Straphangers’ Room2022

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「絶対善」を否定して得られる評価

2023-10-30 20:36:16 | 時事
イスラエルとパレスチナ(ハマス)の即時停戦を求めた国連総会決議にイスラエルの庇護者である米国が反対するのは当然ですが、日本も反対という露骨な追随はしませんでしたが、棄権票を投じ、総会決議に背を向けた格好になりました。

カナダが提出したハマス非難の色彩が濃い決議案が賛成多数とはいえ成立に必要な賛成数を集められなかったことを見ると、とにかく即時停戦、というのが国際社会の意思と言えるわけで、日本のスタンスというものの底が見えた格好です。

決議された方の議案はアラブ諸国が起案して代表としてヨルダンが提案した格好ですが、これもなんだかな、という話で、現地事情が悪化した際の邦人退避用に自衛隊機を派遣していますが、それが待機しているのがヨルダンなんですよね。
自国民避難のための便宜は求めておきながら、提案した決議案は棄権ですか、というネガティブな感情が起きても不思議ではありません。

日本が中近東外交における独自のプレゼンスを保持していた頃であれば、それこそイライラ戦争の邦人退避に自国機を飛ばして尽力したトルコのような協力も期待できたわけですが、米国には栄えないとはいえ、明らかにイスラエルに忖度した格好の対応は従来に増して中近東におけるプレゼンスの低下を招くでしょう。東日本大震災と原発事故で化石燃料の大量確保が必要になった時に、確かにカタールなど輸出に協力してくれましたが、コマーシャルベースですからね。化石燃料の炊き増しに兆円単位の負担を10年以上継続している現状に麻痺して気が付かないのでしょうが。

どっちに肩入れするという話でもなく、人道面での即時停戦、というのは説明が付きやすいわけで、だからこそフランスなどEU諸国の一部も賛成したわけです。自衛権ガー、と今回の決議を批判する向きがありますが、じゃあ自衛権の名の下に攻め滅ぼすことが可能なのか。正当防衛ではなく過剰防衛の域でしょう。まあ大量破壊兵器ガー、と言って主権国家を潰した前科がある人たちとそれの賛同者ですからさもありなんですが。

ちなみに今回ハマスの人質になったのは実はその半数近くがタイ人(タイ国籍保有者)です。さらにタイ人は30人以上が殺害されています。東南アジアにありがちな各種出稼ぎが裏目に出た格好ですが、タイは軍事的には西側と目されているものの、あからさまに親米ではなく、それどころか足元は中国の影響が否定できません。ですから人質の多くがタイ人というのはハマスにとっても人質の実効性という意味では疑問符なわけで、自国民が多く犠牲になり、かつ人質というタイ政府がいい面の皮、という結果になっています。

ところがそのタイは今回の決議に賛成したわけです。ハマス名指しのカナダ案には棄権と、まあハマスのご機嫌を損ねたくはない、という意図が透けて見えますが、切羽詰まっている事情があるとはいえ、即時停戦という大義を取ったわけです。
自国民保護という政府としての最大の使命はありますが、じゃあ誘拐犯に従うのか、というジレンマがあるなかで、賛成したわけです。これもハマスへ配慮という面が否定できないですが、即時停戦という大義を理由にできるわけです。

今回の両案に対する対応としては、賛否棄権で同じスタンスを取るか、あるいは即時停戦という絶対善を取らない限り、どちらかの勢力に与している、肩入れしているという批判は免れません。その意味でも即時停戦という大義に寄り添った方が国際社会へのアピールになりますし、よしんば米国の不興を買ったとしても一定の理屈は立ちます。

ところが日本は米国に与したわけですが、逆にアラブ諸国やインドネシアといったイスラム教国はカナダ案に反対し、ヨルダン案に賛成しました。これはある意味分かりやすいスタンスですが、日本の場合はこれも「分かりやすいスタンス」とはいえ、即時停戦を否定するという目的を否定する(乗り越える)理由に乏しいわけで、国際社会へのアピールという意味では同じく絶対善を押し立てた核兵器禁止条約の時と同様、ネガティブに働くことでしょう。同盟国というか事実上の宗主国の顔色をうかがうだけではやっていけない時代ですから。



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