケストラの細部の音ははもちろん、グランカッサの「ドッシーン」と鳴る音に驚嘆、ティンパニーの革の震えまでも再現、細かいところではウィンド・チャイムが遠近感を伴って鳴るという、もう物凄い音数三昧というわけです。圧倒的ですね、これは。実音であるドラムスの録音で大きい空間を感じさせるところなどもやはりECMならではかと。
この1曲目から驚かされるわけですが、2曲目、3曲目と聴き進んで行っても次々と驚かされる仕掛けがタップリというのは、まさに恐ろしい作りです。どの曲にもヴィトウスの手腕(センス)が随所に光っているというのが体感出来ます。
今回の作品ばかりは、生粋のジャズ・ファンにどう迎えられるかとても楽しみなところなのですが、クラシック・ファンの方にも、オーディオ・ファンの方は特に、必携の作品になるのではないかと思っています。ましてや、あなた自身のオーディオをしっかり試されてしまいますから。本当に怖い作品です。掛け値無しの驚愕盤。日本では6月20日発売予定。

Miroslav Philharmonik(フル・オーケストラ・ワークステーション)
http://www.minet.jp/miroslav/philharmonik/
デモンストレーションのフラッシュをご覧ください。本作の謎がこれでかなり見えてくるはずです。



最新の画像もっと見る

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こちらからもTBさせていただきました (nary)
2007-06-19 23:31:16
本作は基本的にはバンドの方を先取りしておいて、それにサンプリング音源を被せていったような気がするのですが、ベースソロのなんかも後録りしている部分もあるかもしれませんね。
あとホーン楽器も部分的にオーバーダブしているような感じでした。
いずれにしても最終的には壮大なサウンドに仕上がっていて、さすがにヴィトウスは凄いです!
返信する
Unknown (voice and breath)
2007-06-21 19:58:16
入手しました!「世の中には、恐ろしい音がする盤というのがある」というお言葉が、その通りですね。

低音に関しては、鬼太鼓座の大太鼓のような迫力です。重厚・壮大のみならず、ものすごい解像度。しかも現実的には考えにくい組み合わせの音。
あの世で聴いている音楽かに、錯覚するくらいです。

そして肝心の音楽は・・・私はもっと修行が必要なようです(笑)。
返信する
実に恐ろしか! (Sugar)
2007-06-21 22:06:31
<naryさん
バンド先録りの件なのですが、曲のプリプロをバンドに先に聴かせておいて、バンドの音を録音。その後、修正を加えつつサンプリング音源をオーバーダブ(?)した作品ということだと思います。
まぁ、ヴィトウスの自己スタジオでじっくりと練り上げた秀作かと思います。

<voice and breath様
お久しぶりです。入手されましたか! 私もアドバンス盤から輸入盤と聴いてまさに平身低頭です。
オケ部分を本物のミュージシャンで作っていたら、資金がいくらあっても足りないでしょう。リハだけでも金食い虫になってしまうかと思います。
それをヴィトウスが作ったサンプリング音源で一気呵成に仕上げたのだと理解しています。
ゆえにオーバーダブというより、ある種のライン録りのクォリティをもっていますのでS/Nの良さは想像以上にあります。ただし、本物のオーケストラをマイクで録音したものとは違い、どうしても奥行き感が多少欠如しています。それを空間表現の上手なECMの音にしてしまうところがレーベルの力なのかもしれません。
返信する
ヴィトトウス (FK)
2007-06-21 23:40:56
お仲間に、アルバム・セールス7万5,000枚を、いくらひいき目が高じたにせよ「たった7万....」と言ってる人がいますが、ノラ・ジョーンズじゃなく、ジャズですよコレ、いかなる尺度で「たった」と言えるんでしょう。それから、ヴィトウス・ライブラリーのすべての元始は、マイクロフォン録音の生音です、ということと、「オーバーダビングの爪痕があちこちにあり」みたいな想像解析して何が面白いの、と。たとえば、どこをしてそう仰るんですか。
返信する
USⅡ (チャスラフスカ)
2007-06-22 20:40:09
スイングジャーナルのレヴューで、ジャコ・パストリアスとかぶると書いた筆者の何たる精神的貧困。根掘り葉掘り探っても、縁もゆかりもないのは決定的。これほどハズしたレヴューは近年まれ、なのでぜひ一読を。
返信する
結構悩みました (monaka)
2007-07-08 15:14:10
sugerさん、こんにちは、monakaです。
sugerさんのこの記事を読み即買いでしたが、スケールが大きすぎました。休みの日にゆっくり楽しむ事が出来ました。録音の仕方がきになりますが、オーケストラのサウンドが後ですとソロパート味気なくおもいます。目的からの宿命でしょうか。悪いと思いません、兼ね合いです。
返信する
TBさせていただきます (910)
2007-07-09 12:30:56
はじめまして。
TBどうもありがとうございました。
こちらからもTBさせていただきます。

サンプリングのことはおぼろげながら理解してはいたのですが、ここを読んで、なるほど、と思いました。
しかし、リアルなオーケストレーションですよね。
返信する
うだうだ、、と、、 (すずっく)
2007-09-07 09:47:09
一夏、、過ごしました。
これ、最初きいたときも凄い、って、おもったんですが、、
いろんな意味で、「規格外」
さすが、ヴィトウスだなぁ。。
って、思いました。

毎回、毎回、こういう作品だと、ちょっと、こまちゃうけど、、長年ためてきた音源使って、何か作りたくなるのってわかりますよね。

さて、お願いです。
バトンがまわってきました。
お題は「ジャズ・ヴォーカル」です。
お願い、、うけてくださいませ。
ええと、内容はブログ、、みてね。
返信する

コメントを投稿