時々刻々現社的学習2009

「現代社会」の授業用ブログ

APECと東アジア共同体構想

2009-11-13 09:23:16 | 日記
 APEC(アジア太平洋経済協力会議)閣僚会議が12日に閉幕して、14日からは首脳会議が始まる。オバマ大統領の来日も、このAPEC首脳会議出席に合わせてのものである。APECはASEANなどアジアが中心であるが、ロシアや南米やオセアニアの国々も加わり、いまや多国間協議の場となっている。経済発展が著しいアジア諸国との協力関係は欧米先進国にとっても重視せざる得ない情勢だ。アメリカがアジア重視、特に中国を重視した姿勢を鮮明にしてきているのは、経済的に密接な協力関係を築くことがアメリカの経済にとっても重要だからである。かつて日米関係が経済的にも重要な二国間関係であった時代と比べると、日米関係は日本にとっても相対的に重要度が下がっている。
 民主党鳩山政権がアジア重視の方針を打ち出し、「東アジア共同体」の構想を表明する背景には、日米両国のこうした情勢の変化も影響している。今回のAPECを機会に日米と中国その他のアジア諸国をめぐる情勢について検証してみよう。


■アジア歴訪 オバマ大統領、指導力に「?」 APEC重視も米国内に保護主義
(11月13日7時57分配信 産経新聞記事から)

 【ワシントン=渡辺浩生】オバマ米大統領は13日から初のアジア歴訪をスタートさせる。一連の会議・会談ではアジア太平洋地域の経済統合や自由貿易促進などについて協議、域内の指導者としてアピールしたい考えだ。しかし米国内の保護主義の高まりや医療保険改革の難航を背景に、懸案の米韓自由貿易協定(FTA)は議会承認が棚上げされたまま。オバマ大統領の通商政策演説も先送りになっているのが実情で、米国の指導力の欠如を懸念する声が上がっている。

 ホワイトハウスによると、オバマ大統領は日本、中国、韓国各首脳との会談やアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を通じ、地域経済の均衡した成長と経済統合の促進に向け、米国の指導力発揮を訴える見通しだ。

 APEC加盟国向け輸出は米国の輸出全体の60%を占めており、「経済関与の拡大は、輸出拡大と国内雇用創出に結びつく」(ローズ戦略広報担当副補佐官)という思惑がある。

 カトラー通商代表部(USTR)代表補(日本・韓国・APEC担当)は先月の議会公聴会で、APECは「米国が一員であり、指導力を発揮できる唯一の地域経済団体」と指摘。オバマ大統領は、APEC重視の姿勢を強調することで、鳩山由紀夫首相の唱える東アジア共同体構想を牽制(けんせい)する狙いもあるとみられる。

 しかし、オバマ政権は自由貿易政策にあいまいな態度を続けており、「やる気が伝わってこない」(アジアの外交筋)と指導力発揮を疑問視する声もある。

 韓国、パナマ、コロンビアとのFTAは前政権で調印されたまま棚上げ状態で、オバマ大統領が議会に承認を働きかける様子はない。米韓FTAに関して、国家安全保障会議(NSC)のベーダー・アジア上級部長は「大統領は韓国市場への米国製自動車の十分な参入を求めていく」と語る。

 一時検討された通商政策に関する大統領の重要演説も宙に浮いている。失業率が26年ぶりに10%を超え、議会の保護主義的な空気に拍車がかかっている。しかも、長期化する医療保険改革の審議に労力を奪われ、他の重要案件が後回しになっているのが実情だ。

 USTRによると、アジア太平洋地域では日、韓、インドなどによる約70件のFTAが交渉中。「われわれは、高まる動きから取り残されつつある」(カトラー代表補)という危機感も政権内でくすぶっている。

 一方、政権は、APEC内の4カ国(シンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイ)が結んだFTA「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」について参加を検討しており、大統領の正式表明を期待する声もある。前政権で国家安全保障次席補佐官(国際経済問題担当)を務めたダニエル・プライス氏は、「TPP参加は地域の経済統合の指導力発揮に不可欠だ」と指摘している。

(引用終わり)

<コメント>

アジア太平洋地域の諸国と経済的な結びつきを強めるには、FTA(自由貿易協定)を締結することが不可欠である。しかも自由貿易を推進するというのはアメリカの通商政策の重要な柱である。ところが、オバマ政権になってFTAの議会承認などの具体的な動きが進んでいない。国内の失業対策や金融危機への対処、医療保険制度改革などの国内政治に忙殺されて、対外的な通商問題に後ろ向きと見なされてもしかたない。今回のAPECの会合でオバマ政権の積極姿勢が打ち出せるのか注目される。たしかにアメリカからアジア地域への輸出が増大し、今後も拡大傾向が見込まれる。それだけアジアへの依存が強まるわけで、この地域へのアメリカの関与や指導力が問題となってくる。

一方で、鳩山首相の「東アジア共同体」構想がアメリカに懸念や焦燥感を与えている側面もある。日本のアジアへの接近はとりもなおさず日中の接近であり、アメリカを出し抜いて日中が密接な協力関係を結ぶことをもっとも危惧しているのはアメリカだからである。あるいは「東アジア」という枠組みの中で、アメリカは排除されかねないという焦りを感じているはずである。そういう意味で今回のオバマ訪日とその後の中国訪問の目的は、こうした懸念を払拭して、日中の間にくさびを打ち込むことにあるのではないか。

アジア版EUと言われる「東アジア共同体」の構想は古くから存在していたが、主としてアメリカが異議を唱え、日本がこれに配慮してきた。東南アジア諸国の政治的経済的混乱もあって、本格的な協議が進まないできた。しかし、最近ではEAS(東アジア首脳会議)などの会合で「東アジア共同体」への協力関係の前進が見られるようになってきた。今後アジアの経済発展が続いていけば、将来、EUのように経済統合や通貨統合へ向かう可能性もある。この地域への関与と指導力を発揮したいアメリカが日中との綱引きをしている構図が浮かび上がってくる。


■オバマ大統領「アジア重視」演説 日本に配慮「米外し」牽制

11月15日7時56分配信 産経新聞記事から

 オバマ米大統領は14日のアジア政策に関する演説で、日本との「揺るぎなき同盟」を基本に、アジア太平洋地域に積極的に関与する方針を示した。経済成長の一方で軍事増強を続ける中国をにらみ、鳩山政権発足後に摩擦が生じた日米関係の悪化を防ぐとともに、米国経済の回復を図るため、「世界の成長センター」であるアジアにおける米国の存在感を強めるねらいがある。(有元隆志)

 ◆積極関与アピール

 オバマ大統領は「アジア太平洋で起きることは、直接米国に関係があることを米国民全員に知ってほしい」と述べ、米国内の雇用拡大のためにもアジアとの関係を深化させる重要性を強調した。

 米国の10月の失業率は26年ぶりに10%を超えており、雇用対策は大統領の最優先課題となっている。米政府はアジア地域との貿易拡大によって、「より多くの雇用を創出できる可能性がある」(ローズ大統領副補佐官)とみている。

 大統領は「アジア太平洋国家として、この地域の将来を形作る議論にかかわっていくつもりだ」と述べるとともに、東南アジア諸国連合(ASEAN)や日中韓で構成される「東アジアサミット」にもより正式な形で参加したいとの意向を示した。

 鳩山由紀夫首相が掲げる「東アジア共同体」構想などが、米国抜きで進められないよう強く牽制(けんせい)したといえる。同時に、「ブッシュ前政権の東南アジアに対する関心が低かったため、中国の影響力拡大を許した」(元米政府高官)との反省から、アジアでの枠組み作りにもかかわっていく方針を明確にした。
(引用終わり)


<コメント>

オバマ大統領の14日の東京演説で、アメリカは「アジア太平洋国家」という言葉が初めて登場した。イラク・アフガニスタン政策の失敗と金融危機でアメリカの世界への経済的軍事的なプレゼンスが低下している中で、経済発展が著しいアジア地域への関与によって活路を見出したいという思惑が見える。そのために日米関係を盤石にし、中国との連携を強めていくことがオバマ政権の戦略である。その意味でオバマ大統領がアジア訪問の最初を日本に設定し、東京演説にこだわった理由が見えてくる。しかし、政権交代したばかりの日本との関係は必ずしも順調ではない。国内的にも国際的にも政治経済情勢が変化しているにもかかわらず、日米両国とも前政権の負の遺産に縛られているからだ。オバマの東京演説には大統領選で唱えた「チェンジ」のメッセージは伝わらず、新鮮みを欠いたものになったのはそのためだ。アジア重視に傾斜しつつあるアメリカの変化が日米関係や対アジア関係にどのような変化をもたらすのかはまだ不透明である。


オバマ大統領、東京演説

ASEAN首脳会議閉幕へ

普天間移設問題と日米同盟

2009-11-05 22:42:23 | 日記
鳩山政権になって、沖縄の普天間基地移設問題が焦点になってきた。当初、鳩山首相は「県外または国外への移設」を主張していたが、アメリカ政府は日米政府の合意である「辺野古」への移設を主張して、これを変更しないというメッセージを送ってきた。そのためもあって、決着を急ぐ北沢防衛相は「辺野古」への移設もやむなしと発言し、岡田外相は「嘉手納基地への統合」を主張して、日本政府内の見解も一致しない状態が続いている。ここへきて基地移設問題が焦点になったのは、オバマ大統領の訪日前に日米間の懸案事項を片付けておきたいという両国政府の配慮が働いたからである。しかし、12日の来日までに決着するのは不可能となり、アメリカ政府側から普天間問題の結論を急がないという発言となった。



■普天間、結論先送りへ=日米首脳会談では踏み込まず

11月5日18時10分配信 時事通信配信記事から

 焦点の米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題について日米両政府は5日、鳩山由紀夫首相とオバマ大統領との13日の首脳会談では結論を出さず、双方が解決に向けた努力継続を確認するにとどめる方向となった。鳩山内閣の足並みがそろっていないことが要因。岡田克也外相とキャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)との5日の会談でも、こうした認識で基本的に一致した。
 普天間移設をめぐっては、岡田外相が同県嘉手納町などの米軍嘉手納基地への統合案を検討する考えを表明する一方、北沢俊美防衛相は同県名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設する現行計画を容認。首相は「できる限り沖縄県民の意思に沿った結論を出したい」と時間をかけて結論を出す意向を示している。 
(引用終わり)


<コメント>
そもそもこの普天間基地移設は、1996年に基地の全面返還を日米政府が合意したことに始まる。ただし、米国政府は普天間に替わる代替施設を要求し、この問題をめぐって二転三転してきた経緯がある。結局、普天間の代替地としてキャンプシュワブ沿岸部(辺野古湾)が有力候補地となり、辺野古岬とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域を結ぶ形でV字型の二本の滑走路を建設する案が策定された。
しかし、地元住民の反対運動や環境保護団体の反対があり、計画は進んでいなかった。(地元が主張していた辺野古沖合への移設にアメリカは反対の態度であったが、ここに来て「沖合」移設を容認する発言を小出しにしてきている)
辺野古沿岸部でも辺野古沖にしても、さまざまな利害がからんでいるようだ。たとえば、V字滑走路の建設には最低でも3000億円以上の費用がかかる。地元の建設業界にとっては願ってもない公共事業である。当初はたんなる普天間のヘリポート移設であったものが、巨額の財政負担をともなう巨大な公共事業に変貌した。
しかも、この辺野古湾と大浦湾には数多くの生物が生息し、ジュゴンも姿を見せる貴重な自然が残されている。

普天間移設先の住民の動き

「ジュゴンの見える丘」

■「同盟への疑念出る」=普天間迷走にいら立ち-米有力議員
時事通信2009年11月5日(木)12:03

 【ワシントン時事】米上院のダニエル・イノウエ歳出委員長は4日、ワシントンの連邦議会で、訪米した沖縄県の仲井真弘多知事と会談した。イノウエ氏は、同県の米軍普天間飛行場移設問題に関し、「日本でこれ以上混乱が続くようなら、米国の議員の中でも日米同盟に対する疑念が出てくるかもしれない」と指摘。日本政府の迷走が続いていることに強いいら立ちを表明した。

 イノウエ氏は日系人で米民主党の重鎮。普天間問題をめぐっては、同県名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設する現行計画見直しに対し、既に国務省などが同盟関係に悪影響を及ぼすと警告している。議会サイドから同様の声が出たことは、米国内での鳩山政権への不満の高まりを示したものだ。 


■鳩山を甘くみたゲーツのガイアツ
ニューズウィーク日本版2009年11月1日(日)14:00 [2009.11. 4号掲載]

マイケル・フリードマン

 日本の鳩山首相はアメリカとの「より対等な」関係づくりを国民に約束して政権の座に就き、一方でオバマ米政権は同盟国である日本がアメリカから離れていくのではと疑心暗鬼に陥った。そして今、オバマ政権はこれ見よがしに日本に冷たくしているようだ。

 鳩山は在日米軍の在り方を見直し、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を県外移設するという公約を掲げて総選挙を戦った。とはいえこれは国内向けで、アメリカのアジア戦略にとって差し迫った脅威になるものではなかった。

 しかし10月20~21日にかけて訪日したゲーツ米国防長官は岡田外相、北沢防衛相、鳩山首相と相次いで会談。普天間飛行場をキャンプ・シュワブ(同県名護市)に移設するという日米合意を履行するよう強硬な姿勢で求めた。

 同盟国の意見に耳を傾けると胸を張ったオバマ政権はどこへ行ったのか。ゲーツのいら立ちの裏には、移設が進まないことに対する国防総省内の不満や、11月中旬のオバマ訪日前に問題を解決したいとの思惑、米政府内における国外の基地をめぐる意見の対立といったものがあるようだ。

 さらには米政府は時代が変わったことを認識せず、「外圧」で日本を動かすという古い手が今も通用すると期待していた。

 53年も続いた自民党支配を打ち破った民主党の鳩山は、より独立した日本を築くことに威信を懸けている。普天間問題が解決しても、これ以上アメリカは日本に命令できないとの態度を示す必要がありそうだ。


■日米政府、「普天間」着地点を模索
11月5日21時47分配信 読売新聞記事から

オバマ米大統領の12日の来日を1週間後に控え、日米両政府は沖縄県の米海兵隊普天間飛行場移設問題などをめぐる日米関係のきしみが首脳会談に影響を及ぼさないよう、着地点づくりに腐心している。

 カート・キャンベル米国務次官補は5日、ミャンマー訪問の帰途に日本に立ち寄り、外務省で岡田外相らと会談した。日本側は会談で、普天間飛行場の移設先が米軍キャンプ・シュワブ沿岸部に決まった経緯の検証を優先し、大統領来日以降に結論を先送りする方針に理解を求めたとみられる。

 鳩山首相はなお県外移設の可能性を否定せず、日米合意通りの移設を求める米側との溝は埋まっていない。だが、大統領はアフガニスタンへの増派問題などで支持率低下を招いており、同盟国との首脳会談の失敗で政権が打撃を受ける事態は避けたいとの思惑もある。米国務省のケリー報道官が4日の記者会見で、普天間移設問題で「米国はいかなる種類の期限も設けていない」と発言したのも、その一環とみられる。

 もっとも、キャンベル氏は日本側に対し、「大統領は『普天間問題は非常に重要だ』と首脳会談で言うことになるだろう」と指摘したという。「いたずらにだらだらと先送りすることは認めない、とのメッセージを明確にする」(日米外交筋)狙いがあるようだ。

 一方、日本側にとっても、日米関係のきしみを解消させたい事情は同じだ。平野官房長官は5日の記者会見で、移設問題について「非常に大事な時期だから」と慎重に言葉を選んだ。

 日本政府はアフガン支援策では米側の期待に最大限応えようと、大統領来日までに概要をまとめる方針だ。平野氏、岡田氏と北沢防衛相らは5日、首相官邸で最終調整を行い、週内にも決定することにしている。

(引用終わり)

<コメント>

結局、普天間移設問題はオバマ訪日には間に合わず、日米両政府とも一端棚上げにすることになったようだ。この間、ゲーツ国防長官が来日して強硬発言したり、あの手この手で鳩山政権に揺さぶりをかけたが、思うように行かなかった。日本政府内で方針が一致せず、米国政府は鳩山首相の「県外あるいは国外移設」発言にあわてたようだ。こうした鳩山政権の迷走は日米関係に亀裂を生み、日米同盟を危うくさせるものだという意見もある。しかし、「ニューズウィーク誌」の記事にもあるように、従来の自民党政権下で通用した「恫喝外交」が政権交代で誕生した新政権には通用しないことが明らかになった。そもそもオバマ政権自体が一枚岩ではない。ゲーツ長官に代表される国防総省と外交を担当する国務省とは方針も戦略も一致していない。アメリカの言うとおりにしなければ、日米同盟に亀裂が入るというような主張は明らかにおかしい。オバマ政権が普天間移設問題で強行突破できる条件も情勢でもない。日本のアフガン支援策の方が優先順位が上であるのは明白だからだ。医療保険改革という国内政治で支持率が低下し、アフガニスタン情勢で劣勢に立たされているオバマ政権としては、日米間で波風を立てるような余裕はない。むしろ日本のアフガン支援などの具体的な貢献を期待しているはずだ。
(だから国務次官補のキャンベルは「日米間になんの不安もない」「現在の日米関係に非常に満足している」と言わざるを得ないのである。)