Straight Travel

日々読む本についての感想です。
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「パワー」ル・グウィン著(谷垣暁美訳)河出書房新社

2008-12-19 | 外国の作家
「パワー」ル・グウィン著(谷垣暁美訳)河出書房新社を読みました。
「西のはて」の物語三部作の第三巻です。
ネタバレありますので、未読の方はご注意ください。

舞台は都市国家エトラ。幼い頃に姉サロと共に、生まれた土地・水郷地帯からさらわれ、エトラの館で奴隷として育った少年ガヴィア。
彼にはたぐいまれな記憶力と、不思議な幻を見る力が備わっていました。
主人の息子たちと共に教育を受けながら、一家に忠誠心を抱いて成長したガヴィア。姉の事件を境に、彼の人生が変わっていきます。

「自由とは、おおざっぱにいえば、ほかの選択肢があるのを知っているかどうかという問題なのだ」

奴隷として恵まれた生活を送り、そのことに何の疑問を持っていなかったガヴィア。でも「奴隷制度」は主人と奴隷との「信頼」によって成り立っている制度ではない。主人に一方的な「権力(パワー)」があるだけなのだと姉の死によって気づきます。

エトラを離れたガヴィアが次に出会うのはブリギンたちの村、次いで逃亡奴隷たちが自治を行っている「森の心臓」。
「みなが公平に暮らす」を旗印にしてはいますが、実際は長であるバーナが美しい女たちを独り占めにし、「力(パワー)」のある男たちがより弱い男たちを従えている世界。
物語の中ではさまざまな社会形態が登場し、またいろいろな形の「力」が登場します。

そして舞台はガヴィアの出生地水郷地帯へ。
独自の文化を持つ閉じた社会の中で血のつながったおば、おじと出会うガヴィア。
「目使い」ドロドに幻(ヴィジョン)の能力について説明を求めるガヴィア。
ここは奴隷として隷従していた時と比べ、ガヴィアの変化を強く感じた場面です。

おばゲゲマーが見た幻(ヴィジョン)により水郷地帯を離れ、メサンに向かうガヴィア。
過去の鎖、ホビーに追われる場面、なんとなくゲド戦記の「影とのたたかい」を連想しました。

最後オレック、グライ、メマー、シタールの前二作の登場人物たちとガヴィア、メルが出会う場面。読んでいる私自身も昔からの友人にであったようで本当にほっとし、心が温かくなりました。

冒険の旅物語として、とても面白い第三巻。本のヴォリュームも三部作の中で一番です。75歳を超えているのに、このようにパワーのある作品を生み出せるグウィン、脱帽です。




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