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パレスチナが問う西洋の大儀

2011-10-06 18:33:50 | Palestine

先月923日に行われたパレスチナの独立国地位承認と国連加盟承認申請についての感想と解説記事執筆のリクエストを戴いたので、誤解を恐れず敢えてカジュアル、コンサイスにアプローチしてみたい。

  

≪パレスチナ問題は複雑怪奇で難しいし、宗教問題、特にファナティックな一神教徒同士の宗教間闘争の様で解らない... 何はともあれ喧嘩両成敗で合法的、平和裏に双方の話し合いで一日も早く解決して欲しいものだ...≫

 

と言う様な感じが、多かれ少なかれの多くの人々の一般的な感想と懸念なのだろうことは、あちこちでよく見るコメントやらで察せられる。

 

パレスチナ問題というのは、人権擁護に賛同すると言う者なら人類の誰一人として、パレスチナ人達の人権擁護と人命保護の立場に立たない訳にはいかない問題なのだ。 パレスチナ人達が代々生きてきた土地の上にこれからも生きていくための独立を支持しない訳にはいかない、そう言う性質のユニークな問題なのだ。

 

1947年以来今日までパレスチナ人達の個人団体、全てのレベルと全ての領域で犯されて来た、パレスチナ自身の全ての過ちと『罪』の一切とも、全く完全に違った次元で、世界の誰一人、何一つ、パレスチナに起こった事、また今も起こり続けていることを正当化できる口実とは決してなり得ないのだ。

 

もう一度言うと、パレスチナとその土地に住んだ人々と、今もそこに住み続けている人々に起こり続けている事への言い訳や正当化の理由などは、何一つこの世には存在し得ない、と言う性質の問題なのだ。

 

この点をハッキリさせた上で、何故この時期にパレスチナ人を代表する公式代表組織PLO=パレスチナ解放機構とPA=パレスチナ暫定自治政府組織は、国連加盟諸国に対し、パレスチナ独立国地位とその国連への加盟承認を正式に申請したのかを理解する必要がある。でも、それは誰の目にもそんなに簡単明白な事ではないのかも知れない。

 

1947年に同じく国連は、英国統治下のパレスチナへ西洋世界から移民し続けた欧州人移民人口がおよそ3分の1に達していた時、国土の3分の2を移民へ分割譲渡独立させる採択決定を下した。

 

5千年以上の歴史ある地域にずっと住み続けていた元々のその地域の住民人口の3分の2は、国連と言う全く外の『世界』の権威と権力によって、自国国土の3分の2を取上げられ、欧州での受難の故に寛容に受け入れてきた筈だった欧州移民に分け与えられ、全く別国とされしまったのが、聖書物語のイスラエルとは何の関係も無いが同じ名前を選んでつけた『イスラエル』と言う国だ。

 

何故聖書物語とは関係が無いかと言うと、第二次大戦前//戦後から欧州、特に東欧州からパレスチナへ移民して来た人々の殆どは、ユダヤ教に集団改宗した中央アジア地域の人々の子孫であって、24百年前から同じ地域に住んでいたアラビア半島のセム語族のユダヤ教徒とは何の歴史的繋がりは無いからなのだ。

 

要するに歴史的関連性も地理文化的関連性も全く無い西洋からの移民が、原住民から土地を取上げ自分達の独立国を打ち建てたアメリカ合衆国に大変よく似ている性質の成り立ちなのだ。

 

パレスチナ人達は、自分達の意見と権利を飛び越えて、国連と言う外国世界権力によって独立国地位を与えられた新誕生国により、膨大圧倒的な武力によって土地家屋を奪われ、諸外国へ追い払われ難民となり今日にいたっている。

 

その当初より、戦闘をもって立ち向かい、阻止しようと持てる限りの武力をもって抵抗、抗議、ゲリラ闘争し続けたが、何の効果も成功もしなかった。武力をもって戦えば闘うだけ負け続け、国土を失い、難民化し続けた。

 

それでも国連世界諸外国は助けの手を伸べる事無く、武装闘争を止める事を説得し続けた。 そしてその世界諸国の説得を聞き入れて武装解除に踏み切り、完全に武装闘争は停止してしまった。 再び国連世界諸国の要求を受け入れ、指示推薦に従い、外交話し合いの席についた。

 

核兵器さえも所持し、アラブ諸国全ての軍備を合わせても更にその数倍も凌ぐほどの武力を保持する無敵の隣国イスラエルと、完全非武装丸腰のまま和平の話し合いにつく事を世界に要求された。マドリッドに始まりオスロを経由し、その後幾重もの仲介試みを経て、昨年9月までおよそ20年、何の解決も見ないまま和平交渉は続けられていた。

 

その20年のパレスチナ側の一方的非武装丸腰和平交渉の間にも、国連世界が承認したイスラエルは、国連提案国境線を越え、『入植地』という名の直接侵略と軍事占領によってパレスチナ人達の土地家屋は奪われ続けた。

 

リビヤのカダフィ独裁政権に反対して蜂起したリビヤ民衆を擁護するとして、国連世界諸国の同意を得た欧州共同軍NATOは今もリビヤ政府軍に空爆軍事行動を続けている。 反乱民衆軍は外国から武器を無償で与えられ、リビヤ民衆は自由と平等をリビヤの地で得る権利がある事を国連世界諸国が認め、支援し、武装闘争までも支援されている。

 

そして同じく国連世界諸国は、リビヤ反政府民衆の暫定政府を独立のリビヤ代表として国連加盟を承認した。

 

イスラムアラブ国リビヤの自由と平等、自治権は圧倒的西洋武力をもっても守られ続けている。

 

では、国連世界諸国のに要求に従い続け、終わりの無い妥協を受け入れ続け、非武装での話し合いを20年も続けた基督教徒も回教徒も住むパレスチナは、何の妥協も無く何の到達へも至らないどころか、着実に侵略、土地家屋没収を続けている核武装国イスラエルから、一体誰が擁護し守ってくれるのか。

 

イスラエル以上の武力を持つ米国は昨年9月、イスラエル首相の入植地住宅建設続行決定を止める事ができなかった。 リビヤ反乱軍を守りリビヤ政府を爆撃し続けるNATOも、非武装パレスチナ暫定自治政府へ擁護も無く、イスラエルによるパレスチナの家屋破壊、土地没収収奪を阻止してくれなかった。

 

繰り返して言ってみる。では、1947年に国連世界諸国が決定して独立を与えたイスラエルからは、非武装無抵抗故に今も土地を奪われ続け、多くの人々は裁判無く拘留され続け、あらゆる嫌がらせと侮辱を日常茶飯事に受け続けるパレスチナ人達は一体世界の誰が守ってくれるのか。

 

今この時期に、パレスチナ暫定自治政府大統領が、国連常任理事国メンバー、世界4大国にも説得され得ず、独立国地位承認と国連加盟承認申請に踏み切ったのは、

 

人々は今も土地を奪われ続け、世界に散った難民は帰る土地も無く、何の武力も持たないにもかかわらず、国連軍さえも派遣されず、NATOも米軍もやってこないパレスチナと言う土地に住む人々に、国連世界諸国はどうしろと言うのか?

 

その問いを1947年以来初めて、パレスチナ人達が公式に真正面から、その問いの根源を作り出した、その同じ国連世界諸国に問うたのが、パレスチナ暫定自治政府大統領、PLO議長のアッバス氏の国連総会での演説と独立国地位承認、国連加盟承認申請と解釈できる。

 

 

国土を奪われ、難民として世界に散らされた後63年を経たこんにち、20年の非武装外交努力の話し合いの末、元来のパレスチナ領土の22%の国土での独立さえも認められないのなら、ではこれ以上一体どうしろと言うのか...と

 

パレスチナ人達は、私達に、全世界に、人類そのものに真正面から問いかけている。 

 

それがパレスチナが国連世界諸国へ謙虚に、丁寧に、礼儀正しく提出した申請書の意味であろう。

 

パレスチナ側は、国連安保理事会での米国拒否権行使の可能性は勿論元より承知の上だ。 承認されないことを承知の上で何故あえて無理押しするのか。

 

それは、2010年秋から火が点き今日まで続いている、所謂「アラブの春」と呼ばれる、ドミノ現象的に拡がりつつあったアラブ民衆の改革要求の波と、『アラブ民主化』と称して突然、公式に反政府民衆側支援に回った欧米諸国政府の【自由民主化】支援政策を背景にしての【歴史的タイミング】を逆手にとったパレスチナの外交戦略だからだ。

 

この申請が仮に承認されなくても、60年以上待ち続けているパレスチナ側には、特に今更大きく失う物も既に無いが、欧米諸国、特に拒否権発動した場合の米国は、未来永劫歴史の上に、自由・独立・民主主義言う米国建国理念に矛盾して、パレスチナ独立承認への拒否権行使と言う、公式記録を残す事になるのだ。

 

これは決して無視できるインパクトではない。

 

欧米西洋世界が力ずくで「民衆の自由と民主主義」を打ち立てるための闘いとした、イラク戦争やスーダン分断、リビヤのNATO民衆支援、今にも始まりそうなシリアへの介入... 

 

こうした欧米西洋世界のアラブ民衆への民主主義と自由、独立の支援政策に対し、それではパレスチナ民衆の基本的人権、自由独立も同じく支援賛同されるべきではないのか、と公式にパレスチナが問うているのがこの申請の意味だと解釈できる。

 

その要求を米国が公式に拒否した場合、その事実が与えるインパクトは、西洋世界価値観の矛盾と行き詰まりの始まりを鮮やかに歴史の1ページに示す事になる。

 

失う物はもうこれ以上何も無いほどの極限に追い詰められた最も弱小な者達が得た外交カードは、歴史のタイミングと米国政府の強硬圧倒的なバイアス外交政策そのものの袋小路、となっているのが歴史のアイロニーだ。

 



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