Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「幽霊を見た10の話」フィリパ・ピアス著(高杉一郎訳)岩波書店

2007-07-13 | 児童書・ヤングアダルト
「幽霊を見た10の話」フィリパ・ピアス著(高杉一郎訳)岩波書店を読みました。
児童文学の名作「トムは真夜中の庭で」の作者ピアスがその二十年後に書いた短編集。
原題は「The Shadow‐Cage and Other Tales of the Supernatural」。
表題作「影の檻」をはじめ、十の短篇がおさめられています。
児童文学として出版されているのですが、子供に不思議さは理解できても、真の怖さを理解するのは大人じゃないと無理かもなーという感じもしました。
日本訳は「幽霊」となっていますが、どの作品も吸血鬼やゴーレムのようなお化けは登場しません。
どちらかというと自分の凝り固まった憎しみや、幼い日のトラウマ、酒による幻覚、死んでも昇華しきれない想い・・・など人の心の持つ暗闇と、影が描かれています。自分の心のはずなのに、自分でも制御しきれずにふくれあがった想いにふりまわされる人間、その怖さがじわじわと迫ってきます。

私が特に印象的だったのは「ミス・マウンテン」。
母に先立たれ、叔母に虐げられて心がねじれ、過食に走る少女。それを残酷に楽しむ叔母。
自分の(弟の?)足音に追いつかれる「ジョギングの道連れ」は本当に怖かった・・・。
ジャネット・アーチャーさんのぼんやりとかすんだ挿絵も作品にぴったりですばらしいです。