Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『五月大歌舞伎 昼の部』 1等1階前方上手寄り

2009年05月22日 | 歌舞伎
新橋演舞場『五月大歌舞伎 昼の部』2回目 1等1階前方上手寄り

昼の部はやっぱり『金閣寺』がとっても良い。役者が揃ってて見ごたえがある。9日に観た時も良かったけどやはりこなれた今回のほうが締まってた。ちょうど役者さんに疲れが見える頃かと思うけど、集中度高めだし、空気が密だった。

『金閣寺』
大膳@吉右衛門さん、大膳はほんと良いですね。国崩しの大きさもさることながら、英雄色を好む、といった色気があるのが素敵です。冷え冷えとした凄み、ではなく大物ゆえの我侭加減が楽しい大膳です。9日に拝見した時より台詞の押し出しがあって存在感が増していました。楽しく演じているような感じです。

東吉@染五郎さん、爽やかで武将の品格がある東吉です。義太夫のノリがますます良くなっていて、台詞廻しに安定感がありました。またどこを切り取っても惚れ惚れするほど姿が美しい。特に見せ場の碁笥を井戸から手を濡らさずに拾い取る場では存在感もしっかりあって湧かせていました。どうですか?と言わんばかりにふっと微笑む顔に少しばかり策士の顔が見えていました。立ち回りはキレがよく、大きさもだいぶ出てきて華やかさがありました。これでもう少し前に出る感じというかご機嫌な役という雰囲気がでるとなお良くなると思います。以前、納涼で三津五郎さんの大膳と演じた時のほうがご機嫌さがあったような気がするのですが…。さすがに吉右衛門さんの前ではまずは神妙にという感じでしょうか。

雪姫@芝雀さんは前半がとにかく絶品です。愁いを帯びた表情と台詞が見事。また、愛らしい風貌のなかに夫を想うそこはかとない色気を漂わせ、大膳が執着するのも無理は無い姫ぶり。時々、雀右衛門さんを思わせる濃厚オーラの風情も垣間見られとても良かったです。雪姫が初役なんて思えないほどの演じようでした。後半の人形振りは9日の時よりはだいぶこなれていて、ほんの少しだけど「らしく」なってきたかなと思いました。でもやっぱり柔らかさのほうが強く人形ぽくはないのだけど。しかしながら、人形振りの無表情のなかに気持ちが入っているのがヒシヒシと伝わってきました。奇跡が起こす、その気迫があったればこそ縄が切れたのだ、というところが鮮明に今回は伝わってきました。また縄が解け、また人形振りを解いた瞬間、感情がわっと解き放たれ、その喜びが一気に押し寄せてきた感じを受けました。もう少し人形振りがこなれて人形と人との落差が出たら相当なカタルシスがそこに出てくるのではないかと思いました。私はこの演出、やはり好きです。

その部分で人形振りの後見との息がだいぶ合ってきたとのかなと。後見も余裕がでてきた感じでバタバタした感じが無くなっていました。主遣いの京蔵さんは位置取りが上手いんだけどもう少し背の反らし方を「らしい」感じにしてもいいかな。左遣いの京珠くんのほうは付いていくのが精一杯な感じでまだまだ…。しかし重い衣装をつけた芝雀さんを持ち上げるのは相当大変でしょうがしっかり支え腰がぶれないのはお見事です。また芝雀さんの顔に付いた花びらを、さっと取ってあげていて細かい気配りができるようになっていたのも褒めましょう。

『心猿/近江のお兼』
お猿の面がやっぱり可愛いです。『近江のお兼』は華やかでいいですね。今回、晒布を綺麗に振るれない場面がいくつかあって力任せ?なところがありましたが、それでも福助さんの明るさが楽しかったです。立ち回りの名題下の方々の動きにキレがありました。お馬さんも相変わらず見事。

『眠駱駝物語「らくだ」』
久六@吉右衛門さん、やっぱり屑屋さんには見えないですねえ…。また所々まだ台詞が入っておらず台詞のテンポがよくなくて…、なのでトントンと運んでいる芝居のはずがトントンと進んでいかず。それでも、面白くないわけではないところが役者さんとして地力があるのでしょう。

半次@歌昇さんは前回より非常に良かったです。強面の裏にある根の部分で義理人情を大切にしているところでの巻き込まれ型の悲哀を滲ませて、こういうキャラもいいなあと思いました。吉右衛門さんをフォローしながらの熱演、ご苦労様です。

馬吉@由次郎さんのリアル死体風味のらくだはなんか良い感じ。結構好きです。

あと家主@段四郎さん、おいく@歌六さんの大家夫婦がリアクションが楽しくなってて楽しかったです。


2 コメント

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芝雀さんの人形振り (yokobotti)
2009-05-26 09:51:33
芝雀さんの雪姫、良かったです。
私は、人形振りの間、下手で黒子の方が鳴らしていた人形の足音にひじょうに心惹かれました。舞台と木がぶつかる音…。人形であることの哀しさが現れていたような気がしたのですが…。
『人形振りを解いた瞬間、感情がわっと解き放たれ、その喜びが一気に押し寄せてきた感じ』…これ、素晴らしいですね。私、この感じ、見逃してしまいました。ああ、もう一度、見に行きたい…。
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人形振り (雪樹)
2009-05-26 11:34:01
yokobottiさん

こんにちは!芝雀さんの雪姫、良かったですよね~。一途で芯のある女を演じさせたら天下一品、とか思ってます。またyokobottiさんもお書きになっていましたが芝雀さんの哀切を含む台詞回しがとても好きなんです。

今回の芝雀さんの人形振りは、「人形振り」で表現すべきもの(感情の高ぶり、爆発を身体のみで表すためのものと私は思っています)を表現しきれていないという部分で私はもうひとつ評価しきれないのですが、確かに今回「哀しさ」というものは出ていたかもしれません。縛られ自由がきかない、という部分が強調されていましたよね。なので縄が解かれ瞬間のカタルシスが大きかったと思います。

人形でいることの哀しみ、とは私は捉えなかったのですがyokobottiさんが感じた「木の音」の捉え方も素敵です。人形(木)でいることでの不自由さが雪姫の不自由さの象徴に繋がるのですね。この解釈、すごく良いです。次また今回の演出で「金閣寺」を観ることができたら、その部分も感じながら観てみたいです。

文楽の足拍子は足音を表現するとともに感情の昂ぶりをも表現するものです。歌舞伎のツケと同様の役割を果たすものでもあると思うのですが、歌舞伎で人形振りとして演じる時にわざわざその足拍子をも取り入れて演じるというのが面白いですよね。

なんだかとっちらかったお返事になってしまいましたがご容赦を~。
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