スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

書簡六十五&食欲の場合

2018-12-08 19:08:52 | 哲学
 チルンハウスとの文通のうち,書簡六十五はロンドンに滞在中のチルンハウスEhrenfried Walther von Tschirnhausがスピノザに対してダイレクトに送ったものです。まだパリに行く前ですから,この書簡にもライプニッツGottfried Wilhelm Leibnizの関与はありません。
                                     
 この書簡は書簡六十三の第一の質問に対し,スピノザが書簡六十四で答えたことについて,もっと詳しい説明を求めたものです。他面からいえばチルンハウスはスピノザの解答には不備があるとみなしたのです。したがってここではチルンハウスは,人間は思惟Cogitatioと延長Extensioの属性attributumだけを認識するのではなく,その他の属性も認識することができるのではないかといっています。
 チルンハウスの主張の中心は,第二部定理七備考でスピノザ自身がいっていることにあります。スピノザはそこで,無限知性intellectus infinitusが認識するすべての属性は唯一の実体substantiaに属するという主旨のことをいっています。チルンハウスによれば,人間はこのことを理解することができるので,世界が「唯一」であるということを理解することもできます。ところが各々の属性は無限に多くのinfinita仕方で世界を表現するexprimereので,人間は延長の属性の下では人間の身体corpusとして表現され,思惟の属性の下では人間の精神mensとして表現されるのだけれども,人間にとって未知の属性の下でもこれと同じような仕方で表現されなければならない筈なので,論理的には人間はその属性のことも認識できるのでなければならないのです。そして属性は無限に多くあり,それら無限に多くの属性がその属性の下に人間を表現するのであれば,人間は無限に多くの属性を認識できるのでなければならないでしょう。
 人間が思惟の属性およびその属性の下で表現されたものと,延長の属性および延長の属性で表現されたものだけしか認識しないということは,第二部公理五で示されていることです。つまりスピノザにとってそのことは公理Axiomaだったのです。ですからチルンハウスの主張は誤りです。第二部定理七備考から,チルンハウスが示したような事柄は帰結しません。

 すでに示したように,睡眠欲という感情affectusには反対感情が存在しません。ところが第四部定理七が示すように,感情はそれと相反する感情がなければ解消され得ません。反対感情と相反する感情を厳密に異なった意味で僕は用いますから,睡眠欲に対して反対感情がないからといって,同一の人間のうちに睡眠欲と両立することができない相反する感情が存在し得ないということにはなりません。そもそもどんなに強い眠気を感じていたとしても,起きていなければならないと思うことは僕たちにはあります。たとえば自動車の運転中であれば僕たちは確かにそのように感じるでしょう。これは起きていたいという欲望cupiditasの一種とみなすべきであって,睡眠欲に相反する感情であるといえます。ですが,それは睡眠欲の反対感情ではないと僕はみなすのです。
 この点はたぶん分かりにくいのではないかと思います。そこで睡眠と同じような一次的欲求であるといえる食欲について考えてみましょう。食欲が欲望のひとつであるということ,同時にまた何かを食べなければ人間はその現実的存在を維持していくことができないので,人間にあって食欲というのは自然の秩序ordo naturaeによって要求されている感情であるという点で,食欲と睡眠欲には共通する要素があります。
 食欲には反対感情はあると僕は考えます。これはたとえば病気になったときに,食欲が減退するというようなときに感じる感情です。何も食べたくない,食べる気がしないというような状態は,それに陥った経験がある方が多いでしょうし,あるいは自身にはそうした経験はなくとも,そうした状況に陥った人のことを見聞きしたということはほとんどの人にあるのではないかと思います。
 ところがこの感情,何と名付けるべきか分かりませんがこの食欲の反対感情は,食欲の相反する感情であることはできません。なぜならこの感情を反対感情と規定したときの条件から自明であるように,この感情が食欲と同時に同じ人間のうちに生じるということはあり得ないからです。
 一方,食欲に対する相反する感情もあります。食べたいけれども食べたくないという状況は現実的に存在する人間には生じるからです。
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