Straphangers’ Room2022

旧Straphangers' Eyeや習志野原の掲示板の管理人の書きなぐりです

あおなみ線の破綻

2010-07-09 00:18:00 | 交通
名古屋のあおなみ線を経営する名古屋市がメインの第三セクター、名古屋臨海高速鉄道につき、7月5日に事業再生ADR(裁判外手続)手続による再建に踏み切ったと報道されました。
要は私的整理であり、実質的な経営破綻ですが、列車の運行は継続するそうです。

鉄道会社の経営破綻というと、ことでん、水間鉄道が最近ではありますが、いずれも運行は継続しており、さらに更生計画も完了しており、今回もそれに倣った再生プロセスともいえますが、ことでんは民事再生法、水間は会社更生法といずれも裁判所の手続きであり、今回のADRによる再生手続きはそういう意味では明快さにやや欠けるのかもしれません。
私的整理よりは明快ですが、なぜ法的整理にしないのか。あからさまな経営破綻というイメージを回避したというやぶにらみ的考察も可能かもしれません。

交通関係ではバス業界は地域の有力事業者の経営破綻や再建が目立つなど、苦しい状況が浮き彫りになっていますが、鉄道業界も今後はこうした再生事案が増えてくるのかもしれません。
特にことでん、水間とも副業に起因する債務が命取りになったある意味特殊なケースだけに、本業の不振による破綻というのは珍しいケースかもしれません。

ただ評価できるのは、特に公共が関係するととかく責任論もあり、ずるずると公費支援を継続して泥沼というか底なし沼に陥るのですが、河村市長のイニシアティブなのか、名を捨て実をとった感があります。


(野跡にて)

さてこのあおなみ線、利用の低迷はいかんともしがたいわけです。
唯一の光明は金城埠頭に建設中のJR東海博物館。大宮の鉄道博物館が予想以上にブレイクしたことを考えると、全線の往復利用が前提であろう利用客が増加すると言うのは心強いです。

しかし、それ以外は困ったものです。
まあ私も試乗したのですが、名古屋から金城ふ頭まで乗り、野跡まで戻ってそこからは市バスで築地口に出てしまったわけで、往復乗ろうと言う意欲も湧きにくい線です。

ただ、沿線の様子を見ると、そこまでひどい結果になるとも思えないわけで、金城埠頭への通勤輸送があることでラッシュ輸送が片輸送にならないとか、野跡などには大型の市営住宅が立ち並んでいるとか、公営ですが名古屋競馬場もあるとか、需要の「芽」はかなりあります。
ちなみに名古屋と言うとクルマ社会ですが、公共交通も充実しており、利用はかなり厚いわけで、そういう意味でもそんなに利用が伸びないのかな、とも思うのです。

不振の原因を考えるに、こうした需要の「芽」を考えても過大な需要予測だったというオチがありそうですが、それは置いといても、なぜ利用が伸びないのか。
ありがちなケースとして、敬老パスなどの無料、優待利用が市営交通に流れて、というものがありますが、あおなみ線に限っては市営交通と同格の扱いで、敬老パスの対象であり、トランパスでの乗継割引も適用されます。

それでも市バスにかなり流れているのが現状です。試乗した際も、市バスはどんどん乗ってきて立客をかなり乗せて築地口に到ったわけです。
そうなると、特に老人層にとっては価格差が無いのにこの結果は、あおなみ線には何か根本的な欠陥があるはずです。


(あおなみ線から見た名港トリトン)

思うに、名古屋駅からと言うルートが流動にあっていないのではないでしょうか。いや、貨物線の転用なのでJR駅に接続するのは仕方が無いのですが、JR名古屋駅自体は最近拠点性を強めており、栄のお株を奪っているという話もあり、名古屋駅接続が「敗因」とは思えません。
そう考えたとき、ふと気付いたのは名古屋駅でのあおなみ線乗り場の分かりづらさと言うか遠さが原因ではないかと言うことです。

名古屋駅在来線のいちばん新幹線側、しかも豊橋側に偏った位置に設けられた専用ホームは、メインの中央通路からも外れた太閤通南口に出てきます。
名古屋市内へのアクセスと言う意味では、地下鉄か徒歩ですが、新幹線コンコースの向こう側の通路を横移動し、中央通路に出て、ここでようやく桜通線。東山線はタワーズのある桜通口側まで名古屋駅を全部横断する格好です。

名駅周辺の繁華街に向かうのも同様に名古屋駅フル横断となるわけで、なんとも遠いと言うか奥深い位置に存在するのです。

それなら市バスと地下鉄で栄に、とか、クルマにしてしまおう、となっても不思議はありません。
特に太閤通口側は桜通口とは違い、場末感も漂い、リーズナブルな駐車場も多いですから。
このあたり、配線の問題(貨物線は関西線側に合流して、いわゆる稲沢線を通り稲沢へ向かう)があるとはいえ、安いビジホと風俗店が目に付く太閤通側に利用者の需要があるとは思えませんし。


(中央が金城埠頭)

もうひとつ、金城埠頭などの名港地区への通勤輸送の取り込みと言う点でも、あおなみ線が敬遠されています。飛島村臨海部への通勤輸送を担う飛島公共バスも、一時期金城ふ頭駅発着の設定で実証実験を行っていましたが、結局稲永駅を通るとはいえ、起終点は地下鉄名古屋港駅(築地口駅も通る)で落ち着いたあたり、あおなみ線をメインにすえることが受け入れられなかったようです。

こちらは露骨に名古屋駅での乗り換えが嫌われているのでしょう。
地下鉄沿線なら名港線に進んだほうが安いですし、名鉄との乗り換えはそれこそ最悪。まあJRは許容範囲ですが、金山から名港線のほうが便利でしょうし。

そうなると今後もかなり見通しが暗いですが、それでも償却前収支は黒字転換したわけで、JR東海博物館などの新規需要を極力取り込み、ひたすら地道に数を稼ぐしかありません。
313系と兄弟とはいえ、ホームドア採用などJR線との直通可能性も無い状況では、現状の乗り換え不便を改善する策が無いのですし。


(あおなみ線車内)