Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

『鶴』 長谷川四郎著 (講談社)

2004-12-21 | 柴田元幸
『鶴』 長谷川四郎著 (講談社)を読みました。

表題作『鶴』、時は敗戦直前の満州、国境の監視哨での日本兵の物語。
望遠鏡に映る人々の生活と自然。
そして主人公が初めてその土地で見た、ま白く静かに立つ鶴。
鶴を狙う死神のような黒い影はそのまま戦争と平和のメタファーのようです。
友人兵矢野の逃亡、ほどなく監視哨は爆撃にあい、撤退時に望遠鏡を
携行し忘れた一隊。結局主人公が哨舎に取りに戻ることになります。
そして主人公を襲う一発の銃弾・・・。

この作品ではストレートなメッセージは何も語られていないのですが、
物語全体の美しくすらある哀しみから、自然と「平和への希求」が
にじみ出ているように感じられます。

講談社文芸文庫にはほかにも戦争を題材とした、中国人やロシア人を
主人公にした作品が収められています。
戦時教育を受け、シベリヤ抑留を体験した作者が公平な視点で戦争を描いた
ことに私は驚きを隠せません。
長谷川さんの書く小説から受ける印象は、ほかの「戦争体験記」よりずっとクールです。
だからこそ逆に深みと広がり、普遍性が感じられると私は思います。

文庫にはほかに『張徳義』『ガラ・ブルセンツォア』『脱走兵』『可小農園主人』
『選択の自由』『赤い岩』が収録されています。