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嫌われ松子の一生 [監督:中島哲也、主演:中谷美紀]

2006-06-11 18:44:06 | 映評 2006~2008
浅くて軽くて熱い、空騒ぎな映画。
ストーリーはそんなんでもなく、よくある女の転落人生。孤独を恐れ、結論は家族への回帰。
ギャグを散りばめ、スターを集めて、ミュージカル仕立て。暗い悲劇が楽しいエンターテインメントに大変身!!
・・・といっても、それだって別に珍しくはない。名作ミュージカルなんて悲劇がいっぱい。一々例は挙げないけど
松子の一生が戦後の昭和史とリンクする構成も素晴らしいと思うが、「昭和」ネタなら去年いくつかそんな映画が作られ、「昭和」で褒めようとすると後発ゆえに歯切れ悪くなる。
華麗な映像のデコレートなり、演技なりだって前作「下妻物語」と大きな違いはない
そんな一見すると古臭く感じるこの映画は、しかしながら猛烈に面白い。

-------「編集」への信頼と探求------
「下妻」で作った土台の上に立つ映画ではあるけれど、徹底的に細かく細かくカットを割りまくる姿勢、切りまくり繋ぎまくりの編集、ほとんど全カットになんらかの画像処理(CGの追加だけのことを言ってるんでなく、明るさ・コントラスト・色合い・画質etc...の調整は全カットに入れてると思われる)・・・撮影中よりも編集・録音などポストプロダクションの段階を最重視する姿勢。
これはもちろんPVやCMではごく当たり前なことなんだけど、長編映画で変質的なくらいそこに力を注ぐ中島哲也という監督は、国内では特殊だ。
編集とか録音って、演劇にも小説にも漫画にもなく、「映像」独特の作業だ。そこに力を入れる中島哲也は「映像作家」と呼ぶに相応しいし、映像の力を信じ、映像表現を探求し続けている。

CGの追加とか、ミュージッククリップ風の演出とか、そんな表面的な部分の話ではなく、基礎的技術とか知識もしっかりしている。
一番感銘をうけたのは音響の使い方である。映像と音響の対位法的使い方。
主人公がショックを受けた時、バックでかかっている明るいポップソングのボリュームがぐんと跳ね上がる(父が亡くなったと兄に教えられるシーンの音響の使い方は巨匠の域に達している!!)

映像のケバケバしさに目を奪われがちだが、シナリオ構成もよく考えられている。説明的モノローグの安易な使用はうるさ型の脚本家たちに突っ込まれるポイントだ。この映画では主に松子のモノローグで話が進む。しかし松子は映画開始後間もなく死体になっている。死人のモノローグってなんじゃいな?単なる説明のため?ま、仕方ないか・・・とあんま気にせず鑑賞していたら・・・
ぶっとんだ。
光ゲンジの**くんへのめちゃくちゃ分厚いファンレターの文面だったんだ!!
(ある場面では警察の調書ということになるのかもしれない)
こんなのアリか・・・? スキがない

さて、そうは言っても一番の魅力は下妻に引き続きのコテコテ加工映像と、異様に細かいカット割り。カット数の多さと画像処理は、情報量の異常に多い映像となり、観客に考える暇を与えない。有無を言わせず松子の世界にひきづりこむ。松子空間にひきづりこめ!!という監督の指令に続き、松子空間では松子の力は4倍になるのだ、みたいなナレーションが聞こえてきそう。
それはいいとして、編集の力で一級品の娯楽作品と化したこの映画。娯楽映画くらい編集だけでなんとでもなるさ・・・という編集至上主義の映画であるのかもしれない。

------俳優を信頼していない・・・からこそ引き出される俳優の魅力----
その一方で、この監督、編集の力への信頼に比べ、俳優とか演技といったことに対しては何も信頼していないように思う。
俳優はビジュアル重視。フレームの中で自分の望みどおりに動いてくれさえすればいい、と思っていそう。それは「演技」と言うより「動き」に近い。
ミュージカルシーンだって、ダンサーをずらり並べて振り付けつけて音楽にあわせて踊っているわけではない。それぞれのカットは別々に撮られ、編集ルームで音楽のテンポにあわせて継ぎはぎされたにすぎない。
一つ一つのカットは長くても2~3秒。3秒だけもたせてくれりゃいい、と考えているのか、沢山撮っていらない部分を削っているのか。
ちょっと小津やヒッチコックを思い出す。俳優の自由な演技を嫌悪した巨匠たち。彼らにとって映画は撮影に入った時点で頭の中で完成している。クランクインからクランクアップは、完成したイメージをトレースしているだけで、クリエイティブな作業とはいえない
中島哲也だって撮影に入ったとき、ほぼ完璧な作品イメージが出来上がっており、後は俳優がそのイメージと同じ動きをし、同じポーズをとってくれりゃいい。
小津のようにイメージと合致するまでテイクを十数回も重ねているとは思えない。アドリブしてもいいけどどうせその部分使わないぜ・・・って姿勢が感じられる。

ただ、だからといってこの映画の俳優たちが魅力的じゃないってことはない。
多くの人たちが小津映画の原節子を愛し、ヒッチコック映画でグレース・ケリーやキム・ノバクに恋してしまった歴史を忘れちゃいけない。
中谷美紀にとって間違いなく本作が彼女の代表作となるだろう。書き割りみたいな空間の中で機械的に動いているに過ぎないとしても、それは中谷美紀の魅力を最大限引き出すための演出方法なのだ。
様々な衣装、様々な年代、様々な表情、様々なシチュエーション、なんでもかんでもぎゅぎゅうづめのこの映画は「濃縮中谷美紀」である。ファンは楽しめるだろうし、ファンを増やしもするだろう。

-------最後に多分深読み--------
 やたら空っ風と砂ぼこりが写されていたいたけれど、黒澤の「用心棒」あたりへのオマージュかな?音と映像の対位法って黒澤の得意技だし
 ポン引きを刺し殺す時のギラリと光る包丁。ヒッチコックの「ダイヤルMを回せ」でグレース・ケリーが振るうハサミがギラリと光ったのを思い出す。
 オープニングタイトルなんかから古典ハリウッド映画への傾倒が見て取れるし、これら巨匠へのオマージュと考えることもありかな?

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