Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

『鶴』 長谷川四郎著 (講談社)

2004-12-21 | 柴田元幸
『鶴』 長谷川四郎著 (講談社)を読みました。

表題作『鶴』、時は敗戦直前の満州、国境の監視哨での日本兵の物語。
望遠鏡に映る人々の生活と自然。
そして主人公が初めてその土地で見た、ま白く静かに立つ鶴。
鶴を狙う死神のような黒い影はそのまま戦争と平和のメタファーのようです。
友人兵矢野の逃亡、ほどなく監視哨は爆撃にあい、撤退時に望遠鏡を
携行し忘れた一隊。結局主人公が哨舎に取りに戻ることになります。
そして主人公を襲う一発の銃弾・・・。

この作品ではストレートなメッセージは何も語られていないのですが、
物語全体の美しくすらある哀しみから、自然と「平和への希求」が
にじみ出ているように感じられます。

講談社文芸文庫にはほかにも戦争を題材とした、中国人やロシア人を
主人公にした作品が収められています。
戦時教育を受け、シベリヤ抑留を体験した作者が公平な視点で戦争を描いた
ことに私は驚きを隠せません。
長谷川さんの書く小説から受ける印象は、ほかの「戦争体験記」よりずっとクールです。
だからこそ逆に深みと広がり、普遍性が感じられると私は思います。

文庫にはほかに『張徳義』『ガラ・ブルセンツォア』『脱走兵』『可小農園主人』
『選択の自由』『赤い岩』が収録されています。


「世界遺産」 リトアニア (2004.12.19放送分)

2004-12-20 | 外国の作家
「世界遺産」 リトアニア (2004.12.19放送分)を見ました。
バルト海に伸びる長さ100キロに及ぶ長大なクルシュー砂州をとりあげました。

美しい海岸には石英がきらめき鳴き砂になっています。
この地方には海から打ち上げられる琥珀を利用した独特の文化があり、
20世紀初頭には人の握りこぶしほどの琥珀が簡単に拾えたとか。
数百万年前の昆虫が閉じ込められた琥珀を、現代の私達が見る・・・
時の流れの不思議さを思います。

16世紀頃から産業の拡大に伴って、木々が大量に伐採され砂州は砂丘に変わり、
住民の植樹活動により、現在は砂州の7割は緑が戻ってきているそうです。

ほかにもクルシュー海で利用されていた昔の漁船の平底舟の紹介などもありました。
ドイツ・ロシア・そして現代のリトアニア、多くの国に支配されてきたクルシューの
歴史の重さも感じさせる番組でした。
 

「世界ウルルン滞在記」パプア・ニューギニア(2004.12.19放送分)

2004-12-20 | 児童書・ヤングアダルト
「世界ウルルン滞在記」パプア・ニューギニア(2004.12.19放送分)を見ました。
テーマは「ジャングルの奥の奥!立ったまま寝る人たち」。
狩猟生活を送っているハガハイ族の暮らしに触れます。旅人は歌手の平尾勇気さん。

立って寝るのは狩の途中に横になって寝るのは「死」を意味して不吉なため。
でも私はそのことより、たった22年前に初めてハガハイ族以外の人間に接触したと
いう事実にびっくりしました。
沢山の情報があふれている現代でもそんな生活をしている民族がいるんだ、と
映画でも見ているような驚きでした。

足を怪我した平尾さんのためにイカダを作ったり、懸命にイノシシを探したり、
ハガハイ族の方のもてなしの心がひしひしと伝わってくる滞在でした。

それにしてもいつも思うのですが、こういう秘境番組は通訳の手配や
撮影機材の運搬やスタッフの生活などはどうしているのだろう?? 
スタッフの方々の苦労に頭がさがります・・・

「新日曜美術館・アンコール」紀伊巡礼(2004.12.19放送分)

2004-12-20 | トルコ関連
「新日曜美術館・アンコール」紀伊巡礼(2004.12.19放送分)を見ました。
旅人は作家の夢枕獏さん。今年8月に放送されたものの再放送です。

番組では今年世界遺産に登録された奈良県吉野と、和歌山県熊野三山を紹介。
古道を獏さんが歩いてめぐります。

吉野にある役小角(えんのおづぬ)の像は足腰がしっかりした、いかにも頑丈そうな風貌。
仏像というよりもっと人間に近い感覚の像でした。

熊野では那智の滝や補陀落(ふだらく)渡海の紹介。
浄土にたどりつくことを願い、外から戸を打ち付けて1か月分の食料だけもって
出かけた僧侶たち・・・すさまじい信仰心だなと感じました。

私自身も今年のゴールデンウィークに熊野と高野山を訪れたのですが、
水が豊かで、緑濃い山道を走っていると確かに神様の存在を信じたくなるような、
「土地の力」を感じました。
ですから、昔はもっともっと神さびた土地だったのだろうなと思います。
世界遺産に登録されても、この自然がずっと守りつづけられることを願っています。

「世界・ふしぎ発見!」トルコ (204.12.18放送分)

2004-12-19 | いしいしんじ
「世界・ふしぎ発見!」(204.12.18放送分)を見ました。
テーマは「トルコで解けた!世界三大料理の謎」。
中華・フレンチと並ぶ世界三大料理のひとつトルコ料理は、そのバラエティの豊かさが特徴。

旅の始まりはエルズルム。騎馬民族の料理、ケバブを紹介。
そのほかにも民家でつくるマントゥ(トルコ風ギョウザ)や、
イスタンブールの宮廷料理の紹介。
スイーツ大国トルコのおふくろの味・バクラヴァのつくりかたなど盛り沢山でした。

歴史あるところ名料理あり、と感じさせる番組でした。
どれもおいしそうでしたが、生のひき肉を食べる料理だけはちょっとこわいかな・・・


オヒョイさんのトルコで線香花火(12月18日放送分)

2004-12-19 | トルコ関連
オヒョイさんのトルコで線香花火(12月18日放送・TV東京 16時~)を見ました。

俳優の藤村俊二さんは70歳。「線香花火を持つ手が震えたら芸能界引退」をかけてトルコ旅行。
イスタンブールでは水タバコにチャレンジ。吸い込むのが大変そうです。

イズミールに移動。ハンチングをかぶった藤村さんはトルコ人そのもの。
チャイハネで会った男性の民家におじゃま。
家族で囲む手作りのはちみつ、パン、チーズ、とてもおいしそうでした。

ベルガマのアクロポリス遺跡を見学しパムッカレへ。
2000年前の遺跡が沈む温泉で一休み。
ボドゥルムに移動しエーゲ海の夕日を堪能。
ボドゥルムの町は高層ビルのない、白い壁の町並みがとてもきれいです。

旅の最後はエフィソス遺跡。一般の人の入れないローマ式浴場の跡を見学。
壁のフレスコ画、床のモザイクがきれいに残っています。
夜の大劇場で線香花火。きれいに花開き芸能界引退はおあずけとなりました。

若いレポーターがめぐる旅行番組と違って、藤村さんが風景になじんでいました。
毎年の旅企画番組のようです(おととしはキューバ、昨年はカナリヤ諸島)が、
来年はどこに行くのかな?
途中立ち寄ったドライブインのザクロジュースがとてもおいしそうで、
私も飲んでみたくなりました。

『漱石の孫』 夏目房之介著 (実業之日本社)

2004-12-18 | 柴田元幸
『漱石の孫』 夏目房之介著 (実業之日本社)を読みました。

房之介さんがテレビの取材でロンドンに滞在した時の話を縦軸に、
房之介さん自身が「漱石の孫」という肩書きを背負ってきたプレッシャーと、
そこから脱却してきた過程が記されています。
漱石自身のエピソードは少なめ。

ロンドン留学当初「極東の猿」のような存在だった漱石、
対照的に、100年後ロンドンにマンガ講義に呼ばれる孫、
その立場の対比が面白かったです。

私はイギリス留学の様子を描いた『漱石日記』(岩波書店)も
読んだことがあり、そこでは「家の者が出かけていたからパンを一片余計に食った」
など生活感があふれていて面白かったのですが、
今回『漱石の孫』を読んで、官費留学で周囲の大きな期待と自身の志を持ちながらも、
孤独な下宿生活を送っていた漱石の苦しみを改めて思いました。

『白痴』 ドストエフスキー著 (岩波書店)

2004-12-17 | 柴田元幸
『白痴』(上・下巻)ドストエフスキー著(米川正夫訳)(岩波書店)を読みました。

『白痴』の主人公・ムイシュキン公爵はスイス療養から帰りたて。
周囲からは「白痴・ばか」扱いされますが愛すべき人物。
実際には死刑囚の心情や貧しい娘に心を砕くとてもまっとうな人物です。
ですから、現代風にいうと「ばか」というより、
「浮世離れしている」「ちょっと感覚がずれてる」という感じでしょうか。

彼をはさんで、美しいが長年男性に囲われているナスターシャと、
ナスターシャに愛憎を抱くラゴージン、
ムイシュキン公爵が惹かれる高貴な令嬢アグラーヤなどの関係が入り混じります。

この作品はドストエフスキーらしい、ドラマチックな場面の数々があります。
ナスターシャが10万ルーブリ
(『謎とき「白痴」』(江川卓著)によると現代の価格で1億円くらい!?)を
暖炉に投げてガーニャ(ナスターシャへの求婚者)に素手でとらせようとする場面。
ナスターシャの家にアグラーヤとムイシュキンがのりこむ、火花ちる場面など。

そのような印象的な場面のほかに、短編小説を集めたような挿話も。
ナスターシャの名の日の祝いの場面で繰り広げられる男性たちの
「人にはいえない話」はどれも面白い。
ドストエフスキーの作品は話の構成や会話に厚みがあって、ほんとうに
どれも読み飽きず、深く面白いです。

私はナスターシャと、アグラーヤは生い立ちが違うだけで、芯はとても
似ている女性のような気がします。
ムイシュキンはナスターシャを「狂人」とも呼びますが、
「狂人に見えるほどの一途さ」「かたくなさ」はアグラーヤにも感じられるからです。

この作品は悲劇的な結末を迎えます。
でもどろどろとした暗さよりは、哀しみを読後に強く感じます。
それはそれぞれの人物の「強い想い」がこの結末に向かうしか
なかったからなのではないでしょうか。





『世界の中心で愛をさけぶ』(DVD)

2004-12-15 | 村上春樹
『世界の中心で愛をさけぶ』(映画・DVD)を見ました。

ひねりのない、とてもストレートなメッセージを感じる映画でした。
主人公サクと少女アキの高校時代のまぶしい恋の思い出と、アキの突然の発病・死。

その記憶を結婚間近の主人公が回想するという二重構造になっていますが、
個人的にいうと現在の主人公はもっと年齢を重ねた設定の方がよかったのでは
ないかなあと思います。

高校時代の主人公の恋人を亡くした姿と、
現在の主人公が過去の辛い記憶を支えきれず苦しむ姿と、
どちらの姿も若く、生生しくて映画としては「どっちつかず」のような感じがしました。

というわけで残念ながら私は泣けませんでした。
でも私は原作を読んでいないので、あるいはこれは偏った意見かもしれません。

『阿久正の話』 長谷川四郎著 (講談社)

2004-12-15 | 柴田元幸
『阿久正の話』 長谷川四郎著 (講談社)を読みました。

もともと村上春樹さんの『若い読者のための短編小説案内』を読み、
興味をもって読んだのですが、確かにひきつけられる文章でした。

表題作の主人公・阿久正(あくただし)は一見平凡な会社員。
物も持たず出世欲もなく、かといって隠者めいたところもなく、
どことなく宮澤賢治の『雨ニモ負ケズ』の「デクノボウ」を思わせます。
そんな彼は職場では「仕事はできるがいるかいないかわからない人」。
でも私はこの作品を読んで、阿久正の「生活に対するこだわりのなさ」よりは、
逆に「何にもとらわれず、ありのままの自分でいること」に強く固執する
頑固さを感じました。

これは同講談者文芸文庫に収録されている『ホタル商会』の主人公・小林ワタル
にも感じられることです。
几帳面で正直で決して優秀ではないけれど、大胆にも見える図太さがある。
多くの人は周囲の環境によって自分が尊大になったり、卑屈になったり
しがちだと思いますが、彼は決して周囲に左右されない強い「自分」をもっているのです。

これは決して「平凡な庶民」の話ではないなと思いました。
そんな主人公たちの姿に、私は憧れと同時に脅威も感じます。

ちなみに同文庫には、このほかに
『辻馬車』『チフス』『ガングレン』『足柄山』『林の中の空き地』が
収録されています。