Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「童話物語(下)大きなお話の終わり」向山貴彦著(幻冬社)

2009-02-27 | 児童書・ヤングアダルト
「童話物語(下)大きなお話の終わり」向山貴彦著(幻冬社)を読みました。
妖精フィツとの突然の別れから1年、14歳になった少女ペチカは大都市パーパスで暮らしていました。
花屋の夫婦の世話になり初めて幸せを手にしたに見えたペチカでしたが、世界の最後を告げる「妖精の日」はすぐそこまでやって来ていました。
以下、ネタバレありますので、未読の方はご注意くださいね。

下巻の始まりは水上都市、全体が時計のような形になっているアルテミファ。
この物語はストーリーだけでなく、数々の街の面白さが魅力です。
そして登場するのは煙突掃除夫として働いているルージャン。ペチカを追い、見失ったままこの都市で働いていました。そして彼は高い時計塔の上でフィツに出会います。
なぜフィツがペチカから離れここにいるのか?は、のちほど明かされるのですが、刑務所あがりのゴンドルに追われて、ルージャンとフィツはこの街を出ることに。

ペチカをいじめた悔悟の念に常にかられながら大都市パーパスを目指すルージャン。
「取り返しのつかないことをしてしまった。
どんなに泣いたって、もうあの日のパンを拾うことはできない。
あの時のペチカの目が脳裏に焼きついて離れない。
どうしても自分を許せなかった。どんなに忘れようとしても、あの目が許してはくれなかった。」

ほかのいじめっこたちと一緒になってペチカを「悪ふざけ」「冗談」でいじめぬいた過去。実際にひとりで生きていくようになって、幼いペチカがひとりで生きなければならなかった苦しみがようやく実感できたルージャン。
自分の犯した罪の重さが、やり直したい過去が、ルージャンを内側から切り裂いていきます。

いじめられた過去をのりこえていくことはもちろん大変なこと。
そしていじめていた自分、その罪を抱えていく心の傷みもまた大変なこと。

一方塔の街パーパスで花屋のオルレア、その夫で警察官のハーティーの優しさに触れ、暮らしをつないでいたペチカ。
しかし守頭は執拗にペチカを追い、ペチカの大事な母親の写真を奪っていきました。
この街でペチカは馬車で助けてくれた老婆に再会し、地図を受け取ります。
地図にある「忘れ物預かり所」を目指し、母の写真を探しに世界の果てに向かうペチカ。

その地図にあった古い文字。意味は「旅の途中」。
「アンティアーロ・アンティラーゼ」
新しく旅立つ子どもに向けてはなむけに贈ったりする言葉だそうです。
その言葉をお守りがわりに西に向かうペチカは、途中、機関車のりの女性ヤヤに助けられながら、西のはじの町にたどりつきます。

死後の国のような草原を抜け出し、忘れ物預かり所の番人ミレアに会うペチカ。
そこでペチカは自分が物の声を聞けることに気づきます。
「帰るべきところ」を目指し、ドアを開けたペチカ。
そこは故郷トリニティーの教会でした。

いちばん帰りたくなかった場所。でもペチカは一年前と街が違って見えることに気づきます。それはペチカ自身がさまざまな街を見て成長した証でもありました。
そこでのペチカとフィツ、そしてルージャンとの再会。

「昨日も助けてもらったし、ルージャンが前とは変わったのも分かるけど、でもやっぱりそれくらいじゃ許せない。フィツはルージャンのこと、信じてるみたいだけど、私はどうしても信じられない。」
ペチカが長いことかけて負った傷は、簡単に消えるものではありません。

翌朝町に出たペチカは、目が紫色になった村人たちに襲われそうになります。
それは壊れたはずだった炎水晶の影響。
ペチカはオルレア、ハーティ、老婆を救うためパーパスへ向かいます。二度とペチカを裏切りたくないと、裸足のまま密林を同行するルージャン。
失った信頼を取り戻すためには、そのチャンスを一度たりとも逃してはいけないという覚悟、ひしひしと伝わります。

たどりついたパーパスは火の海。そして空を骨の羽で飛ぶ奇妙な生き物の姿が。
それは悪の傀儡となり変わり果てたヴォーの姿でした。
天界の塔の上に連れ去られるペチカ。そこで見た巨大な炎水晶。

「炎水晶は人間を悪く変えるのではなかった。
ただ、人間の中にある悪い部分を引き出してくるのである。
いちばん恐ろしいのは、目を紫にした人たちが狂っているのではなく、普段もああいう気持ちを心の中に隠して生きているということだった。」

炎水晶に極限まで近づいてその影響を受けはじめるペチカとルージャン。
噴出す過去の強い憎しみ。
この作品では人間の、世の中の悪い面が強く激しく描かれています。パーパス崩壊の場面なんて、長く暗く痛く、読んでいてつらすぎました・・・。
対照的に、あたたかく優しい記憶たちは劇的ではなく、ひっそりと描かれています。でも逆にそれが私の中で印象に残るのです。
そしてそれは辛いときにふたりを支えたものでもあります。
ペチカ、ルージャンが恨み・憎しみに自分の心をのっとらせまいとする、葛藤と苦しみ。

「強くなりたい」
「もっと優しくなりたい」

ペチカから放たれる白い光、ついに屈服する炎水晶。
そして訪れた金色の雨、「妖精の日」。

フィツがかけた大きな虹、本当に胸がいっぱいになりました・・・。

フィツの言葉。
「変われるってことはすばらしいことなんだ。
変われるってことは、いつだって可能性があるってことなんだ。
変われるってことは、絶対にあきらめるなってことなんだ!」

他人には優しくするほうがもちろんいい。
けれど、故意に傷つけられた、誰かを傷つけてしまった、
その行為が消せない以上、あとはどう乗り越えるか、つぐなうか以外に道はない。
人は変われる。必ず変われる。

このメッセージが強く心に残りました。

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