ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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交通事故「刑罰軽い」4割の背景にある事情

2014年01月24日 | Weblog

平成二十五年十ニ月十三日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「朝刊ピックアップ 正月企画 政治編」で記事 
 
「交通事故「刑罰軽い」4割の背景にある事情」
 
を企画、取材、執筆しました。

 


 お酒を飲む機会の多くなるシーズンに入った。例年12月は一年で最も交通事故による死亡件数が多い時期であり、各地で盛んに飲酒運転撲滅キャンペーンが行われている。そんな中、「交通事故被害者調査『刑罰軽い』4割」という記事が、けさの産経新聞に載っている。

 記事によると、警察庁が交通事故被害者ら1200人を対象に行った調査で、交通事故の加害者の刑罰について「殺人事件などに比べ軽い」という回答は44%に達したという。

 では、具体的に、どれほど刑罰に開きがあるのか。それについては記事に書いてなかったが、交通事故で「注意を怠り」人を死傷させた場合、通常、刑法第211条「業務上過失致死傷罪」の責任を問われる。条文には「七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する」とある。

 それとは別に、飲酒運転や、幅寄せで人や車を妨害したり、信号無視したり、ブレーキがきかないほど猛スピードで走るなどの危険運転で、人を死傷させた場合は、「故意に」死傷させたと判断される。これは刑法208条の「危険運転致死傷」に当たり、死亡させると一年以上二十年以下の有期懲役、負傷させると十五年以下の懲役になる。

 ちなみに、殺人は「死刑又は無期若しくは五年以上の懲役」(同法199条)、傷害は「十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」(同204条)。たしかに交通事故の方が刑罰は軽いが、その上、交通事故による死傷の場合、実は執行猶予率が異様に高い。

 「平成25年版 犯罪白書」によると、昨年中の裁判所の一審判決のうち、「自動車運転過失致死傷・業課」の件数は5,091件。そのうち有期懲役は4,987件だったが、うち4,626件は執行猶予が付いた。執行猶予率は実に92.8%に達する。また、「危険運転致死傷」は192件あったが、執行猶予率は62%だった。

 他方、「殺人」は355件あったが、執行猶予率は24.4%。「傷害」は3,947件あったが、執行猶予率は57.6%。

 この執行猶予率の格差が、冒頭の交通事故被害者の不公平感を増長させているのではないか。

 なお、交通事故による悲劇を減らすためには、水際の対策が必要といえよう。そこで興味深いデータがある。それは自動車安全運転センターが09年3月に公表した「安全運転に必要な技能等に関する調査研究(Ⅲ)」という調査結果。これは北海道と東京都に居住する運転手で07年に事故を起こした人の、過去5年間の事故経験や違反経験の有無、回数を分析したもの。

 それによると、居住地、性別を問わず、どの層も、過去に事故や違反の回数が多いほど、事故を起こす率が高かった。例えば、東京男性の全運転者は4,352,226人。そのうち、過去5年の事故回数3回以上の1,865人は、12.33%の割合で事故を起こしていた。この比率は事故2回7.23%、1回3.69%、0回1.32%と、回数が多いほど事故を起こしていた。

 交通違反経験者についても、過去5年で違反回数5回以上は211,084人。そのうち4.59%が事故を起こしていた。この比率は、違反回数4回は3.68%、3回3.17%、2回2.46%、1回1.68%、0回0.62%と、違反回数が多いほど事故を起こしていた。

 要するに、普段から交通ルールを守れないドライバーたちほど、人を死傷させるケースが多く、大半が執行猶予がついていることが予測できる。

 刑罰を重くするのも、悲劇を防ぐ方法の一つなのかもしれないが、それよりも人を死傷させるリスクの高いドライバーは野放しにせず、悲劇が起きる前に、長期間免許取り上げ、といった措置が必要ではないだろうか?(佐々木奎一)


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