政治・経済に関する雑記

なるべく独自の視点で、簡潔・公平に書きたいと思っています。

消費税は逆進的か

2008-07-18 15:50:46 | 格差・再配分
よく消費税は「逆進的」と言われるが、本当だろうか。

「逆進的」とはどういうことか。以前は、累進率のある所得税に比べて低所得者に負担感が重いというくらいの意味で漠然と使われたこともあったが、最近は、稼ぎに対する税金の比率が低所得者ほど高くなるという意味で使われることが多いようだ。

消費税は使った金額に比例するから、比率は一定と考えてよさそうなものだが、実際には低所得者のほうが高額所得者より消費性向(稼ぎのうちどれだけを使うか)が高いから、低所得者のほうが稼ぎに対して高率の消費税を払うことになる。谷垣財務大臣も消費税が「逆進的だという指摘は事実」と認めたらしい。

だがこの考え方は的を得ていないのではないか。消費しなかった稼ぎは貯蓄になるが、貯蓄もいつかは消費税を払って使わねばならない。あまり気付かれていないようだが、消費税は現在の貯蓄の価値を低下させるのである。

海外で使えば日本の消費税はかからないから、海外でよく消費する人ほど得すると言えるかもしれない(もっとも海外では日本以上に消費税が高いことが多いが)。また自宅の家賃や土地購入費など、消費税がかからない支出が多い人は得である。ただ、こうした影響は限定的だ。

やはり消費税は稼ぎにほぼ比例した税金であり、累進的でも逆進的でもないということになる。累進率のある所得税よりは低所得者に厳しいが、かといって国民年金の掛け金のように逆進的というわけでもない。

消費税が誰に厳しいかというと、むしろポイントは貯蓄の多さである。ここ20年ほど、所得税は下がり、消費税は上がる傾向にある。そうすると高額貯蓄者は、過去に高い所得税を払って貯蓄したお金を、今度は高い消費税を払って使わねばならない。税金を二重取りされるようなものだ。だから消費税は高額貯蓄者に厳しく、文字どおり「金持ち」冷遇の側面がある。

結局、消費税増税は低収入の高額貯蓄者(たとえば貯金の多い高齢者)に厳しく、高収入の低貯蓄者(たとえばローンを抱えた中堅世代)に優しいといえるだろう。

年金、失業保険、生活保護、所得税の統合

2008-07-09 10:53:14 | 格差・再配分
年金、失業保険、生活保護は同じものを目指しているのだから、本来は一本化されるべきではないか。これらはどれも所得の再配分機能の一種と言ってよい。アンラッキーにも所得が低かったり失業したりした場合に、裕福な幸運な人々からお金を回してもらおうという主旨である。そういう保障があればお互い安心だ。

しかし現在は、同じ目的なのに制度が分立しているために、失業保険と生活保護の狭間で保障を失う可能性があったり、年金と生活保護ではどちらが得かという問題が生じたりする。また制度が多ければ官庁の事務コストが増える。国民の目が届きにくくなり中にはいい加減な組織も出てくる。会社や個人事業者にとっても、申告や支払いの事務が複雑になって余計な手間を強いられる。それによって産業競争力が低下する。制度の乱立は不公平で不効率なのだ。

そこで、所得の再配分機能は全部所得税に統合したらどうか。そうすれば上のような問題が解消し、また所得の再配分のあり方が明確になって、国民が判断しやすくなる。

この場合、負の所得税を導入する必要がある。つまり所得が低い場合は所得税を払うのではなく逆に貰えるようにする。たとえば月収15万円なら所得税をゼロとし、それを超える人だけが所得税を払う。それ未満の人は給付が貰える。無収入なら月に10万円、月収5万円なら7万円、月収10万円なら4万円などと給付額を決める。

このとき働いて稼ぐほど税引き後の実質収入が増えるようにするのが肝要だ。現在の日本では、配偶者控除や生活保護で見られるように、働いても実質収入が増えないとか、さらには働いたほうが税金や社会保障が増えて実質収入が下がってしまうケースがある。こうした逆転現象は人々から働く意欲を奪うだけで何のメリットもなく、現在の制度はこの点で劣悪と言ってよい。所得再配分制度が分立しているから、このようなことにもなるのだ。

制度を統合すると、たとえば退職後の高齢者と、失業中の人と、働いていない若者は、みな同じ制度から、現在の年金、失業保険、生活保護に相当する給付金を受け取ることになる。収入が同じなら基本的に支給額も同額である。

実際には、高齢者と単に働きたくない若者が同列で扱われてよいのかといった問題がある。この点はあらかじめ調整しておく必要がある。たとえば高齢者や障害者と、それ以外の働こうと思えば働ける人には、異なる所属税率表を適用し、所得が少ないときの給付は前者が多く後者が少ないようにする(所得が多いときの税率は同じでもよいと思うが)。

家族を抱えて失業した人と、単に働かない独身者が同様に扱われてよいのかという問題もある。だが子供の扶養については、本来は児童手当の増額で対応すべき問題だと私は思う。配偶者の扶養については、社会で面倒を見る必要はないだろう。

以上のような整理が現実の政治で可能かどうかはわからないが、考え方としてはこうあるべきではないかということで書いてみた。

社会保障を保険制度で行うという矛盾

2008-07-08 10:00:32 | 格差・再配分
保険というものは「掛け金を払った者だけが恩恵を受けられる」という制度である。社会保障の根幹を成すべき年金と健康保険がそうした「保険」の考え方で成り立っているのは、おかしくないか。

現在の日本の制度では、掛け金を払わなければ年金を貰えないし、健康保険も受けられない。掛け金を払わなかった人は排除される。そんな制度が社会保障の名に値するのか。実際それでは困るので、これらの保険は強制加入になっている。だが強制加入の保険とはいったい何なのか。加入するかどうかを選択できないなら、その実態は保険というより税金である。

実際、すでに年金や健康保険は税金であるかのように運営されている。たとえば次のような現象がある。

  • 余裕のある組合から資金難になった組合にお金を流すことがよくあるが、本当の保険であればあり得ないことである。
  • 健康保険では掛け金と給付の対応関係が明確ではなく、健康保険の掛け金は所得によって変わるのに、受けられるサービスは変わらない。これも健康保険がすでに累進課税の税金として運用されていることを示している。
  • 所得が低い人は掛け金が払えないため、免除される場合がある。本当の保険であれば掛け金が払えなければ加入できないはずだ。

    このように実態は税金であるのに、保険であるとの建前を維持しているため、無用の混乱が生じている。たとえば、上記の組合間の資金移動が毎回問題になる。低所得者の掛け金免除の基準があいまいで問題が多いことは、昨今の社会保険庁のニュースでもよく指摘されている。また、年金掛け金の不払いが多いのは、保険なのだから入らなくてもよいはずだとの気持ちがあるからだろう。保険という建前からすればもっともな面がある。

    国民年金の不払いが多いのには、収入によらず皆同額だという理由もあるだろう。同額だと所得が低いほど保険料率が高くなる。所得税は累進的であるのに、国民年金が逆進的であると、制度が複雑化して不公平になる。たとえば現在の制度では、所得が最底層の人が支払う税率(ここでは税金と社会保険の、所得に対する比率)は、もう少し所得が多い人の税率より高くなる。また年金や健康保険には掛け金の上限があるため、上限の下に位置する中堅層の限界税率が、上限を超えた高額所得者の限界税率よりも高くなる場合がある。こうした逆進現象は、自然な累進課税制度であれば起こらないことだ。

    実際は税金でなければならない年金と健康保険が、保険であるという建前になっているため、不効率と不公平が生じている。将来は年金と健康保険と税金を統合すべきだろう。そして、以前「国民皆年金は定額支給にすべき」でも書いたが、給付を過去の所得によらない定額として、社会保障としての性格を明確にすべきである。

  • 1人当たりGDPでシンガポールに抜かれる

    2008-07-07 19:56:26 | 経済制度
    シンガポールの1人当たりGDPが日本のそれを上回ったそうである。まだ差があると思っていたので、ちょっと驚いた。

    なぜだろうか。国民が勤勉なのか。英語が得意だからか。都市国家で条件が違うからか。いろいろな原因が考えられるだろうが、私が思うに、主因はおそらく政治がよかったからである。

    独裁的、強権的なイメージがつきまとうシンガポールの政治を評価する意見は、日本ではあまり多くない。私はマイナス面についてよく知らないが、しかしリー・クアンユー首相の時代から、シンガポールが先進的な政治を行う一面も持っていたのは確かである。

    たとえば同国の自動車取得税は高く、大衆車でも価格の200%ほどの税金が取られるという。都心部に乗り入れても通行税を取られる。この話は、日本では「庶民を痛めつけるひどい政策」というニュアンスで紹介されたことが多かったように記憶しているが、環境税の考え方を取り入れた先進的な政策と見ることもできる。政府の「クリーン度」の評価は以前から日本より高いし、公的部門の電子化が進んでいるため効率がよく抜け道が少ない。統一的な年金・医療制度のおかげで、日本のような職業や働き方による無意味な不公平がないし、国民が複雑な制度に迷って能力を浪費することも少ない。過保護に慣れた国民が権利ばかり主張するといった場面も少ないようだ。

    以上は私の印象にすぎないが、要するに合理的で清廉なイメージである。声の大きい者や権力を持つ者ではなく、努力する正直者が報われやすい制度になっているように見える。相続税、贈与税がないなど、個人的にはまったく賛成できない面もあるのだが、それでも日本が同国に学べるところは多いように思える。