Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

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「勝利のルール」を読んで

2005-10-27 20:45:30 | 読書録(その他)
2004年ル・マン24時間レース。
地上波で中継されていなかった事もあって世間の注目を浴びなかったが、日本人オーナーのプライベート・チームが初優勝を飾った。
これまでル・マン24時間レースでは、1日本車としては1991年にマツダが初優勝、19日本人ドライバーとしては1995年に関谷正徳が初優勝をそれぞれ飾っている。
ただ、「日本人オーナー」のチーム、しかもプライベート・チームとしての優勝は2004年まで待たなければならなかった。

本書はそのチーム、「チーム郷」のオーナー兼総監督だった郷和道氏の半生を綴ったものである。
彼がブリジストン創業者の孫である事は知っていたが、放っておいても将来が約束されている道を捨ててまでレースに身を投じた理由はよく分からなかった。

小学校の時にクルマに触れ、中学に進学。しかし、そこで人生は暗転する。
学生運動盛んな時に中学に進学した時、イジメの標的にされた。
その理由が「大企業の創業者の孫であり、自民党の元総理と親戚であり、赤坂に住んで、軽井沢に別荘まであるような人間は悪い奴に決まっている」と見事なまでのレッテル貼りぶり、異分子排除ぶりには現在の視点から見ると呆れてしまう(いや、今でもあるか)。

しかし、苛めた側は何とも思っていないかもしれないが、当の本人は中学生時代に出たクルマを筆頭に、当時の製品に今でも手を触れることができないというから、そのトラウマは深刻である事は想像に難くない。

そして不登校になった末に単身アメリカへ留学。そこで日本語を忘れてしまう程に勉強するも自分が「アメリカ人」になれない事を悟り、帰国して大学へ入学。
しかし、そこでも大学にとけ込む事はできず、「異分子」である事を実感する日々を過ごす。

そんな彼が富士スピードウェイで開催されたF1日本GPに関わった事でようやく社会に関わるキッカケを掴み、その後は有為転変を重ねつつ、ル・マン優勝への長い道を歩んでいく事になる。

郷氏の生き様を本書を通じて見ると、「異質な物を排除する日本社会との戦いだった」という事に集約されるのではないだろうか。

群れる事を嫌い、独創的な発想を好む。
「出る杭は打たれる」という言葉に象徴されるように、そういった人間が自らの主張を貫いて生きていくには相当の覚悟と努力が要る国。
他の国では何ともない生き方かもしれないが、日本ではそれが難しい。
特に会社等の組織に属している人間にとっては。
結局、郷氏が取った選択肢はある意味で必然だったのかもしれない。

また、本書では勝負事によくありがちな「精神論」は登場しない。
お金儲けという文脈だけでは「レース」の世界は理解できない事も本書は教えてくれる。
というのは、「レース」単体では儲けは出ない。しかし、継続して参戦する事、そして「勝つ」位置にいる事がどれだけの人間的な繋がりを生むか。
最近日本では忘れられがちな要素がいかに大切か、その事を教えてくれる。

そして、挫折はあったが郷氏の生き方を見ていると今のIT長者に見られる「傲慢さ」は感じられない。
自らの資産を何気なく、まるで自然に費やしてル・マンに挑み続けて勝った。
その生き方、お金の使い方が実に格好良い。
本当に同じ時代を生きている「お金持ち」だろうかと思ってしまう。
本書を読んで、次の郷氏の挑戦が楽しみになってきた。

ちなみに本書を読まれて、郷氏のレース活動をもう少し知りたいという方は「ルマンに勝つ方程式」(Sports-Car Racing Group)を合わせて読まれる事をお薦めする。
「ル・マン24時間」で勝つには何が必要か、トヨタと日産といった大メーカーを以てしても勝てなかったレースにプライベートチームが何故勝利できたのかが理解できると思う。
入手するのは難しいかもしれないが、一読の価値はある。

<データ>
「勝利のルール ル・マンを制した男 郷和道」
著 者 高桐唯詩
出版社 WAVE出版
定 価 1600円(本体)
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