Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「死者の書」ジョナサン・キャロル著(浅羽莢子訳)東京創元社

2009-09-03 | 外国の作家
「死者の書」ジョナサン・キャロル著(浅羽莢子訳)東京創元社を読みました。
ゲイレンはアメリカの小さな町。
そこは天才作家・フランスがその半生を過ごし、亡くなった町。
主人公トーマスと、恋人のサクソニーは彼の伝記を書くためにゲイレンに逗留します。
ある気持ちのよい朝、ぼくの目の前で少年がトラックにはねられます。事故のあと町の人間が聞いてきます。「あの男の子、はねられる前は笑ってました?」
・・・笑って?
ごくありふれた田舎の町、でも何かがおかしい。
積み重なる違和感、驚くべき町の秘密。
SFのような、ファンタジーのような、でも現実にありそうな・・・不思議で怖い物語です。ネタバレあります。ご注意ください。

この小説のキモはもちろん天才作家マーシャル・フランスの作品群と、その人となり。
「笑いの郷」「緑の犬の嘆き」、不思議な題名の作品、突飛な挿話の数々。

フランスは著者が作り上げた架空の作家なのですが、「こんな作家本当にいるのかな?読みたいな。」と読者である私自身に思わせてしまうだけで、すでにジョナサン・キャロル自身がマーシャル・フランスの才能を持っているかのようです。

サクソニーがあまりにもフランスの周辺情報に詳しいので、もしかしてゲイレンからNYに出て行き、すぐに亡くなったとされている少女が実は生きていてサクソニー!?なんて思いましたが、結局サクソニーの情報源は明かされませんでした。残念。

この作品は「ホラー・ファンタジー」とジャンル分けされているようですが、ホラーとしての要素はあまり強くなく、ホラーがダメな私でも読みやすい作品でした。
でもアンナという悪魔的な女性を中心として町の人々がみんなグル、という設定はじわーと怖い。
そして奇想天外でいたずら好き、街の人々に愛された作家フランス、という人物像が、自分の指先ひとつで人を病にし、犬に替え、死に至らしめる力を持つ怖ろしい人物像にだんだん変わっていくのも怖かったです。

私がもしフランスのような力を持っていたら、その神のような力を行使する誘惑にのるのか、それとも人の運命を左右する恐ろしさにその才能を投げ出すのか、どちらを選ぶことになるのか・・・難しい問いです。

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