Straphangers’ Room2022

旧Straphangers' Eyeや習志野原の掲示板の管理人の書きなぐりです

技術的障害と政治的障害

2015-09-08 00:54:00 | 交通
新潟交通の混乱ですが、現地の交通体系としては「革命的」な出来事でも、一つ一つのツールは「枯れた技術」であり、物珍しさもあっての集中はともかくとして、クリティカルな問題にはならないはずなのに、と思っていましたが、穴がありました。

区間制運賃における完全通算制。おそらくICカードなどの不具合もこれが原因でしょうが、これ、実は全国的に見てもこれを導入している事業者は珍しく、アグレッシブな試みでトラブッたということのようです。

JREでSuicaだと通過連絡運賃が適用されず高くなるケースが続出したり、通過連絡そのものを廃止する区間が続出したことを以前批判しましたが、ICカードなら計算が簡単だ、と思っていた2乗車目における1乗車目との運賃通算は実は鬼門だったと言うことでしょうか。

通過連絡の制度をかいつまんでいうと、別の鉄道会社を挟んで乗車する前後の営業キロを通算する制度で、事前に乗車券を買わないICカードの場合、1乗車目の運賃を引き落としたあと、2乗車目となる運賃を通算となる営業キロベースで計算し、不足額を引き落とす、という計算になるはずですが、中間改札が無いケースではICカードの特則である前後の鉄道会社のみで行けるルートが構築出来る場合はそのルートで計算する、というルールの適用となり、中間改札がある場合は単純打ち切り精算を原則とし、西日暮里接続のみ100円引きとして、「勝ったり負けたり」でお茶を濁しており、いずれにしても通算計算を回避しています。

均一制の場合は2乗車目を無料にしてしまえば「通算」ですが、区間制の場合は1乗車目の乗車駅情報から遡るわけで、そこに課題があるのでしょう。ただ、今回の「りゅーと」や「のりかえ現金カード」ではその計算が実現しているわけで、逆に首都圏などにフィードバックしてほしい「新技術」といえるので、早くトラブルの穴を塞いで欲しいですね。
なおICでの通過連絡適用は、福岡市交を挟んだJR九州で適用されているので、技術的に不可能ではないことが証明されていますが、出来れば回避したいと言う姿勢がJR東日本の対応からも透けて見えます。

余談ですがJR九州におけるICカードのルールはユニークで、適用エリア内相互の移動において、最短距離となる経路があれば実際の移動ルートとは違ってもそちらで計算しています。まあ近郊区間ルールと言えばそれまでですが、JR九州の場合は大分と久留米、熊本の間などで、適用エリア外となる久大線、豊肥線を運賃計算上の経路として使うことが可能で、かつ実際に乗車も出来るというものです。ICカードでは途中下車が出来ないので、思い切って割り切った格好といえます。
(大分から熊本まで、西小倉、博多経由でも、豊後駐c経由でも乗車できる。なお、エリア内相互移動の最短距離計算の特例として、運賃計算上の経路での乗車が可能とあるので、運賃計算に用いないエリア外ルートの乗車~この場合は久大線日田経由~は出来ないと考えますが、実際はどうでしょうか)

余談はさておき、まだ現地を見ていないので何とも言えませんが、拠点となる停留所をかなり立派に整備しているのであれば、鉄道のように改札方式(車外での運賃授受)を念頭に置いた施設を導入しなかったのが惜しまれますね。閑散時間帯は車内で授受し、混雑時間帯は車外で授受する。それなら乗り継ぎも楽ですし、運賃収受漏れを気にせずに無精算で2乗車目のバスに乗り継げます。
札幌市のバスターミナル、また彼の地ではハコモノ行政の負の遺産のようにも言われていますが大阪市の「バスターミナル」のように閉鎖的な空間に仕立ててれば、限りなく「駅」として扱えますし、そこまで踏み込んで欲しかったですね。

あとは、完全通算制を完全適用させるために導入した「のりかえ現金カード」が「ジョーカー」になっています。
値上げにならない、という公約との整合性でしょうが、市が発行するという発行と管理、さらには個人情報管理にかかる手間とコストを考えると、頭を下げて「りゅーと」を使ってください、となぜ言わなかったのか。公約の遵守ももちろん大切ですが、無理な場合、また遵守することで却って不利益が発生すると分かった場合は、丁寧に説明して撤回すべきでしょう。

専用走路の整備が先送りになり、連接バスの導入も最小限になったのも、公約とそれに対する市民の反応を踏まえた妥協策であり、「政治」が混乱の一因になっているのは否めませんが、反面教師としての教材という意味ではこの上ないものでしょうね。


定義にこだわる意味は

2015-09-08 00:52:00 | 交通
HRTとは何?というご指摘を頂いたのですが、LRT、すなわちLight Rail Transitに対してHeavy Rail Transitということで、普通鉄道を意識して使っています。もっとも元記事で例示した静岡鉄道のような規模の普通鉄道もLRTの範疇に入る、という意見もあるわけで、厳密な区分は難しいです。

もっとも、この手の定義論はどれほどの意味があるのか。適材適所の交通モードを示す際に、類型としてカテゴリー名が無いと議論がしにくいため一定のカテゴリーに仮託しているに過ぎないのですが、そこで示したカテゴリー名を論って、定義に適わないからその交通モードではない、という後ろ向きの議論が横行しているわけで、しかも「お気に入り」の交通モードだと定義を甘めに取り、そうでなければ厳格に取る、都市か思えない論調もしばしばです。

上で普通鉄道でも規模が小さいとLRTになる、という意見を紹介しましたが、一般に想定されるLRTは路面電車レベルの中量交通機関ですから、交通モード選択の際にLRTでは力不足であり、普通鉄道(HRT)の出番では、というと、小規模な普通鉄道もLRTだ、と、適切な交通モードと言うよりも「LRT」と名乗る交通モードを導入することが目的化しているとしか考えられない意見に直面することもしばしばです。

典型的な例はやはり「BRT」で、Bus Rapid TransitというところからRapid、すなわち「高速」が定義であり、それがないとBRTとは認めない、という意見が支配的です。確かに連接バスを導入してBRTだ、というような「誤解」は問題であり、チンチン電車に新車を導入してLRTだというのと同じですが、 高速と言う要件に拘り過ぎるのも、逆にBRTという存在を極力認めたくない、という為にする意見に見えます。極端な話をすれば、都市新バスと高速道路経由での運行を組み合わせたら「高速」であり、そこそこ高度化されているということでBRTなのか。誰もそうは考えないでしょう。

「高速」とありますが、どちらかと言うと必須の要件は「高度化」であり、運行・管理体制、運賃授受体制、停留所など地上側の接客体制を整えていることがまず必要です。都市新バスはその点で既存の路線バスの延長線上にあり、「一皮剥けて」いない存在と言うところがBRTと名乗れない理由となります。

「高速」については専用走路を確保することによる定時性と読み替えるべきであり、「遅れない」ことがトータルでの時間短縮につながり、「高速化」と等しい効果を得られることで良しとすべきでしょう。
その意味で鉄道の休廃止後に軌道敷きを転用した「BRT」はその要件と効果を備えており、BRTと言って差し支えないのですが、BRTを否定、とまでは行かなくても厳しく見ている向きは特にこの「専用道バス」がBRTと名乗ることについて激しい拒絶反応を示しているのが現状です。

「専用道バス」である気仙沼線、大船渡線のBRTを見れば、専用道による時間短縮と定時運行の効果ははっきりしているわけで、特に専用道区間が連続するようになった小友$キ間は典型でしょう。(ただし足下は大船渡市街の区画整理で大船渡駅前後の区間が一般道迂回になっている)
専用道区間が連続しない、利用区間が短い段階での状況で効果が低いと言う評価が横行したのも、はじめにBRTの否定ありきのように感じています。

要は杓子定規な定義論を捨てて、実態に応じたカテゴリーの名称としてその名称を受け入れるべきでしょう。国際基準ガー、という人もいるでしょうが、「国際標準」にあわせる必要がどこにあるんでしょうか。ガラパゴスで結構。日本国内での交通モードの話であり、ガラパゴスの生き物にガラパゴスに見合った区分をするだけの話なのです。