(前回からの続き)
通常の場合、わが国において為替介入といえば「円売りドル買い」で決まり!ですが、ここでは「逆張り」、つまり日銀「異次元緩和」の円安ドル高の潮流のなかで、政府・日銀は為替市場でドルを売って円を買い戻します。
この「逆張り為替介入」には2つのメリットがあります。1つ目は同緩和策にともなう円安方向への過度の流れを抑制できること。そして2つ目は、現時点でのレート(1ドル100円前後)でドルを売って円を買い戻せば、日本政府(外国為替資金特別会計:外為特会)は為替差益を手にすることができるということです。
この2点目について補足すれば、安倍自公連立政権は、黒田日銀の「量的・質的金融緩和」が続いているうちに、2010年9月から2011年11月までのあいだに民主党政権によって行われた総額16兆円あまりの為替介入(ほとんどがドル買い)で積み上がったドルを売っていくとよろしいのでは、と思っています。
「そんなことをしたらたちまち円高ドル安になってしまう!」との声が飛んできそうですが、(たぶん・・・)大丈夫でしょう。繰り返しになりますが、黒田日銀は円のマネタリーベースをどんどん拡大中(円安の流れを拡大中)です。そしてアメリカ経済の回復傾向を受けて世界経済は「リスクオン」モード(金や円が売られ、ドルやユーロが買われるモード)となっています。そして何よりも米FRBのQE(量的緩和)が米国債価格とドルを下支えします。だから16兆円程度の少額(?)であれば、ドル/円は急落することなく、金利も急騰することなく、つまりアメリカに迷惑をかけることなく、政府・日銀は十分にドル売り円買いが可能とみています。
かりに上記期間の為替介入で買ったドルを全額売却できたとします。介入当時の為替レートは1ドル70円台後半~80円台前半、そして現在は1ドル100円弱だから、政府は単純計算で4兆円程度の巨額の為替差益が得られることになります。以前も記したように、外為特会は数十兆円規模の為替差損を抱えているといわれているので、この程度の差益では「焼け石に水」かもしれません。それでも自公連立政権としては、民主党時代の為替介入に要した円資産を4兆円もの為替差益とともに回収することになるわけで、それはそれで国家への立派な貢献であり、堂々と胸を張れる政策実績となるはずです。
ということで、日銀「ベースマネー拡大策」のもとで実行されるこの「逆張り為替介入」は、同拡大策のデメリット(行き過ぎた円安がもたらす輸入インフレなど)の発現を抑え、わが国の金融政策が通貨安政策であるとの諸外国からの批判を和らげるとともに、外為特会の収支改善にもつながるなどの数々のプラス面があって、なかなかの妙案だと自画自賛しているのですが、いかがでしょう・・・。
と、あえて極論を綴ってみました。まあ実現は難しいでしょう。この逆張り策は、政府・日銀が円のベースマネーを拡大しながら、その一方でそれを回収することになるわけですから。実際にこれをやったら、日本の金融・為替政策には節操がない、といった批判を各方面から浴びてしまいそう。それから、いくら市場が「リスクオン」でも、日本が大量にドル(米国債)を売ることにアメリカは賛意を示さないでしょう。
でもこのまま政府・日銀が「異次元緩和」を続けて円安を放置すれば、諸外国から一層はっきりと「日本は通貨安政策をとっている」と非難されるおそれが高まります。さりとて、いったん「2年間でベースマネーを2倍に拡大する」と約束した以上、同緩和を縮小するわけにもいかない・・・さて、どうしたものか?やはり個人的にはこの「リスクオン」の期間に、過度の円安進行を止めるため、そして何よりも国富のこれ以上の喪失を防ぐため、政府・日銀には少しずつでもよいからドルを売って円を買い戻してほしいと思っているのですが・・・。
アメリカ財務省の「円安誘導けん制」コメントを受けた政府・日銀の次なる手に注目したいと思います(本音を言えば、「リスクオン」は長くは続かず、為替は自ずと「円高ドル安」に戻っていく?)。
(「アメリカ財務省『円安誘導けん制』どう応えるか」おわり)
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