仙丈亭日乘

あやしうこそ物狂ほしけれ

『人間臨終図巻』(全4巻) 山田風太郎

2012-03-04 17:50:14 | 仙丈亭特選本(5つ星)
『人間臨終図巻』 山田風太郎

【お薦め度】 ☆☆☆☆☆ (特選)
2012年3月4日讀了


2011年12月14日 、たまたま行つた本屋で目にとまり手に取つた。
文庫で4册、小説なら讀み了へる根氣が續きさうにない。
しかし、この本は人の臨終の樣をひとりづつ描いてゐて、ひとりにつき多くても7~8頁、少ないものは數行。
これなら、ひまな時に少しづつ讀み進めることが出來る。
さう思つて、4册まとめて購入した。

最初に採り上げられてゐたのは、八百屋お七、15歳。
この本では、死んだ時の年齡(西暦で死亡年から誕生年を引いたもの)が若い順に竝べられてゐる。
同じ年齡の場合は死亡年の古い順。
一例を擧げると、36歳の場合、お市の方(1583年歿)に始まりマリリン・モンロー(1962年歿)で終つてゐる。
最後に登場したのは、泉重千代、126歳。
つまり、15歳から126歳まで923人の死に樣に接することになる。

私たちは、歴史上の人物を、その人物の成し遂げたコト(業績にせよ、犯罪にせよ)で記憶してゐることが多い。
どのやうに死を迎へたのか知つてゐるのは、殺されたとか自殺したとかの場合が殆どなのではないか。
信長の死に樣はあまりに有名だが、家康の死に樣はさほど知られてゐないやうに。
あの千姫が69歳まで生きてゐたなんてことを、いつたい誰が知つてゐよう。

この本では、例へば子供の頃傳記を讀んだやうな偉人であつても、死に臨んでどのやうに苦しみ、のたうち廻つたかが、冷徹に描かれてゐる。
勿論、それで偉人の業績が損なはれるわけではなく、むしろ死に樣を知ることでさらにその偉人を理解できるのではないかとも思ふ。
逆に、例へばかつての帝國軍人など、現代では認められてゐないやうな人たちでも、じつに立派な臨終を迎へた人たちもゐる。
どうやら、生前の業績と死に樣の間に、必ずしも因果律はないやうだ。

この本を讀んでゐて、これはいいなと思ふ言葉に出會つたら、頁の上の角を折り曲げた。
3卷から始めたのだが、この所爲で3卷と4卷は本の上が下より1割は太くなつた。
死んで行く人の最後の言葉や、山田風太郎のコメントなど、面白いことこのうへない。
これは、また1卷から讀み直す必要がありさうだ。

超然と死を迎へるも人間、死の影に怯えるも人間。
自ら死を選ぶも人間、病と格鬪するも人間、眠るやうに逝くのも人間。
人間誰しも死を迎へる。
その死に樣は、自殺を除けば、自分で選ぶことは出來ない。
しかし、出來ることなら、自分らしい死を迎へたいと思ふ。

讀み了へた今、この本をたまたま手に取つた偶然に感謝してゐる。
あの時、たまたま本屋に立ち寄らなかつたら。
たまたま、この本が目にとまらなかつたら。
たまたま、この本を手に取らなかつたら。
本との出會は一見偶然でありながら實は必然なのではないかと考へる私であるが、この本との出會もそのやうに思はれる。
人のふり見て我がふり直せ。
人の死を知り、我が死に備へむ。



人間臨終図巻1 (徳間文庫)
山田風太郎
徳間書店


人間臨終図巻2 (徳間文庫)
山田風太郎
徳間書店


人間臨終図巻3<新装版> (徳間文庫)
山田風太郎
徳間書店


人間臨終図巻4<新装版> (徳間文庫)
山田風太郎
徳間書店




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