読書の記録

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理系サラリーマン 専門家11人に「経済学」を聞く!

2008年06月02日 | 経済
 理系サラリーマン 専門家11人に「経済学」を聞く! ---平林純---ノンフィクション

 著者のサイト「できるかな?」を初めて見たのは、もう10年くらい前だと思うが、とにかく驚愕した。理系の手腕と文系の美学のハイブリッドとでも言おうか、そのコンテンツのクオリティの高さと、驚くべき更新頻度。これらがタダで見れるなんて、インターネットってすげえ! と思ったものだった。

 そんな著者もいまやネットを代表する知識人。本書は11人の経済学者にエンジニアの価値観から質問していく。
 が、本書の最大の魅力というか価値は、著者が問いかける議題設定の美しさだ。これを見ると、インタビューというのは、「何を質問するか」が命だというのがわかる。
 特にすばらしい質問だと思ったのは

 “経済学の「成果」とは何か?”

 という問いかけ。“経済学とは何か?”ではない。経済学の「成果」とは何かを尋ねている。
 なるほどエンジニアこれに極まり、名質問。アカデミズムの存在意義にまで迫っている。

 こと、人文科学と呼ばれるものは、この壁にぶちあたる気がする。
 “社会学の「成果」とは何か?”
 “論理学の「成果」とは何か?”
 “国文学の「成果」とは何か?”
 “民俗学の「成果」とは何か?”
 “歴史学の「成果」とは何か?”
 “考古学の「成果」とは何か?”
 “政治学の「成果」とは何か?”

 で、一方の「自然科学」というのは、きわめて「成果主義」の歴史だったのだな、何てことも思うわけである。

 逆に、経済学者からの回答で、はーなるほど! とヒザを打ったのは「経済学と経営学の違い」。この質問はわりと古典的であちこちで見られるが、中島隆信教授の回答は簡にして要にして新鮮。経済学の目指す究極が“富の公平な分配”ならば、経営学の目指す究極は“独占”。つまり正反対ということ。

 ということはですね。生活者の最大利益と、企業の最大利益が一致するということは宿命的にありえないのかな。

 

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