満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

瀧口修造とシュレアリスムの距離

2019-04-02 | 新規投稿


私は学生時代、音楽を媒体とするミニコミを発行し編集長に収まっていた。ガリ版印刷による学内で発行するだけの全く素人仕事な代物だったが、今思えば、音楽を聴いてインプットされた感激を感情的にアウトプットする貴重な自己表現の場として活用していた節がある。
いわばフラストレーションの発散に役立っていたとも言えるが、その中に「余白に吐く」というタイトルで殴り書きのような断片の寄せ集めを書いていた事を最近、思い出した。これは日本のシュルレアリストの代表的存在である瀧口修造の「余白に書く」をもじったタイトルである。
更に言えば、私は1984年、大学4年の時、京都のZABOでソロで演奏する機会を得たが、アナログシンセでアンビエントやノイズを発しながら瀧口修造の詩、「想像と火」を朗読した。これもテープを聴き返すと情けなくて今では全く聴けたものではないが、いずれにしてもこのように事あるごとに滝口修造を引き合いに出している所を見るに、当時の私が瀧口修造の詩やデカルコマニーと称されるアート作品に強く惹かれていた事は間違いない。はっきりした記憶はないのだが、シュルレアリスムに関心を持ち始めたとほぼ同時に‘日本では?’という関心に向いていたのだろう。そしてジャパン・シュルレアリスト滝口修造にのめり込んでいった。アンドレ・ブルトンに会見した唯一の日本人という当時の紹介文にもそのカリスマ性を感じたのだと思う。
瀧口修造は美術批評家を志望する武満徹に対し音楽家への道を勧めたり、加納光於、その他、多数のアーティストを育成した実験工房なる組織を率いる、戦後の日本のアートシーンの立役者たる位置にいるのだが、私も80年代を通じ、ずっと瀧口修造の書籍を買い求め、その表現を愛好したと思う。

しかし、90年に発刊された生田耕作(セリーヌ、バタイユの翻訳で著名)の「超現実の方向へ」というシュルレアリスムに関する評論集の中で、瀧口修造が戦時中、時局迎合的な文章を書いていた事を暴露したようなエッセーを掲載しており、微かな衝撃を受けた。しかもそこには米軍の空襲の写真と共に、瀧口修造が官憲に拘束され、何か月にもわたってシュルレアリスムとコミンテルンの関連性、その関わり具合について尋問を受けた‘史実’を否定し、弾圧に屈しなかった芸術家という伝えられる姿は虚像であると断言していた。全編を通じ、かなり悪意に満ちた文章であったと記憶する。確かに瀧口修造の実際の文章、それは確か「戦時に於ける我々、芸術家に与えられた役割~」といった内容で私は一瞬、「まさか」と感じたが、その後、当時の客観的な情勢的把握とあらゆるアーティストの当時の正直な感情を顧みるに、特別な汚点ではないと考えるに至った。これは戦争をどう評価するかという視点とも関わってくる問題で私の感想の根拠を述べると長くなるので、論を避けるが、同時に‘東京の商業主義’に嫌気がさし京都に住み、独自の表現とインデペンデントなリリースをしていた生田耕作が瀧口修造の影響下にあるシュルレアリスム系のアーティスト達と鋭く対立している大きな構図もわかってきた。詩人の飯島耕一は生田耕作を‘京都のデマゴーグ’と罵っていたのを覚えているし、私は生田耕作の仕事はシュルレアリスムというより、怪奇、異端、エロス系のもので、澁澤龍彦の系統に同一であるとも感じていた。いずれにしても
瀧口修造の影響力、その作品の魅力はそのまとまった著作「詩的実験1927-1937」やその全集に満ちている。そこはイメージの宝庫の世界だと感じている。そこにフランス初のシュルレアリスムとの決定的差異があるにしても。私が愛好した瀧口修造はその非政治性も特徴とした。そこにヨーロッパ本家のシュレアリスムとの相違があり、それは当初からわかっていた事だった。



4/6 (sat)Live and talk program ‘満月に聴く音楽’ ‘surrealism’ シュルレアリスム

Starlling
◦松本和史Mastumoto Kazuhito(Experimental movie)
◦Kazuto Yokokura(laptop)×長野雅貴Nagano Masataka(typewriter, other devices)
◦菊石 朋Kikuishi Tomo (poet reading)×宮本 隆(bass,sampler)

Talk about ‘surrealism’ 松本和史(詩人)聞き手:宮本 隆

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18:30 open 19:00 start
Charge2000 (excluding drink order)

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大阪市西区南堀江3-6-1 西大阪ビルB1F
https://nuthings.wordpress.com/

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