Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「愛のゆくえ」リチャード・ブローティガン著(新潮社)

2005-02-15 | 柴田元幸
「愛のゆくえ」リチャード・ブローティガン著(新潮社)を読みました。
主人公は司書。彼の所属する図書館は普通の図書館のような本の閲覧や貸し出しはありません。さまざまな人が自由に書き上げた作品を受け取り、登録し、保管するだけの不思議な図書館です。
冒頭ではひとりの老婦人が訪れます。彼女は窓一つないホテルの一室でロウソクで花を育て、そのことを5年掛けて書き上げ、彼の図書館に持ち込み、満足して帰っていきます。
主人公は数年間図書館から外には一歩も出ていない世捨て人。『気持ちよく親切に接しなければならない。それが大切だ。本とそれを持って来た人に求められているという感じを与えることだ。それがこの図書館の主要な目的だからだ。それに求められていないもの、つまりはアメリカ人の書いた抒情的でとり憑かれた書物をここに気持ちよく集めることがね』

そんな彼のもとに、ある日ヴァイダという若い娘が本を持ち込みます。彼女はあまりに美しく、男性には激しい性欲を、女性からは憎しみを受ける自分の肉体に嫌悪を抱き自分を捨て去りたいと思っています。ヴァイダと主人公はお互いに響きあうものを感じ、ふたりの図書館での奇妙な同棲生活が始まります。そして主人公は彼女との関係のために一日図書館を他人に任せたことにより、司書を降りることになってしまいます。彼はヴァイダの部屋へ向かい初めてビートルズを聞き、朝食をとり、「普通の」生活に戻ります。

主人公は世間的な見方からすれば人生の敗北者。しかし同じような人々が書いた本を受け入れる司書の仕事こそが彼自身の「求められている場所」となり、そしてヴァイダと出合うことにより、さらに自分から「他人と関係を持つ」覚悟が生まれていきます。その過程が丁寧に描かれている一冊。主人公とヴァイダの会話もユーモラスであたたかく、ストーリーだけでなく、作者の文章の巧みさも楽しめる本でした。