Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『朧の森に棲む鬼~Lord of the Lies~』5回目 1等1階前方花道寄りセンター

2007年01月27日 | 演劇
新橋演舞場『朧の森に棲む鬼~Lord of the Lies~』5回目 1等1階前方花道寄りセンター

1月27日千穐楽観劇:

前楽の余韻がまだ残ったままで千穐楽突入。千穐楽は役者が「今日で一段落」という感覚になるのでどこまで観せてくれるかな?と思っていたのですが、思ったほど緩みがなくて良かったです。なおかつ、千穐楽の特別な気分で盛り上がっている観客の楽しもうというノリはやはりお祭り気分。いつもは出ないところで拍手が出たりしていました。

一幕目は役者に多少開放感があるような雰囲気もありでいつもより遊びが出てた感じ。でも暴走はしないで本筋に戻し丁寧にやっていたし、そのちょい緩めな感じを二幕目に引き摺らずきちんと締めていったのはさすが。二幕目の迫力はそれぞれが渾身の出来じゃないかな。特にライ@染五郎とキンタ@阿部サダヲのパワーは凄かったと思う。

にしても、前楽同様に役者さんたちは体力的な疲弊はやはり見えていて、一人一回は台詞を噛んだりトチッたり、殺陣でヒヤッとさせるとこもあったり。

まずは初っ端から!聖子さんが思い切り歌詞を間違ったらしいのだけど、私は声がいつもの聖子さんじゃない、大丈夫?という心配で、何か歌詞が変?と思ったけどどこが間違っていたのかわからなかった…。どうやら「人の国の王に」ってとこ、「好きな男の……△★○×」って全然違う歌詞になってたらしい。なぜにして?私は前楽でのライに魅入られたシキブの気持ちが残っていたからの自説を採っておきます(笑)

殺陣ではライ@染五郎、キンタ@サダヲともに時々ヒヤッとさせるシーンが。さすがに疲れてるんだろうなとは思いますがそれでも綺麗に決めていくのがさすが。この二人の殺陣は手数が多いしスピードが速いのでくれぐれも怪我しないようにお願いします。染ちゃんの殺陣は腕っ節が弱いシーンの部分も含めて流れるようで華麗な殺陣。サダヲちゃんのはバネを活かしての飛び跳ねるようなもの、後半の低く構えた鋭いものを含めキレが良い殺陣。古ちんのは重さのある骨まで断ち切るような殺陣。それぞれ個性が見事に違います。にしても三人とも本当に立ち回りが上手くて惚れ惚れ。

台詞を噛んだりトチッたりは大きな崩れはななかったので許容範囲に収まってました。その後の挽回が上手い役者ばかりですしね。今回つくづく芸達者な役者を揃えてきたよなあ。ライ@染五郎に対峙する女優さんたちに華がないという方も結構いるんだけど、ツナもシキブも上手くないと無理な役なので今回の配役で私は満足。それとキンタ@阿部サダヲの配役が最初に聞いた時は、染五郎と芸質が合わないんじゃなかと心配したんだけど、蓋を開けてみたらかなり相性が良い。これほどとは思ってもみなかったので嬉しい驚き。古田新太さんとの相性は最初から心配してなかった。芸質が正反対なのでかえって合うと思っていた。案の定、そうでした。

千穐楽はバランスよく観ようと思っていたのですが、やっぱりそれは出来なかった。どうしてもライ、キンタ、マダレ、ツナ、シキブの5人ばかり目に入ってきてしまう。この5人は引いて見て顔の表情がわからなくてもパワーで見せてくるし、近くで見ると表情を細かく作ってくるので迫力があるし。と自分に言い訳(笑)

千穐楽も大満足な観劇でしたが唯一の不満が。それはカテコで染ちゃんが投げキッスをしてくれなかったことだ~。阿修羅城でも青髑髏でもやってくれてたのに~。最後の最後、やりそうな素振りをして引っ込めて「クシュン」とクシャミ。これも可愛いかったけどね。でも投げキッス欲しかったよ~。

千穐楽カテコは新感線恒例の煎餅撒き。BGM?には2004年新感線公演の『レッツゴー忍法帳』のなかから『血風ロック』。勿論サダヲちゃんが生で歌います。これ橋本じゅんさんとのツインボーカル曲で、もしやじゅんさんが来る?って期待したけど冠さんだった。チト残念な私。あっ、『メタルマクベス』も観てるし冠さんも大歓迎でしたけど、ええ。サダヲちゃんは客席にも降りて走りまくり。元気ですねえ。歌ってる途中、染ちゃんにマイクを一瞬渡そうとしてたんだけど、あれ染ちゃんに歌って欲しかったんだろうか?染ちゃん『血風ロック』歌えるの?(笑)

阿部サダヲという役者を生の舞台で拝見したのが『レッツゴー忍法帳』でした。それまでも映像では拝見してたけど、生舞台で拝見した時に「この人は舞台の人だ」と思ったんでした。ハイテンションぶりとキレのよさで新感線劇団員をすっかり喰ってたんだよな。かなり飛ばしていたはずのじゅんさんが大人しくみえたし…。すさまじいテンションのあげっぷりで突っ込む隙を与えないタイプの役者にその時はみえた。この印象が強くて、染ちゃんとの競演を聞いた時、サダヲちゃんのキレキレな芝居を受けきれるか心配したのだった。でも今回ライとキンタは今のところきちんとバランスが良い。サダヲちゃんの役回りは『レッツゴー忍法帳』とそんなには変わってないので、染ちゃんが受ける芝居が上手くなってきたのかな。3年前の染だったら受け切れなかったかもしれないと思う。

つらつらと:

ライ@染五郎さん、今回の芝居は小悪党がのしがっていく物語なんだけど、「野卑」な部分はあんまり無い。端正さが持ち味な染五郎は崩そうとしてもそこまで崩れない。今回の役に関してそこが評価の分かれ目かなと思う。でもギラギラした野卑さがない代わりに「悪」のなかに哀しさが含まれる。硬質さがライを単なる醜い魂の持ち主に見せない。自らの欲望に呑み込まれたのではなく、朧の森の呪いがライを「鬼」と変化させていったと感じさせてしまうのだ。哀しくて哀れな人。だからこそ、それゆえに「壮絶」さが出たのだと思う。どんなに悪に染まっても狂っても、それが美しさを際立たせる。顔が、ではないのだ。高慢で非情になればなるほど追い詰められればられるほど、核の部分が剥き出しになり存在の美しさが立ち上がってくる。ラストの壮絶さは、その美しさが崩れていく脆さ、危うさを感じさせるから、なんじゃないだろうか。その核の部分はなんだろうな?と思ったんだけど、「品格を失わない」という評を読んで、ああそうだなあ、その部分なのかなと。それは染五郎という役者の持ち味なんだと思う。ゆがんだ役で美しく在り、滅び行く姿が美しいのはそのせいなのかも。染五郎で観たい役が広がった。やっぱり追いかけたい役者だ。

それにしてもライという人間の哀しさってなんだろう。本当の部分で野望なんていうのはなかったんだろうな、と感じさせる。勿論、いい暮らしをしたいという人並みの願望はあっただろうけど、「王の道」なんてこれっぽっちも思っていなかっただろう。でも何かを求めていた。その空虚さにつけ込まれたのかな。

人を信用できず嘘ばかりついてるのはなぜだろう?そんなライをキンタはとことん信用するのはなぜ?どこか「本物」があったからなんじゃないかなとか。

うーむ、さすがに妄想しすぎだ。もう芝居の部分から外れそうなのでやめときます(笑)