Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」万城目学著(筑摩書房)

2010-02-01 | 日本の作家
「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」万城目学著(筑摩書房)を読みました。
かのこちゃんは小学一年生の元気な女の子。
マドレーヌ夫人は犬語を話す優雅な猫。
その毎日は、思いがけない出来事の連続で、不思議や驚きに充ち満ちています。
万城目さんの最新作です。

「かのこ」ちゃんの名前は「岡本かのこ」からとったのかと思いきや、実は・・・。
万城目さんの既作品とのつながりが連想される素敵な命名です。

かのこちゃんとすずちゃんの「大人のお茶会」、男子女子の「難しい言葉勝負」など、子供らしさいっぱいでおかしくてとてもかわいらしかったです。私がもし勝負するなら?・・・「まこもたけ」かな。
「フンケーの友」もすごい。本当にあんなこと、トイレでできるの???

本作で描かれる「不思議」はホルモーや鹿男とは違って、いかにも日常にひそんでいそうな雰囲気があって、面白かったです。
別れの9月はもらいなきしてしまいました。

出版されてまだ間もないので、ネタバレはこれくらいにしておきます。
新書なのでお財布にも優しいのがうれしいところ。
装丁はクラフト・エヴィング商会です。


「料理人」ハリー・クレッシング著(一ノ瀬直二訳)早川書房

2010-02-01 | 外国の作家
「料理人」ハリー・クレッシング著(一ノ瀬直二訳)早川書房を読みました。
ヴィレッジ・ヴァンガードで見かけたPOP。「これ一作に根強いファンがいます!」
惹かれて文庫を買ってしまいました。・・・で、実際に読んで正解。面白かったです!

舞台は平和な田舎町コブ。自転車に乗りどこからともなく現われた料理人コンラッド。
街の半分を所有するヒル家にコックとして雇われた彼は、舌もとろけるような料理を次々と作り出します。やがて奇妙なことがおきます。彼のすばらしい料理を食べ続けるうちに、肥満した者は痩せ始め、痩せていたものは太り始めたのです。

人をぐいぐいひっぱっていくストーリーテラーぶりがすばらしい著者・クレッシングは、覆面作家だそうで、正体はいまだ明かされていないそうです。いったい誰なのでしょう?
しかしこのカバー絵、平井堅さんに似てるよな。

彼がまずつくったのは朝食のマフィン。
奥様が召使に聞きます。「このマフィンのお代わりはないのかしら?」

そして次々と彼が作りだす素晴らしい朝食、ディナー、野外料理。
その料理の腕と巧みな弁舌で屋敷内で、村で、のしあがっていくコンラッド。
彼は「悪魔的」でありながら必ずしも「悪魔そのもの」ではない。
ブラック・ファンタジーでありながら、もしかして現実に似たようなケースがあるのかも?とも思わせるのが面白さのひとつのツボ。主従関係が次第に転倒していくのですが、それでも元主人側がにこにこしているのがまた不思議で面白い。

ひとつ難点をいえば、最後は結婚式の場面で終わってもよかったのでは。
太ったコンラッドはちょっと嫌だな・・・。

コンラッドほどの力を持つ人物が、シティでどんな生活をして、コブに来ることになったのか。
作品に描かれていないサイドストーリーも気になりました。

サリンジャー氏のご冥福をお祈りします。

2010-02-01 | 柴田元幸
本日(2010.2.1)の朝日新聞の朝刊に柴田元幸さんが「サリンジャー氏を悼む」という表題で寄稿されています。

サリンジャーさんは御年91歳だったそうです。「ライ麦畑~」の中でホールデンが「いい本とは、読み終えてすぐその作家に電話をかけたくなるような本だ。」という意味の台詞を話しますが、もし電話番号を手に入れられたとしても、もう永遠にサリンジャー氏の肉声を聞ける機会はなくなってしまいました。

私が初めて「ライ麦畑でつかまえて」を読んだのは20代前半です。
その時は「いい本だな」とは思ったのですが、すでに社会人だった(大人の領域に入っていた)ため、「10代に読んだほうがもっとその後の生き方を変えかねないように、心にずんときただろうな」とも感じました。
今思うと、野崎さん訳のホールデンは「べらんめえ」口調なので「大人はわかってくれない」的少年の匂いが強かったのだろうと思います。
03年に出版されている村上さん訳の翻訳は「いい家庭の子」的な口調ホールデンなのでまた印象が違います。
現代の10代の人たちは村上さん訳ホールデンをどう感じて読んでいるのでしょうか。

柴田さんは記事の中で「(サリンジャーが時代を超えて読み継がれているのは)ありていにいえば、自分がいまここにこうして在ることへの違和感・いらだちといった、むろん若者にありがちではあれ、決して若者占有ではない相当に一般的な思いが、「キャッチャー」や「ナイン・ストーリーズ」のせわしない、自意識過剰気味の語りを通して伝わってくるのではないか。」と語っています。

サリンジャーの作品は「若者のため」のものだけではない。「キャッチャー・イン・ザ・ライ」、また再読してみようかなと思います。これから読む方は読後に柴田さん・村上さん共著の「サリンジャー戦記」もあわせて読むのもおすすめです。

しかし、あれほどの作品を残された方が、家の中で何も書かずにいたとは正直考え難いので、何かしらの文章を書かれていたのではないでしょうか?
もしあれば当然各出版社の激しい争奪戦でしょうね。(ちょっと不謹慎かな・・・)
今後サリンジャー氏のほかの作品が発表されるのか、気になります。