【古典個展】
NHKの朝の連続ドラマ「カーネーション」をときどき見る。
これは、女性主人公が日本で洋服を広めようとして苦闘する姿を描いている。
モデルは実在のようだ。
ところが演出が奇妙。
女性は和服がふつうだったそのころ、洋服を広めようとする主人公自身はと言えば、ずっと和服姿なのである。
まず、自らが洋服姿であるべきなのに、ミシンで洋服を仕立てる作業中、和服のそれも襷掛(たすきが)け姿でガンバッテいる。
おかしい。
そこでふっと思った。
これはひょっとしたら、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐる野田政権の姿のギャグではないかと。
すなわち私は和服でがんばるわ。
けれど日本のみなさん、洋服(TPP)着てね。
安いからどんどん着てね。
洋食も安いわ、というギャグ。
いまTPP参加の賛否に国内で対立が起こっている。
TPPとはどうやら関税を参加から10年後までになくすものらしい。
もちろん関税だけではなくて、文化破壊にもつながるらしい。
しかし、とりあえずは関税だけについて言えば、これは国家の根幹に関わることではないのか。
その大前例がある。
すなわち、江戸幕府が結んだ外国との条約は、日本にとって不利な不平等条約であった。
開国派だの攘夷派だのという話はとっくの昔になくなっており、開国による条約がもたらした二大不利に明治政府は苦しんだ。
一つは、領事裁判権(いわゆる治外法権)が、外国人外交官だけに適用されるのではなくて、日本国内の欧米外国人すべてに及ぼされていた。
すなわち外交官以外の外国人を日本の法律で取り締まれなかった。
いま一つは、わが国の産業を守るため、安い外国産品の輸入時に税を課すことができる関税自主権がなかったのである。
江戸幕府は無知であり迂闊(うかつ)であった。
しかし、条約は条約である。
明治政府はこの2点を中心に不平等条約改正に向けて全力投球し、明治27(1894)年にやっと実質第一歩。
そして44年に改正を達成する。
欧米列強を相手に交渉して勝ち得た関税自主権なのである。
東南アジア諸国には、自力で欧米を叩(たた)きだし、自力で関税自主権を得た歴史はない。
ここ何十年か前、天から降ってきただけだから、いとも簡単に手放すわけである。
そういう連中といっしょになって関税自主権を放棄しようとする野田政権は、苦心して関税自主権を得た明治政府に対して、また父祖たちの苦労に対して、どう申し開きができるのか。
かつて欧米は、日本の関税自主権なしによって、日本に対して有利な通商貿易をし、日本から富(とみ)を流出させていった。
いままた、日本の関税自主権をなくして、日本から富を奪おうとしている。
ドラマ「カーネーション」の和服姿の主人公は、洋服(関税自主権)を持たないくせに、洋服を着ている気分で皆と交際している間抜(まぬ)け-それは将来の日本の姿でもある。
TPPになにも急いで参加する必要はないし、小銭目当(こぜにめあ)てで大金を失うことはない。
古人曰(いわ)く、「速(すみ)やかならんことを欲(ほっ)するなかれ。
小利(しょうり)を見ることなかれ。
…小利を見れば、則(すなわ)ち大事成(だいじな)らず」(『論語』子路篇)と。
(立命館大教授・加持伸行)
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