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ジョン・ウィリアムズ指揮フィラデルフィア・オーケストラ コンサート 2016年5月4日

2016-06-14 19:37:04 | 映画音楽

ゴールデンウィークにアメリカに行った。メインイベントは5月4日にフィラデルフィアで行われるジョン・ウィリアムズ本人の指揮によるコンサートであった。

これまで大好きな映画音楽の作曲家の来日コンサートにはできるだけ足を運んだ。
ジェリー・ゴールドスミスとエンニオ・モリコーネとデイブ・グルーシンは生で観ることができた。
だがもっとも好きなジョン・ウィリアムズは見る機会がなかった。かなりのお年だしもう来日はしないだろうと思い本物を見ようという願いは半ば諦めていた。
そんな時にこれまた大好きだがまだ本物を見たことのなかったジェームズ・ホーナーが飛行機事故で急死してしまった。
会える時に会っておかないと後悔すると思った。
さらにジョン・ウィリアムズ氏のご高齢を感じさせる心配なニュースもあった。
近年は仕事をセーブしてスピルバーグ作品だけにしぼっていた感のある氏が、そのスピルバーグの新作「ブリッジ・オブ・スパイ」の音楽を体調を理由に辞退したというのだ。
これは本当に氏の人生の幕切れが近いのではと不安になり、こうなったら氏が元気なうちにアメリカに行って本物を目に焼き付けてこようと思ったのだ。
とは言え、まるで自分で決めたような書き方だが、本当のところはこのアメリカ・ジョン・ウィリアムズ・ツアーを企画したのは妻だったのだ。

さてチケットを入手したが、メールで送られたプログラムも少し不安をかきたてるものだった。
全12曲のプログラム中、ジョン・ウィリアムズ氏がタクトを振るのは最後のスターウォーズ関連の3曲のみということだった。他はゲストコンダクターのステファン・ドヌーヴが指揮を務めるという。
やはりご高齢のため全曲は無理なんだなと思ったが、無理なさらずに、本当に一曲でもかまわない。なんならその姿さえ見れるなら指揮をしなくてもいいとさえ思った。

しかし、結論から言えばジョン・ウィリアムズ氏の健康不安は全くの杞憂に終わった。
指揮台に立ったジョン・ウィリアムズ氏の指揮はパワフルかつダイナミック。演奏の合間にトークも入れて聴衆を沸かせ、さらにプログラムにないアンコール曲を3曲も指揮したのだ。
生涯忘れ得ぬ夜となった。

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【演奏曲】
指揮 ステファン・ドヌーヴ
『サウンド・ザ・ベル』
『未知との遭遇』 組曲
『サユリ(Memoirs of a Geisha) 』サユリのテーマ〜Brush on Silk
『ハリーポッターと賢者の石』 ハリーの不思議な世界
『ドラキュラ』ナイト・ジャーニー
『E.T. 』地上の冒険

--休憩--

『レイダース 失われた聖櫃』 レイダース・マーチ
『やさしい本泥棒』テーマ
『ジョーズ』 バレル・チェイス

ここから指揮 ジョン・ウィリアムズ
『スター・ウォーズ フォースの覚醒』 レジスタンスのマーチ〜レイのテーマ
『スター・ウォーズ 新たな希望』 王座の間とエンドクレジット

アンコール曲 (指揮ジョン・ウィリアムズ)
『シンドラーのリスト』 テーマ
『スター・ウォーズ フォースの覚醒』 Xウィングのスケルツォ
『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』 帝国のマーチ
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会場のキンメルセンターはフィラデルフィアの市庁舎から歩いて5分くらい。
大通りにあり、比較的治安が悪いと言われるフィラデルフィアだが危険はほぼ感じない。
コンサート開始の20時までは、ロッキーのランニングシーンで有名なフィラデルフィア美術館に行ったり、アメリカ独立記念館に行ったりして楽しむ。

キンメルセンターは非常に大きなコンサートホールだ。
席はあえて演奏中の指揮者がよく見えるステージの後方の席をとった。
もちろんオーケストラの配置やホールの形はお客様がステージの前方にいる前提なので、音楽鑑賞を目的とするなら非常に良くない位置に違いない。
実際パーカッションは真下の方から大きく響くし、普通は観客の方を向かないホルンがこっちを向いているからどの曲もホルンが目立つ。
でもそんなことはいいのだ。100回は聴いた曲ばかりだから。私たちはジョン・ウィリアムズを見に来たのだ。


オーケストラが席に着く。コンサートマスターが音頭をとってチューニングが始まる。
ジョン・ウィリアムズが客席に現れ客席の前方下手よりの席に座る。
指揮者ステファン・ドヌーヴがステージに現れる。

一曲目、「サウンド・ザ・ベル」の演奏が始まる。
今回のコンサートで唯一の純音楽。
聴くのは初めてだった。ベルの音が管弦の響きと相まってきらびやかなコンサートの幕開けにふさわしい曲だ。
てっきり、「自由の鐘」の街、フィラデルフィアのためにジョン・ウィリアムズが作曲した曲なんだろう、などと思っていたが、調べてみたら日本の寺の鐘の音に着想を得て作曲された曲で、初演は来日コンサートでうちの皇太子の結婚祝いで演奏されたのだという。

ドヌーヴが客席のジョン・ウィリアムズを紹介。
本物だ!と私のテンションアゲアゲ。
ここからコンサートは本番。
ステージの上には巨大なモニターが設置され(ステージ後ろのお客のために逆向きのもある)、そこに演奏曲にあわせた映像が映される。

2曲目の「未知との遭遇組曲」はボストンポップス演奏のアルバム「スピルバーグの世界」に収録のものと同じで、オープニング、子供が宇宙人にさらわれるシーン、母船登場シーンのクライマックスという構成だが、モニターにも曲にあわせた未知との遭遇の映像が流れてとても楽しく聴くことができた。
私の席のすぐそばにパイプオルガンがあり、そこにかなりご高齢のオルガン奏者がつく。しかしパイプオルガンの音は8分くらいある曲の最後の方でオーケストラの音に重ねられるだけなのであまり目立たない。

曲の合間に指揮者のドヌーヴとジョン・ウィリアムズの対談の映像が流れる。
英語がわからんのでどんな話をしているかは分からないが、心で聴いた。
「サユリ」では音楽で日本を表現することのチャレンジについて語っていた…気がする。
「サユリ」のサントラはヨーヨー・マがチェロを弾いていたが、このコンサートではゲストのチェロ奏者が呼ばれる。東洋系の女性だった。
「サユリ」の二曲はとても美しい。「サユリ」は近年のジョン・ウィリアムズの非スピルバーグ非スターウォーズ作品ではもっとも素晴らしいと思う。

三曲目はハリーポッターから。演奏前にチラッとだけ「ヘドウィグのテーマ」の冒頭部分を鳴らしてからドヌーヴのトークがあり、そして「ハリーの不思議な世界」ほぼサントラ収録通りの演奏。

そしてウィリアムズならもっと有名な曲、有名な映画もいっぱいあろうに、三曲目に「ドラキュラ」をもってくるマニアックな選曲。嫌いじゃない。
念のため言うと、コッポラが監督したキアヌ・リーブスとかが出演した90年代の映画ではなく(これはヴォイチェフ・キラールが音楽を担当した)、70年代のジョン・バダム監督作品の方だ。
この曲の前にもドヌーヴとウィリアムズの対談映像が流れウィリアムズがドラキュラのテーマをどのようなインスピレーションから作り上げたかを話していた。英語がわかれば貴重な発言だったはずだ。

そしてマニアックな「ドラキュラ」の次は誰もが知ってる「E.T.」
コンサート前半のクライマックス。
E.T.と少年たちが自転車で大人たちから逃げるチェイスシーンの曲から、ラストの別れのシーンの曲へと繋ぐアルバム「スピルバーグの世界」と同じ構成。
ラストのラスト、E.T.の乗る宇宙船が飛び立つ場面のオーケストラフル稼動の壮大なファンファーレは生で聴くと凄まじい感動に包まれてしまう。ここでコンサートが終わったとしても十分満足できるくらいの素晴らしい演奏だった。
フィラデルフィアオーケストラとステファン・ドヌーヴさん、ありがとう!

休憩時間となり、もしもジョン・ウィリアムズ本人に出会った時のために持ってきた黒太字の油性ペンと、サインを書いてもらいやすい色合いのCDを持ってトイレに行く。ちなみに持って行ったCDはジャケットも盤面も薄カーキ色の「レイダース失われた聖櫃」のサントラだった。
もちろんトイレでばったりジョン・ウィリアムズに会うような奇跡は起こらなかった。

休憩が終わってからの最初の曲はみんなが大好きなレイダース・マーチだ。
使われることのなかった私のCDの代わりにフィラデルフィアオーケストラが最高の演奏をしてくれた。
この時も大スクリーンにインディ・ジョーンズシリーズの名シーンハイライトが映されて耳と目で楽しい演奏だった。

続けてつい最近の映画「やさしい本泥棒」のテーマ。
この映画は未見でテーマ曲も初めて聴いたが、もちろん美しい曲だった。
久しぶりにウィリアムズが手がけたスターウォーズでもスピルバーグでもない映画。
他にも沢山ある名曲よりも新しい曲を選ぶところに、ドヌーヴのウィリアムズリスペクトを感じる。

「ジョーズ」の「バレル・チェイス」という曲の演奏にあたり、ドヌーヴが実験を試みる。
ジョーズのその曲がかかるシーンをまず音楽なしで上映してから、同じ場面をオーケストラの生演奏付きで上映する。
オルカ号の舳先に立って迫るサメに浮き樽を撃ち込もうとするオールドタイプの漁師のロバート・ショー、銛撃ち銃のロープに早くブイを結べと当時の今どきハイテク男のリチャード・ドレイファスに命令するが、ドレイファスは最新式信号灯を取り付けようとしている。早くしろ!わかってる!的やりとりの後に逃げられる寸前で準備完了、発射!命中!海面を引きづられるように進む樽を手前に奥に三人の男の乗るオルカ号。しかし樽はあっさりと海の中に消えてしまい、サメを見失う。オルカ号の舳先でリチャード・ドレイファスとロイ・シャイダーの方を振り返りやれやれだぜって顔をするロバート・ショー
…の場面。続けてオーケストラ生演奏付きで再上映され、サメが迫るところのスリリングな調子、銛が撃ち込まれて船で追うカットのファンファーレ、サメに逃げられた後のおとぼけ脱力感、とやっぱり映画サントラって良いなあと思わせる。
コンサート用に編曲された曲ではなく映画のスコアそのままの面白さ。
映像とぴったり合わせたドヌーヴとオーケストラの演奏も見事だけど、こんなことを何十年もやってたウィリアムズの偉大さを改めて感じるのだった。

そして、ドヌーヴが神妙な感じで客席に向かってしゃべり始める
「皆さん、いよいよこの時がきました」
そしてジョン・ウィリアムズがステージに現れ、ドヌーヴからタクトを受け取る。
ドヌーヴはステージからハケる。
そう、その時が来たのだ。
ジョン・ウィリアムズがタクトを振る姿を見る時が。
写真は撮らなかった。肉眼で長く見ていたかった。

ウィリアムズがまず演奏するのは、彼のその時点での最新作「スターウォーズ フォースの覚醒」よりヒロインのレイのテーマ
ウィリアムズのヒロインテーマといえばほぼイコール愛のテーマの扱いでロマンチックな調べの曲が定番だったが、そんなウィリアムズの正統ヒロインテーマの系譜からは外れるような、コミカルかつ牧歌的な穏やかさのある曲だ。どこかミステリアスでつかみどころのないレイに巨匠はユーモラスな面を見たのだ。でもウィリアムズのことだから今後のストーリー展開を知った上でアクションシーンにもロマンスシーンにもドラマチックな盛り上がりにも応用発展可能なメロディにしているのだろう。

続けての演奏はやはり「フォースの覚醒」から、レジスタンスのマーチ。
スーパーマンにレイダースにあるいは帝国マーチとウィリアムズ音楽の醍醐味はやっぱりマーチにある。
勇壮でありながらも絶望的な戦いにそれでも赴いていくような悲壮感とも義侠心ともとれる曲。映画のチャラさをひたすら重く熱い音楽で補完するのもウィリアムズ節。
そして指揮するウィリアムズは84歳とは思えないパワフルでダイナミックなタクトさばきを見せてくれた。

演奏の合間にちょっとしたトークを挟んで、そしてプログラム上の最後の曲となる「スターウォーズ 新たな希望」いわゆる第1作にしてエピソード4なちょっと説明がめんどくさくなったスターウォーズのラストシーンからエンドクレジットにつづく曲「王座の間とエンドクレジット」
ルークとハンとチューバッカが叙勲式の会場に現れる場面からの曲。
マーチ風にアレンジされたオビワンのテーマ(いまやジェダイ騎士団のテーマの扱い)から始まり、3人がレイアから勲章を授与されるところでは優雅な調べに変わり、そしてスターウォーズテーマと反乱軍テーマのファンファーレから、スターウォーズテーマ、レイアテーマ、スターウォーズテーマ、そして曲の終わり方はエピソード6の終曲部に置き換えられたアレンジでフルオーケストラとドンドンなるティンパニで演奏最高潮になって終わる。
ああ、この曲。何十回VHSで観ただろう。何100回LPからダビングしたカセットテープで聴いただろう。
中学高校のころ最大のヒーローだったジョン・ウィリアムズ本人があの曲を目の前で演奏しているのだ。
狸小路のレコード屋でスターウォーズのサントラ買った帰りに不良にカツアゲされたこととか、スターウォーズがらみで仲良くなった人とか色々思い出して、なんか泣きそうになった。

プログラムの曲は全て終わった。
普通のコンサートならお決まりとしてアンコール曲があるのだけど、ご高齢だし無いかもしれない…と思っていたが、会場からの割れんばかりのアンコールリクエストに応えてウィリアムズは指揮台から降りずにオーケストラに指示をだす。
見ると演奏者たちの譜面台にはアンコール曲用の譜面が乗っているから、やっぱりお決まり通りだったのだろう。
コンサートマスター(つまり第1バイオリンの首席奏者)が立ち上がる。
ああ、わかった。
「シンドラーのリスト」だな。絶対だ。間違いないと思ったら、やはりアンコール曲としてシンドラーのリストのテーマの演奏が始まった。
オリジナルのイツァーク・パールマンの演奏にも決して負けない渾身のバイオリンソロ。フィラデルフィアオーケストラのポテンシャル高い。
演奏後にウィリアムズはスピルバーグとの創作活動についてトークをし、聴衆を笑わせる。
(多分、スピルバーグとは40年間もパートナーを続けているが、これはもう結婚みたいなもんだよ、みたいなことを言っていたと思われる)

アンコール曲が終わるが聴衆の盛り上がりはいささかも衰えない。
見ると演奏者は譜面台からシンドラーのリストの楽譜を別の楽譜に置き換えている。
なんだ、まだ演奏する気まんまんじゃないか。
そしてウィリアムズは5曲目の指揮に入る。
「フォースの覚醒」の「Xウィングのスケルツォ」だ。
スターウォーズのメインテーマを戦闘シーン用のスケルツォにアレンジした曲。「フォースの覚醒」は戦いの曲でウィリアムズは攻める。まだまだ戦える84歳の巨匠。

ついにアンコール曲を2曲演奏。
さすがに終わりだろう。
もう演奏者たちの譜面台には何も乗っていない。
しかし会場からの拍手は収まる気配はなくむしろさらに大きくなっていく。
いや、でも、もう楽譜が無いんだ。終わりだよ。
しかし、ウィリアムズはタクトをかかげ、オーケストラのメンバーは各自の楽器を構える。
もう一度書くが、譜面台に楽譜は無いのだ。
にもかかわらず、ウィリアムズとフィラデルフィアオーケストラは演奏を始めた。
その曲は誰もが知ってる「スターウォーズ 帝国の逆襲」の帝国のマーチだ。
ウィリアムズの指揮もノリノリだ。帝国軍の司令官のようなしかめっ面で腕をタクトをブンブン震わせて、サントラよりもダイナミックな帝国マーチを演奏しきった。
結局アンコール曲含めて6曲も指揮したジョン・ウィリアムズ。
感動などという言葉ではとても表現できないような、細胞の底からの震えを感じつつ、ウィリアムズとドヌーヴとフィラデルフィアオーケストラに拍手を贈り続けたのだった。
5泊7日のアメリカ旅行のハイライト。
中学のころからの憧れ続け何十枚とアルバムを買い、30年間飽きることなくほぼ毎日聴き続けた私のヒーロー。
生きててよかった。ありがとうマエストロ・ジョン・ウィリアムズ。
そしてあの元気さなら多分スターウォーズエピソード9まではそこらの若いやつにゆずらず音楽を創ってくれそうだし、スピルバーグとのコンビもまだまだ続くだろうという安堵感とともに、フィラデルフィアから日本に向けて飛び立った5月5日の私だった。

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余談1
フィラデルフィアで「チーズステーキ」を頼むと、薄い肉をいっぱい焼いて重ねてパンにはさんだものが出てくる。フィラデルフィア流の食べ方らしいが、これが美味い。

余談2
フィラデルフィアのお酒事情
フィラデルフィアというかペンシルバニア州は酒を飲むのが難しい州である。
ニューヨークなら大抵のスーパーでビールが買えるし、大抵の飲食店でビールが飲めるが、ペンシルバニア州は州都のフィラデルフィアでさえ酒を買える店や飲める店は少ない。
スーパーやコンビニではまず間違いなく酒は買えない。酒の専門店でのみ販売が許可されているそうだ。
しかもビール専門店とビール以外のリキュール専門店で許可が別々らしい。
リカーショップの数も極めて少なく、夕方には閉まる。
飲食店でもビールが飲める店はごく少なく、街中で何気に入ったレストランでビールがのめたらかなり幸運である。
コンサート後の余韻に浸るために昼のうちにリカーショップでワインを買っておき、コンサート後に妻と乾杯したのだった。
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