ヴィシュスマティ川を越え、左右に曲がりながら丘の斜面を登る、穴だらけの道を自転車で登りました。
10分程で、白いストゥーパを頂きに見上げる、スワヤンブナートに至る長い石段の前に出ました。
私は柵に自転車をワイアーキーで固定し、スワヤンブナーへの石段を登り始めました。
石段を登りきる手前、最後の10段を残す辺りで、突然、左手から「チケット」の声が掛かりました。
スワヤンブナートに立ち入る外国人は200Rsの入場料が必要なようです。
石段を登りきって振り返ると、木立越しにカトマンドゥ市街が一望の下に見渡せました。
近年の地質学調査で、かってのカトマンドゥ盆地は大きな湖で、南部の山が崩落して盆地が出現したことが判明したそうです。
しかも、スワヤンブナートはカトマンドゥ盆地がまだ湖だった頃から丘の上に建っていたと云う伝説があり、その伝説が事実であるなら、この寺院はヒマラヤ最古の寺院と言えるのだそうです。
青い空の下、白いストゥーパに、豊かな色彩の祈祷旗が風になびきます。
境内に野猿が遊び、煉瓦造りのゴンパ(僧院)が趣のある外観で陽の光を浴びていました。
丘の後には、カトマンドゥ盆地を囲む尾根が連なり、
北の方角には、雪に覆われたヒマラヤの峰々が白い頂きを見せていました。
私は、スワヤンブナートの一隅で、この時がとても貴重なものであると意識し始めていました。
五感の全てにこの時をインプットして置くべきだと強く思ったのです。
明るい陽射しの景色を目に、爽やかな風を肌に感じ、野猿の声を耳にしながら、スパイシーなネパールを舌で楽しもうと、街を眼下に望むレストランへと足を運びました。
この日のこの時のために、数十年の月日を費やして、働き続けてきたのかもしれないと思えたのです。
心の底からそう思う私が、カトマンドゥーの丘の上にいました。
そして、お釈迦様の掌で孫悟空が遊んだのと同じほどの長い時を感じながら、
今ヒマラヤの麓の街に辿り着いた私は、空に浮かぶ白い雲、雪を頂く白い山、白いストゥーパのマニ車を回す人々を心象風景に、カトマンドゥ市街へと続く石段を下って行ったのでした。
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