スズキの宇宙語練習帖

いわゆるひとつの雑記帳です。

人狼狂詩曲@シートン動物記

2009-05-19 23:07:59 | サウンド
「この広大な地域には、当時、専制的な力をふるっていた王がいた。それは一頭の年とった灰色狼だったのである。」


piaproなどで人狼狂詩曲(狂想曲)の歌詞についてお問い合わせいただいたので、それにお答えするべく、2番サビの歌詞について、シートン動物記に基づいた解釈としてどのようなものを準備していたのか、という視点から、簡単な解説を付け加えたいと思います。


・シスタスを香うときにさえ その眼をしかと離すなよ

シスタスは、別名をキスツスといいます。
花言葉は「私は明日死ぬだろう」
この言葉は、ブランカを失い完全にこれまでの自制を欠いてしまったロボの精神状態を比喩するものとして入れました。

「この夜、ロボは明らかに単身、牧場へ乗り込んできた。(中略)しかもその走りまわり方は、用心深いロボのものとは思えないほど取り乱したものだった」


・獄舎に耳を澄ますように 私の歌に応えろよ

獄舎という言葉は、オス狼同士の群れが暴力をベースにして結成されることを前提として、まるで部下を獄に繋ぐかのように厳格な支配体制を群れに敷いた、ロボのリーダーシップを比喩する意図で使用しました。
最後の場面、危機に瀕したロボの吼え声に呼応したものはいませんでしたが、これはロボがリーダーとしての求心力を失ったという解釈以外に、狂乱状態に陥ったロボによって、部下が処刑された可能性もあったのではないか、と私は考えています。

「そして最後に峡谷を揺るがすような重々しい低音の咆哮をあげた。(中略)しかし、それに対応する応答の叫びは、どこからも聞こえなかった。」


・すべてが壊れるときにさえ 私をしかと抱きしめろ

これは、群れの崩壊した後も、ブランカを捜し求めて単身シートンのもとへと乗り込んできたロボの幻視のイメージです。実はシートン動物記のエンディングでは、ついにロボはブランカの元へとたどり着くことが出来ているのですが。

「哀れな老いた英雄は愛する妻の捜索を諦めなかったのだ。そしてブランカの体が引きづられた跡を見つけると、前後の見境もなくそのあとを追い、仕掛けられた罠に落ち込んでしまったのだ。」


・挽香に狂える夜明け前 谺す我らの葬送歌

「挽香」というのは造語です。
同じ音をもつ「挽歌」という単語は、葬送の時、柩を挽く者が歌った歌が語源となっているそうですが、これを下敷きに、シートンが捕らえて殺したブランカの死体を、その香りによってロボをおびきよせるため、罠を埋めた道で引きづりまわしたエピソードにもとづいて、歌詞の単語を作りました。
この罠に陥り、ロボは計130kg強の足かせに四肢の自由を奪われ、ついにはシートンに捕らえられることとなります。

「罠をすっかり覆い隠してしまうと、私は哀れなブランカの死体を持ってきて、おのおの罠をかけた場所で引きづりまわし、さらに牧場のそばをひとめぐり引きづりまわした。それから最後にブランカの足を一本切りとって、おのおのの罠の上に一列の足跡をつけた。」

以上です。
ちなみに人狼(ルー・ガルー)というのは、ロボにつけられた数多くの呼び名のうちのひとつです。

※1940年代、アメリカの灰色狼は絶滅しています。

Shangri-La / おう、わしらじゃ

2009-05-17 22:32:05 | サウンド
ボーカロイドマスター8へご来場の皆様、本日はお休みのところ、またお足下の悪い中、お越しいただきまして本当にありがとうございました。
本日は、私の小さな心ではとてもとても受け止めきれないほど、たくさんの贈り物を皆様から頂戴いたしました。どうもありがとうございました。
本日会場でお会いすることのできた皆様ひとりひとり、また本日の会場からは遠方におられた皆様ひとりひとり、そしていまだ出会わぬ感性上の友人の皆様ひとりひとりへ、ささやかなエンターテイメントを今後も提供できることを望むばかりでございます。

ニール、ジャック、ときどき俺

2009-05-16 07:59:03 | サウンド
■Vocaloid Master 8

明日5/17、PiO(大田区産業プラザ)にて行われるVocaloid Master8に、すずきP名義で参加いたします。
"おう、わしらじゃ(スペース番号D18)" にて アルバム"Shangri-La"を発表いたします。
また、コラボレーション企画"ロマンワークス(スペース番号A16)"にも一曲参加しております。
当日はぜひお気軽に遊びに来てください。


■League of Gentlemen

5/13、欧州委員会は独禁法違反として10億6000万ユーロ(約14億4000万ドル)の制裁金支払いをIntelに命じた。さすが欧州委員会。おれたちにできない事を平然とやってのける。そこにシビれるあこがれる(財源的な意味で)。Intel側は控訴の構えだが、秘策でもあるのだろうか。
この件に関してIntelは、先立ってAMDに対して1億5000万ページという常軌を逸したボリュームの抗議文書を送りつけて以来、目立った動きを見せていなかったようだが、これとはまた独立に、アラブの投資会社の支援を受けてファンドリの分離を進めるAMDに対し、x86のライセンス契約に関連して3/16に違反の警告を行っている。この件でIntel側の提示した返答期限が60日であり、ちょうど本日ということになるだろうか。それぞれでIntel側の態度に幅はあるが、いずれにせよAMD側の切り札は独占禁止法だ。

Paranoids

2009-05-09 19:34:11 | サウンド
週明け、ECがIntelに対して競争法違反を認定する見込みらしい。
毎度のことながら「Intelなら仕方ない」的なこの空気はいかがなものか。

Hungry Like a Wolf

2009-04-24 08:20:34 | サウンド

ロボ


ブランカ

・狼王

久々にボーカロイドを使った曲をネットにアップしました。
今回はだぶるくりっくさんに動画用のイラストを描いていただきました。

人狼狂詩曲

この曲は最近作ったCDアルバムにも収録しましたが、動画版とCD版ではミックスバランスとマスタリングを違えています。動画版では、PCのオンボードオーディオジャックにつないだ小さなスピーカやイヤホンでも歌がよく聴こえるようなバランスを、CD版ではトータルでのドライブ感を重視したバランスを採用しました。CD版ではギターやベースの跳ね具合がはっきりと聴こえる仕様になっています。

今回は、シートン動物記の狼王ロボのエピソードを歌詞や構成の前駆体にしました。人狼(ルー・ガルー)とは数多あるロボのあだ名の一つです。参考にあたってシートン動物記の集英社文庫で出ている翻訳を読んだのですが、オリジナルに忠実なこちらは、よくある児童向けに編集されたものよりも具体的で細かな記述が充実していて、短いながらも読み応えがあります。ロボと妻のブランカおよびごく少数の配下達が、彼らの根城とした一帯においていかほど傑出した存在であったか(奪った他者の生命は万を下らないはず)、一方で彼らに対峙するシートンがどのように非情な狩りを徹底して行ったか、そしてロボの一隊がどのように破滅に向けて追い立てられたか、それらが緊張感溢れる観察的文体で綴られ、剥き出しの暴力性と悲哀に満ちたラストの双方を、互いに鮮やかに浮き立たせています。
本質的なもの、端的でごまかしようのないもの、それのみしか存在を許されない荒野の世界といった趣です。


・Setting Sun

結局OracleがSUNを買収したらしい。それぞれの思惑はあるにせよ、なにがどう変化するかなんて、当の本人達にも言えることではないのだろう。ただもしIBMが買収していたとすれば、遠からぬ将来、おそらくは一も二もなくSPARCは歴史の闇に葬り去られたに違いない。
今月の頭には、かつてのシリコンバレーの王者SGIが2500万ドルで買いたたかれている。


・月は無慈悲な夜の女王

形式的検証について調べていると、面白いことにSynopsysは鉄道関連の会社に投資しているらしいというニュースに行き当たった。おそらくは技術供与も積極的に行っていくものと思われる。
システムの安全性を自動定理証明によって保証するモデル検査、あるいは限られた資源を課せられた制約のもとで配置していくOR的問題。EDAツールと物流には共通する数多くの問題がある。いずれもNP完全であったり、ときにはさらに難しいPSPACE完全な問題だ。これらに対し、限られた時間で有効な解を与える方法こそが求められている。
いまは遺伝的アルゴリズムやアニーリング法など数多のソルバがよく知られ、特定の問題に特化した強力な近似解法も次々に開発されている。果たしてこれらの改良をひたすらに行い続ければ、いつかは"真の解"に限りなく近いものが現実的時間で得られる方法というのを見つけられるのだろうか?
現実にその可能性はかなり薄い、と現在のところ見込まれている。精度付き近似アルゴリズムでは、真の解法にたいしてどれくらいよく近似されているかという下限値を近似率という値で与えられる。(これは対話証明システムを用いて定義される)
この近似率をいくらまで向上できるのか?ということが、すなわち人間に可能な真の解の模倣の限界ということになるが、これはP≠NPの仮定のもとではなんと0.9以下の値しか許されないという結果が得られている。

「一枚の絵が見えた。エイが描いてくれた幸せそうな顔をした私の肖像画。この幸せそうな顔こそ、自分がこれまでずっと求めてきたものだった。だが、ほかの者も私もどうすればいいかと考えたことはない。じっさいに人が天国に住めるわけがないとわかっているのだ。」(宇宙人フライデー/レックス・ゴードン)

何はともあれ、我々は、我々の畑を耕さなければなりません。

2009-03-15 15:31:01 | サウンド
■PV

ありがたいことに、ネットに発表した曲に、この頃PVをつけていただいたりしました。とても感激しております。

【30秒入魂/後編】ボーカロイドショートPV集 - CMPV Clips Vol.4【動画師集結】
(00:20より)
しうか様、ありがとうございます。

【PV】鏡音リン・レン「siGrE」に絵をつけてみた
ひよこまんじゅうP様、ありがとうございます。

音について、おそらくそうであるように、きっと絵には絵固有の、映像には映像固有の世界があるのでしょう。作品の持つ力強さに、ただただ畏れ入るばかりです。色々なもののこもった素晴らしい作品、どうもありがとうございます。

また、私は自分の曲を下敷きに絵を描いて下さる方や、文章で紹介してくださる方、そして、ただそっと聴いて下さっている皆々様がおられることを承知し、そのことに深く感謝しております。
誰の期待にも応えられない時がいつぞ来るやもしれませんが、なるべくその時が遠のくよう、努力して参ります。


■DC

つてがあったので、synopsys系の論理合成ツールの講習を受け、最適化等について話を聞けた。とはいえ、その大部分はブラックボックスとして、ただツールの操作を教わったに過ぎないのだけど。ただ、非同期的な要素をいかに平滑化して同期スピードを上げるか、というのがトレンドのようだ。

1986年に森毅監修のもと編集された「数学近未来」というタイトルの、数学に関わる学際エッセイ集のようなものにTRONで知られる坂村健氏が「コンピュータ:醜い数学の子」という一章を寄せている。内容は現代的な論理学や数学の、計算機工学への応用を論じたものだ。そこにこうある。

「動く」コンピュータを作ろうとするならば、最適化問題のほとんどは複雑に条件の絡みあったものとなり、目的関数を定式化することすらできない。(中略)しかし、定式化できれば、それなりに近似解なりなんなり、カンに頼らず計算機で一意にとくことが出来よう。(中略)そういうものを(NP困難ということで諦めないで)解くプロセスをこれからの数学には研究して欲しい。

どうやら目標は達されたらしい。

りんごのうた

2009-03-04 09:36:24 | 随想
引越しの準備で部屋を掻き回していたら、軽くSASUKEのような様相を呈してきた。踏んではいけないものが地雷のごとく隠れているので、注意してベッドまでたどり着くこと。

4月から週に2日の割合で隣のチヴァ県に派遣されることになったらしい。その間、作業的なことが一切できないのは致命的なロスなので、思い切ってノートPCを買うことにした。
検討の結果、MacBookの一番廉価な白モデルが結構いいのではないかと思っている。なぜか上位機種にはついていないFirewireポートがついているからだ。オーディオIF(Firewireが主流)を使っての宅外録音なども考えているため、これはありがたい。
食生活を食パンと魚肉ソーセージ、ときどき冷凍食品というスタイルにスイッチしてMacBookProを狙うという手もあるが。


昔の荷物をひっくり返していたら、私が初めて買った音楽機材であるZOOMのST-224が出てきた。ライブ的なことをやっていたときは、まだかろうじて使うこともあったのだが、いまや完全にご隠居状態だ。
目をつぶっても使えるほど手になじんでいたはずなのに、電源を入れてみたところ、なにをどうすればいいのか、いまとなってはさっぱり思い出せなかったのが切ない。

Cadence and Cascade / King Crimson

2009-02-23 23:58:28 | サウンド
・Logician's Delight

Cadence系ツールのトレーニングを受講してきた。この時期は、新規導入を考えてる会社やフレッシュ向けに開催が多いのかな?でも不景気なので、売る側も使う側も大変そう。
Cadence系はツールの名前が音楽っぽいのでいい。Diva、Celtic、Virtuoso、Allegro。会社名からしてCadence(韻律、抑揚、終止形)ときたものだ。でもAssura(阿修羅)ってのはどうかと思うんだ。Assuranceから来てるんだろうけど。

SOLID STATE SURVIVOR

2009-02-12 01:18:17 | 随想
・RAM

2/9~2/11にかけてサンフランシスコにてISSCC(International Solid-State Circuits Conference)が開催されているのだとか。プログラムによると、現地時間の2/11(つまり本日)、メモリ関連のセッションが行われているらしい。
先月23日に独Quimanda社が破産申告を行い、また電気屋に行くと明らかにヤバさが伝わる値段でメモリが投売りされている現状だが、そんな疲弊したメモリ界を救うべく、各社が血を滴らせながら開発した新技術が、満を持して明らかにされる模様。
極東からは、磁性体(NEC)と強誘電体(東芝)による不揮発性記憶素子が、いよいよ実用レベルでの参戦とのことで、なにやら期待が持てる。

人類特有の能力である記号をハンドルする力が、今日を境にして、その密度・速度ともに次の段階へと踏み出すことになるのだろうか。

真夜中のエンジェルベイビー

2009-02-01 16:33:18 | サウンド
近頃、コンビニへ行くたびモーニング娘。の往年のヒットがかかっている。
何かの前触れだろうか。


・巡音

巡音ルカを購入した。
オリジナル曲:Bloom!

この曲はそもそも参加サークルのために作ったものなのだけど、リズムセクションなどに少しアレンジを加えて、イタリアンロック的な味付けにしてみた。ただ、もとが完成品ということでオケのミックスが固まってしまっているため、今回はボーカルは思い切って下をバッサリ切ることでバランスをとった。なのでCV03の音で一番興味深い中低域の魅力が、今回はうまく使えてないかもしれない。このあたりはミックスの研究もかねてもう少し触ってみたい部分でもあるので、落ち着いたらオケを一度バラしてから、再度、歌わせてみようかと思う。
あとは、もともと曲のつくりとして、複雑なボーカリゼーションを前提とするタイプのメロディラインなので、いつものようにベタ打ちで攻めるには、音程楽器のアレンジも少し考え直す必要があるとは思う。
(ボーカロイドそのもののエディットは・・・相変わらず謎だらけです)

とりあえず私自身が地獄巡りの真っ最中なので、やるのはしばらく先のことになりそうだ。

ところで、巡音ルカのキャラクター画像は往年の物理モデリングシンセをモチーフにしたものであるらしい。ボーカル合成というボーカロイドの本質的機能から照らすと、これはとても自然なセレクトであるように思える。
人間の発声メカニズムそのものは当然ながら身体に由来するのだけれど、通気構造と流量を変化させることによってサウンドを作り出すというプロセス自体は一種のアナログ・コンピューティングといえなくもない。
気鳴楽器の発音機構をデジタル風洞実験化して楽器として使おう、という発想から生まれた物理モデリングシンセのコンセプト自体は、実際のボーカロイドがとっている(であろう)データベース寄りのスキームに比べると、より「声」の本質を問うような側面を含んでいるように思う。
物理的な「身体」と「声」とが、認識上でも深い関係にあるから、そのような考えに行き着くのだろう。故人の残したテープから流れる声の生々しさは、写真のそれを凌駕する。人間は光より音に、そして音の中でも声に、より敏感な反応をみせるようなところがあると思う。