Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「文藝(2009.春号)特集・柴田元幸」河出書房新社

2009-03-11 | 柴田元幸
「文藝(2009.春号)特集・柴田元幸」河出書房新社を読みました。
「小説の書き方・読み方・訳し方」高橋源一郎さんと柴田元幸さんの対談。

「人がイメージする柴田さんは万巻の書を読んでいて語学の達人で何千もの原書の中から自分が「これは気に入った」という作品を訳す、というイメージがありますよね。だけど実際の柴田さんはそうじゃなくて、読んだものを全部訳す。(笑)」
「ええ。そうなんですね。」

へ~そうだったんですね。
私も柴田さんはものすごい読書量の中から選んで翻訳しているのだと思ってました。

ほかにも古川日出男さんや岸本佐知子さんとの対談が掲載されています。

書き出しで読む「世界文学全集」英米篇が豪華です。
「柴田さんが暇になったらやってみたい」古典の冒頭部分のみの翻訳。
メルヴィル、オースティン、ディケンズ・・・冒頭だけでなく全部よみた~い!
「フランケンシュタイン」などがあるのが珍しい感じ。

柴田さんの仕事場の写真も掲載されています。
明るい窓際に広い白木の机、たくさんの本棚が並ぶ部屋、気持ちよさそうだなあ。


「テンペスト(下)花風の巻」池上永一著(角川書店)

2009-03-11 | 日本の作家
「テンペスト(下)花風(はなふう)の巻」池上永一著(角川書店)を読みました。
下巻は琉球王国に列強の風が吹きます。
ネタバレありますので、ご注意ください。

八重山に流された真鶴は女の身に戻ります。
真鶴が踊る姿を見初めた在藩は真鶴を王宮に送り込みます。
それは実は尚泰王のあごむしられ(側室)にするためでした。
そこで出会い、親友となるもうひとりの側室、真美那(まみな)。
一方、黄昏の美しい王国にペリーが来航します。
恩赦がくだり、近代化の波に立ち向かうため再び宦官として働く寧温。
しかし側室と宦官という一人二役劇は突然幕を閉じます。

下巻は上巻より描かれている期間が長いせいか、ちょっと駆け足な印象。
いくら男装の麗人とはいえ、 自分の夫・尚泰王や息子・明までもが寧温と真鶴が同一人物と見抜けないなんてことがあるのかな?と思わずツッコミたくなります。
でも「真鶴はただの人間ではなく竜の化身だから」ということになってます。
もろもろのマンガチック的表現にも「もう一息でライトノベル的空気を抜け出せるのにもったいない」感がありますが、力技でこれだけ未開拓の舞台を描き、面白い小説を作り上げているのだから、すべてよし。

下巻では、真鶴にまつわる多くの人々が立身出世をとげます。
朝薫は結婚し、一時は左遷も味わいましたが最後は三司官に。
あがまだった思戸(うみとぅ)は女官大勢頭部に。
真美那(お嬢様爆弾が面白い)はうみないび(女王)を出産。

一方、辛酸をなめた代表格は前の聞得大君・真牛(もうし)。
ノロとなり、ジュリ(遊女)となり、マブイ(魂)落ちとなり、ついにはニンブチャー(葬式女)に。
それでも決して生きる力を失わない真牛は、寧温のしなやかさとはまた違う種類のたくましさ。この作品のもうひとつの主人公でもありますね。

琉球王国は姿を消しましたが、民は生き続ける。
いき続ける真鶴、雅博、明の未来が琉球の神に祝福されつづけることを願います。