初めてのヤフオク出品

中學生の頃、少年キングで連載が始まつた、莊司としおの「サイクル野郎」。
毎週かかさず立ち讀みをしてゐた。
高校で山岳部に入つたら、同期のやつが自轉車通學をしてゐて、彼も「サイクル野郎」にのめりこんだと聞いた。
私も、ランドナータイプの自轉車のカタログを見ては、日本一周の夢を見てゐた。
しかし、山の裝備にも金がかかるし、山へ出掛ける交通費もバカにならない。
つひに見果てぬ夢とあいなつた。

今年に入つて「うつ」になり、６月頃からまともな本が讀めなくなつてきてしまつた。
集中力が續かないのだ。
推理小説や古代史ものが好きだつたのだが、論理を追ひかけることが出來ない。
心療内科の先生に相談したら、マンガでも何でも、自分が好きなものを讀んだらどうかとアドバイスしてくれた。
それ以來、私はこれまでの人生で面白いと思つたマンガを、ひたすらヤフオクで落札して讀みふけるやうになつた。

さうした私にとつて、「サイクル野郎」は少年時代の夢を思ひだすよすがとなつた。
レア本らしく、なかなか全卷を揃へることが出來ない。
全３７卷となると、ヤフオクでも３萬圓程度で出品されてゐるほどだ。
いまから思へば、すつきりと３萬圓で全卷を揃へてしまつたはうが、安くついたかもしれない。
しかし、私は最初に３２卷までのセットを１萬數千円程で落札したのだつた。

それからが大變だつた。
３３卷から３７卷までの５册を揃へるために、いくら金と時間と勞力を費やしたことだらう。
結局、最後まで殘つた第３３卷を買ふために、２９册のセットを買つた。
つまり、そのうちの２８册はすでに持つてゐるので、重複してゐるわけだ。
それでも、第３３卷がその中に入つてゐるといふことは、私にとつて大きな魅力だつた。
出品されてゐるのを見つけて、何のためらひもなく「希望落札價格」で落札した。

で、いまや我が家のリビングと寢室にはマンガが入つたダンボール箱が２０個ほど山をなしてゐる。
そのうち處分出來るのは重複してゐる本だ。
そこで、勇氣を出して、ヤフオクに出品してみた。
儲けようといふつもりはない。
せめて原價を取り戻せれば・・・