Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

『世界の中心で愛をさけぶ』(DVD)

2004-12-15 | 村上春樹
『世界の中心で愛をさけぶ』(映画・DVD)を見ました。

ひねりのない、とてもストレートなメッセージを感じる映画でした。
主人公サクと少女アキの高校時代のまぶしい恋の思い出と、アキの突然の発病・死。

その記憶を結婚間近の主人公が回想するという二重構造になっていますが、
個人的にいうと現在の主人公はもっと年齢を重ねた設定の方がよかったのでは
ないかなあと思います。

高校時代の主人公の恋人を亡くした姿と、
現在の主人公が過去の辛い記憶を支えきれず苦しむ姿と、
どちらの姿も若く、生生しくて映画としては「どっちつかず」のような感じがしました。

というわけで残念ながら私は泣けませんでした。
でも私は原作を読んでいないので、あるいはこれは偏った意見かもしれません。

『阿久正の話』 長谷川四郎著 (講談社)

2004-12-15 | 柴田元幸
『阿久正の話』 長谷川四郎著 (講談社)を読みました。

もともと村上春樹さんの『若い読者のための短編小説案内』を読み、
興味をもって読んだのですが、確かにひきつけられる文章でした。

表題作の主人公・阿久正(あくただし)は一見平凡な会社員。
物も持たず出世欲もなく、かといって隠者めいたところもなく、
どことなく宮澤賢治の『雨ニモ負ケズ』の「デクノボウ」を思わせます。
そんな彼は職場では「仕事はできるがいるかいないかわからない人」。
でも私はこの作品を読んで、阿久正の「生活に対するこだわりのなさ」よりは、
逆に「何にもとらわれず、ありのままの自分でいること」に強く固執する
頑固さを感じました。

これは同講談者文芸文庫に収録されている『ホタル商会』の主人公・小林ワタル
にも感じられることです。
几帳面で正直で決して優秀ではないけれど、大胆にも見える図太さがある。
多くの人は周囲の環境によって自分が尊大になったり、卑屈になったり
しがちだと思いますが、彼は決して周囲に左右されない強い「自分」をもっているのです。

これは決して「平凡な庶民」の話ではないなと思いました。
そんな主人公たちの姿に、私は憧れと同時に脅威も感じます。

ちなみに同文庫には、このほかに
『辻馬車』『チフス』『ガングレン』『足柄山』『林の中の空き地』が
収録されています。