(前回からの続き)
前回書いたことを繰り返しますが、ユーロ圏の事実上の盟主であり、欧州安定メカニズム(ESM)への最大出資者(出資比率27.1%)のドイツにすれば、「Brexit」(英国のEU離脱)に刺激されて域内諸国とりわけギリシャに代表される重債務国がEUを離脱することに関しては以下の2点からむしろ望ましいとの考えが成り立つと思われます。
一点目は、ESMの資産健全性の維持。先述のようにESMはすでにスペインやギリシャなどに対して合計数千億ユーロもの融資をしているわけですが、彼らの経済状態からみてこれらの大半は貸し倒れ・・・どころか追い貸しはもはや不可避です(?)。そんななか、彼らの一部でも自分の方からEUを去ってくれたら、ESM債権のこれ以上の不良化を回避できるから、ドイツやフランスなどの主要出資国・・・の国民負担は増えずにすみそう。他方、彼らの脱退によって彼らのESM資本拠出負担分も引き上げられることになりますが、たとえばスペインの場合、同国の負担額が約830億ユーロに対して1000億ユーロを借り受けしており、差し引きでは借入超過・・・ということで、ESMにとって同国には出て行ってもらった方がありがたいわけで・・・
二点目は通貨「ユーロ」の信認強化です。上記2か国やイタリアといった国々は本質的に経常赤字国。ということは彼らがEUに留まる限りユーロはインフレ通貨であり続けてしまうというリスクがあります。ここで彼らがEUから離れて独自通貨(伊:リラ、西:ペセタ、ギリシャ:ドラクマ、など)に戻れば、ユーロのインフレ体質は大きく改善され、その信認が高まることに。まあこの場合、ユーロ高になって輸出産業にはマイナスな面もありますが、いっぽうでインフレのおそれを遠ざけることができるという点からドイツはこれをポジティブに捉えるでしょう・・・(?)
・・・冷静にみて上記はドイツの国益にプラス・・・ということで同国にはひょっとして、このたびのBrexitでナショナリズムを刺激された彼ら(PIIGS諸国)が勢いあまって「アディオスEU」してくれたらな~、なんて期待があるのではないか・・・。この場合、ドイツにとっては、彼らが追い出される前に自分たちのほうから出ていくわけだから、ヘンにドイツが恨まれずにすむので、なおけっこう・・・かもしれません。なのでドイツのEU離脱運動に対する公的スタンスはこんな感じになるのではないか―――「欧州の一体化を損なう意味で好ましいとは思わないが、どうしても離れたいというのなら、どうぞ」
いっぽう、他のEU圏諸国、なかでもPIIGS・・・のEU離脱派はそんなドイツとはまったく逆の立場でしょう。つまり感情的には「EUみんなのおカネ(ESMの資金)を借りるのにあれこれ厳しい条件を押し付けやがって!ならばEUを離脱してやる~!」みたいな具合ですが、実際にはトホホなことにESMすなわちEUのルールに従わざるを得ない・・・
こうして両者―――ドイツ(と一部の債権国)と重債務国―――のEU離脱を巡る本音(独:出て行ってほしい、後者:出ていけない)と建前(独:残ってほしい、後者:出て行ってやる!)はまったくかみ合わないことになる、つまり欧州の統合はおカネの問題が本質的な原因となって進まないことになる、と考えるわけです。