博多住吉通信(旧六本松通信)

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デュアルユースの問題 民から軍へ

2016年03月21日 | 科学

 昨日は、戦後日本の産業・科学技術の発展史は、軍から民への転換が重要な契機となったということをご紹介いたしました。その後の日本では高度経済成長により産業界の研究開発力が資金面でも能力面でも著しく強化されました。平成26年度の日本の産学官の研究開発費は総額で18兆9713億円ですが、実にその71%(約13.5兆円)は民間企業によって支出されています。戦前のように軍部からの支援が無くとも、日本の産業界は研究開発を自力で推し進めることができました。

研究開発費の統計データはこちらです ⇒ http://www.stat.go.jp/data/kagaku/kekka/youyaku/pdf/27youyak.pdf

 その結果、民間企業によって平和目的で生み出された民生技術からも軍事転用されたらかなりの影響力をもたらすような技術も出てくるになったのでした。ドローン搭載用小型カメラや気象観測用超音波センサーなどが外国政府によってロボット兵器に使用される事例などがNHKのクローズアップ現代で取り上げられています。その番組では一昨年、北朝鮮が韓国に飛ばしたドローンに日本製カメラが搭載されていた事例が紹介されていました。

NHKクローズアップ現代の紹介はこちらです ⇒ http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3481_all.html

 そのようなハイテク機器でなくとも、ごくごく平凡な日常生活の中で使用されるピックアップトラックが、国際紛争の中で日本人が思いもよらないような強力な兵器として利用される事例もあります。1987年に中部アフリカのチャドでは、反政府勢力を支援する隣国のリビアが800両余りのソ連製戦車等でチャド国内に侵攻しました。この時チャド政府軍はトヨタ製ピックアップトラックのハイラックスに対戦車砲を搭載し、砂漠を軽快に疾駆し次々とリビア軍戦車を撃破し約7000人を戦死させリビア軍を撃退したそうです。ハイラックスの後部にはでかでかとTOYOTAのロゴが表示されていたため、いつしかチャド・リビア紛争は「トヨタ戦争」と呼ばれるようになりました。ハイラックス自体は、全くの民生品で当然装甲が施されている訳でもなく戦車に攻撃されればひとたまりもありません。ただ恐ろしく身軽で簡単に簡単には戦車砲でも捕捉できないことや、過酷な乾燥地でも耐久性に優れ故障も少なく安価であるなどの特徴で、極めて簡便かつ強力な兵器となったのでした。その結果、この手のピックアップトラックは「テクニカル」と通称され第三世界の武装勢力(政府側・反政府側を問わず)に広く使用されるようになりました。現在、イラク・シリアの「イスラム国(IS)」やパキスタンのアルカイダ勢力にも愛用されているのだそうです。

「トヨタ戦争」の画像はこちらです ⇒ http://cemberindisindan.blogspot.jp/2012/10/toyota-war.html

 このように日本の民生技術が思わぬ場面で世界の軍事情勢に影響を及ぼすこともあり、それが日本の不利益に跳ね返ってくることもありうる訳です。恐ろしいことですが。そう考えると民生技術の軍事転用可能性探索の取り組みが必要になっていると私は思います。昨日ご紹介した防衛省の「安全保障技術研究推進制度」も、具体的に防衛省としてこんな技術がほしいということではなく、様々な技術の軍事利用可能性を推し量るための情報収集の一環として位置付けられているのかもしれません。その証拠に研究成果は論文などの形で公開可能としていることが挙げられます。本当に「秘密兵器」を開発するためのプロジェクトであれば公開可能とはしないはずです。


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