ランズ・エンドの近くに、以前から気になっていた場所があります。
ランズ・エンドから約5kmほど南東へ向かった、海を見下ろす断崖に、ロウェナ・ケイド(Rowena Cade)という女性が50年の歳月をかけて、たった一人で作り上げた石の劇場です。

先に説明したように、この辺りはイギリス最南西部のコーンウォール半島の先端で、周囲には獏とした平原が広がる辺境の地です。

劇場左手のポースカーノ湾はコーンウォール地方を代表する砂浜のビーチですが、この日は波が荒れ狂っていました。

日本で言えば襟裳岬か能登半島の先端のような場所に、しかも急傾斜の岩の断崖に、一人の女性が手押し車で石を運び、ドリルで石版を彫り、1983年に90歳で亡くなるまで、一人で野外劇場ミナック・シアター(Minack Theatre)を作り続けたのです。

ロウェナ・ケイドは演劇を単に人々に観せるだけのものとは認識していなかったと思います。
そうでなければ、人里離れた、こんな辺境の地に劇場を作ろうなんて考えなかったはずです。
更に、ロウェナ・ケイドが作業を始めた1933年頃、世界は大恐慌の真最中で、欧州ではムッソリーニやヒトラーが台頭し、その後は第二次世界大戦に突入していった時代です。
いったい彼女は何を考えながら、石の劇場を作り続けたのでしょか。
イギリス人の逞しさと、自分の信念に忠実な生き様に、改めて驚かされました。
そして今、この野外劇場では6月~9月に1日2回、一流の劇団による実際の公演が行われています。

劇場は、今でも後継者によって、完成を目指し、継続した作業が続けられているそうです。
客席上部に2012年と刻まれた石段を見つけました。

そして、車椅子用の客席も用意されていました。

劇場最上段の客席の上に花咲く庭が作られ、ちょっとしたスペースにベンケイソウのような赤紫の花が風に揺れていました。

