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脳動脈瘤 その7 脳動脈瘤の種類(成因による分類) 解離性動脈瘤 つづき2

2020年07月01日 | 動脈瘤
みなさん、こんにちは!
今回は脳動脈解離のうち、まず椎骨動脈に生じた解離の治療法について紹介します。

椎骨動脈解離によって形成された動脈瘤(解離性動脈瘤)が破裂した場合には、通常の動脈瘤よりも急性期に再破裂する確率が高いとされています。このため、迅速な治療が必要です。
一方、解離を来たしてから時間が経過すると徐々に出血率が低下し、2ヶ月を超えると再出血は極めて低率となります。従って、それ以降は治療する必要性が減少しますが、経過中に動脈瘤が大きくなったり、解離が進行する場合には再破裂の危険性が高いと想定されるため、治療が考慮されます。

さて、解離性動脈瘤は通常の動脈瘤と構造が違っているので、治療法も異なります。
通常の嚢状(のうじょう)動脈瘤のように、血管から外にふくらむ丸い形になることはまれで、多くは全体がふくらむ形(紡錘状:ぼうすいじょう)になります(上図)。その壁の一部が血管から突き出たような形になることもありますが、この小さなふくらみの部分は非常に薄い壁でできているため、そこをクリップしたり、コイルでつめるのは困難なことがほとんどです。
ではどのように治療するのでしょうか?

答えは、血管自体を止めてしまうのです。(上左図)
「脳の血管を止めるなんて、そんなことして大丈夫か?」という声が聞こえてきそうです。
図のように、椎骨動脈は左右一本ずつあります。このため、一本を止めたとしても、反対側の椎骨動脈からその先の脳底動脈には十分な血液が流れるので、大丈夫なのです。以前は外科手術で血管を止めていましたが、最近では頭を切らずに、管(カテーテル)を使ってコイルを詰めることで血管を止めることが可能です。

しかし、もし解離した部分から重要な枝(小脳への動脈など)が出ている場合には、椎骨動脈瘤をつめると、枝もつまってしまいます。そうなると、小脳梗塞や脳幹梗塞が起きて、ふらつき(小脳失調など)やふるえ、重度の場合には麻痺などを生じることになります。このため、重要な枝が出ている場合には、その枝に皮膚の血管をつなぐバイパスを行なって、脳への血流を保つようにします。ただし、細い枝にはバイパスはできません。細い枝であっても、つまることで小脳や脳幹の梗塞を生じて、半身のしびれやまひなどを生じることもあります。やはり脳の血管を止める以上、一定の確率で脳梗塞を生じることは避けがたく、実際、日本の調査でも10%か、それ以上の確率で治療後の後遺症が生じることが知られています。
また、脳底動脈に解離が及んでいたり、反対側の椎骨動脈が詰まっている場合には、血管を止める方法を行うことはできません。脳底動脈からは脳幹にたくさんの細い重要な枝が出ており、これらが詰まると、重度の後遺症を生じるためです。

そこで、最近ではステントを併用して、血管の流れを残して治療する試みがなされています(上右図)。血管解離は血管の壁が剥がれる病気ですから、ステントで内側から補強するのは本来、理想的な治療と考えられます。しかし、出血例に対しては日本ではステントを使った治療は保険で認められていません。欧米では目の細かいステント(フローダイバーター)を留置することで良好な治療成績が得られたとする報告もありますが、これも我が国では保険適応外となります。

以上から、椎骨動脈解離に対しては基本的には血管を止める治療をまず考慮して、そのリスクが高い場合には血管閉塞とバイパスとの併用やステント併用コイル塞栓術が行われています。
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3 コメント

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若干の後遺症が・・・・・ (S.Koike)
2020-07-06 21:07:27
私も9年前に右椎骨動脈乖離出血でした。
3日にのたうち回りながらも風邪であろうと思い込み。
6日に左眼眼底出血で失明状態。
9日に病院で診察中に2回目の出血。
そのまま入院で1か月後手術。
若干の後遺症あれどほぼ正常な日常生活を送っています。
くも膜下出血、怖い病気です。もっと危険な病気であると啓蒙活動をお願いします。

追伸:私はプラチナに対して強度のアレルギーを持っています。しかし命には替えられずやむなくコイリングしました。現在金属アレルギーは発症していませんがいずれ出るかと。
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Koikeさんへ (吉村)
2020-07-11 21:38:39
大変でしたね。くも膜下出血から社会復帰できるのは20-30%と言われています。本当に良かったですね。
金属アレルギーに関してはあまり情報がありません。あらかじめわかっている人の場合にはその金属を避けて治療するようにしています。しかし、Koikeさんのように、治療に使用してしまった後でアレルギーが判明することもあります。また、金属アレルギーに関する説明もしたいと思います。
返信する
Unknown (mikage)
2020-07-14 10:29:20
初めまして。とても参考になりました。
現在、左椎骨動脈解離(未破裂)で入院しています。
1ヶ月経過観察で、毎週MRIとMRAを撮っていただき管理していただいておりましたが、昨日造影CTで解離が大きく膨らんでいました。

結局こちらの記事と同様のカテを受けることになりました。私の場合、少し長く、周りの血管の倍ほどに膨らんでいます。きっと手術は先生が成功させて下さるだろうと思ってはいますが、後遺症が心配です。ステント併用コイル塞栓術でも塞がってしまう血管はあるんでしょうか。
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