いろはに踊る

 シルバー社交ダンス風景・娘のエッセイ・心に留めた言葉を中心にキーボード上で気の向くままに踊ってみたい。

大岡川沿いの桜・天声人語

2019年03月29日 07時01分06秒 | 心に留めた言葉
 平成30年3月27付朝日新聞「天声人語」欄で横浜の大岡川沿いの桜について語られている。その名文を紹介したい。

 桜の名所の一つ、横浜市南区の大岡川沿いをきのう歩いた。咲き誇る染井吉野の白の向こうに神代曙の薄紅の花が見える。八重紅枝垂れ桜はまだつぼみが多い。一口に桜と呼ぶが、樹種によって咲く時期も色も花弁の形も異なる。区によると両岸に計500本。明治末に住民が植え、戦時中は伐採されて薪にされたが、戦後に植え直される。区は樹齢60、70年をすぎて衰えた木に治療を施す。回復の見込めぬ木は切り分けて住民に提供してきた。
 「さくらの記憶」と命名された事業で、10年間に計2千もの幹や枝が引き取られた。桜の生木は硬くて重い。十分に干さないと加工できず、乾かしすぎれば割れる。花は可憐だが、材としては頑固で扱いにくい。それでも親しんできた桜を自分で加工したい、手もとに置きたいと望む住民は、区の予想を上回った。朽ちた桜が、額縁、座卓、箸置き、植木鉢、靴べらなどに生まれ変わる。彫刻を作る人がいれば、糸や布を染色する人もいる。
<さくら舞い散る中に忘れた記憶と君の声が戻ってくる>。
 大岡川に近い京浜急行の井土ヶ谷駅は、電車到着時にケツメイシの人気曲「さくら」の旋律を流す。メンバーの一人がかってこの街に住んだことにちなむ。桜並木を歩くとふいに記憶がよみがえる。祖父に手を引かれて歩いたこと、一人で足早に通り抜けた10代、恋人と歩いた記憶―。自分の半生を早送りで見るような思いがする。視界が桜色に染まるこの季節ならではの感覚かもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする