APEC(アジア太平洋経済協力会議)閣僚会議が12日に閉幕して、14日からは首脳会議が始まる。オバマ大統領の来日も、このAPEC首脳会議出席に合わせてのものである。APECはASEANなどアジアが中心であるが、ロシアや南米やオセアニアの国々も加わり、いまや多国間協議の場となっている。経済発展が著しいアジア諸国との協力関係は欧米先進国にとっても重視せざる得ない情勢だ。アメリカがアジア重視、特に中国を重視した姿勢を鮮明にしてきているのは、経済的に密接な協力関係を築くことがアメリカの経済にとっても重要だからである。かつて日米関係が経済的にも重要な二国間関係であった時代と比べると、日米関係は日本にとっても相対的に重要度が下がっている。
民主党鳩山政権がアジア重視の方針を打ち出し、「東アジア共同体」の構想を表明する背景には、日米両国のこうした情勢の変化も影響している。今回のAPECを機会に日米と中国その他のアジア諸国をめぐる情勢について検証してみよう。
■アジア歴訪 オバマ大統領、指導力に「?」 APEC重視も米国内に保護主義
(11月13日7時57分配信 産経新聞記事から)
【ワシントン=渡辺浩生】オバマ米大統領は13日から初のアジア歴訪をスタートさせる。一連の会議・会談ではアジア太平洋地域の経済統合や自由貿易促進などについて協議、域内の指導者としてアピールしたい考えだ。しかし米国内の保護主義の高まりや医療保険改革の難航を背景に、懸案の米韓自由貿易協定(FTA)は議会承認が棚上げされたまま。オバマ大統領の通商政策演説も先送りになっているのが実情で、米国の指導力の欠如を懸念する声が上がっている。
ホワイトハウスによると、オバマ大統領は日本、中国、韓国各首脳との会談やアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を通じ、地域経済の均衡した成長と経済統合の促進に向け、米国の指導力発揮を訴える見通しだ。
APEC加盟国向け輸出は米国の輸出全体の60%を占めており、「経済関与の拡大は、輸出拡大と国内雇用創出に結びつく」(ローズ戦略広報担当副補佐官)という思惑がある。
カトラー通商代表部(USTR)代表補(日本・韓国・APEC担当)は先月の議会公聴会で、APECは「米国が一員であり、指導力を発揮できる唯一の地域経済団体」と指摘。オバマ大統領は、APEC重視の姿勢を強調することで、鳩山由紀夫首相の唱える東アジア共同体構想を牽制(けんせい)する狙いもあるとみられる。
しかし、オバマ政権は自由貿易政策にあいまいな態度を続けており、「やる気が伝わってこない」(アジアの外交筋)と指導力発揮を疑問視する声もある。
韓国、パナマ、コロンビアとのFTAは前政権で調印されたまま棚上げ状態で、オバマ大統領が議会に承認を働きかける様子はない。米韓FTAに関して、国家安全保障会議(NSC)のベーダー・アジア上級部長は「大統領は韓国市場への米国製自動車の十分な参入を求めていく」と語る。
一時検討された通商政策に関する大統領の重要演説も宙に浮いている。失業率が26年ぶりに10%を超え、議会の保護主義的な空気に拍車がかかっている。しかも、長期化する医療保険改革の審議に労力を奪われ、他の重要案件が後回しになっているのが実情だ。
USTRによると、アジア太平洋地域では日、韓、インドなどによる約70件のFTAが交渉中。「われわれは、高まる動きから取り残されつつある」(カトラー代表補)という危機感も政権内でくすぶっている。
一方、政権は、APEC内の4カ国(シンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイ)が結んだFTA「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」について参加を検討しており、大統領の正式表明を期待する声もある。前政権で国家安全保障次席補佐官(国際経済問題担当)を務めたダニエル・プライス氏は、「TPP参加は地域の経済統合の指導力発揮に不可欠だ」と指摘している。
(引用終わり)
<コメント>
アジア太平洋地域の諸国と経済的な結びつきを強めるには、FTA(自由貿易協定)を締結することが不可欠である。しかも自由貿易を推進するというのはアメリカの通商政策の重要な柱である。ところが、オバマ政権になってFTAの議会承認などの具体的な動きが進んでいない。国内の失業対策や金融危機への対処、医療保険制度改革などの国内政治に忙殺されて、対外的な通商問題に後ろ向きと見なされてもしかたない。今回のAPECの会合でオバマ政権の積極姿勢が打ち出せるのか注目される。たしかにアメリカからアジア地域への輸出が増大し、今後も拡大傾向が見込まれる。それだけアジアへの依存が強まるわけで、この地域へのアメリカの関与や指導力が問題となってくる。
一方で、鳩山首相の「東アジア共同体」構想がアメリカに懸念や焦燥感を与えている側面もある。日本のアジアへの接近はとりもなおさず日中の接近であり、アメリカを出し抜いて日中が密接な協力関係を結ぶことをもっとも危惧しているのはアメリカだからである。あるいは「東アジア」という枠組みの中で、アメリカは排除されかねないという焦りを感じているはずである。そういう意味で今回のオバマ訪日とその後の中国訪問の目的は、こうした懸念を払拭して、日中の間にくさびを打ち込むことにあるのではないか。
アジア版EUと言われる「東アジア共同体」の構想は古くから存在していたが、主としてアメリカが異議を唱え、日本がこれに配慮してきた。東南アジア諸国の政治的経済的混乱もあって、本格的な協議が進まないできた。しかし、最近ではEAS(東アジア首脳会議)などの会合で「東アジア共同体」への協力関係の前進が見られるようになってきた。今後アジアの経済発展が続いていけば、将来、EUのように経済統合や通貨統合へ向かう可能性もある。この地域への関与と指導力を発揮したいアメリカが日中との綱引きをしている構図が浮かび上がってくる。
■オバマ大統領「アジア重視」演説 日本に配慮「米外し」牽制
11月15日7時56分配信 産経新聞記事から
オバマ米大統領は14日のアジア政策に関する演説で、日本との「揺るぎなき同盟」を基本に、アジア太平洋地域に積極的に関与する方針を示した。経済成長の一方で軍事増強を続ける中国をにらみ、鳩山政権発足後に摩擦が生じた日米関係の悪化を防ぐとともに、米国経済の回復を図るため、「世界の成長センター」であるアジアにおける米国の存在感を強めるねらいがある。(有元隆志)
◆積極関与アピール
オバマ大統領は「アジア太平洋で起きることは、直接米国に関係があることを米国民全員に知ってほしい」と述べ、米国内の雇用拡大のためにもアジアとの関係を深化させる重要性を強調した。
米国の10月の失業率は26年ぶりに10%を超えており、雇用対策は大統領の最優先課題となっている。米政府はアジア地域との貿易拡大によって、「より多くの雇用を創出できる可能性がある」(ローズ大統領副補佐官)とみている。
大統領は「アジア太平洋国家として、この地域の将来を形作る議論にかかわっていくつもりだ」と述べるとともに、東南アジア諸国連合(ASEAN)や日中韓で構成される「東アジアサミット」にもより正式な形で参加したいとの意向を示した。
鳩山由紀夫首相が掲げる「東アジア共同体」構想などが、米国抜きで進められないよう強く牽制(けんせい)したといえる。同時に、「ブッシュ前政権の東南アジアに対する関心が低かったため、中国の影響力拡大を許した」(元米政府高官)との反省から、アジアでの枠組み作りにもかかわっていく方針を明確にした。
(引用終わり)
<コメント>
オバマ大統領の14日の東京演説で、アメリカは「アジア太平洋国家」という言葉が初めて登場した。イラク・アフガニスタン政策の失敗と金融危機でアメリカの世界への経済的軍事的なプレゼンスが低下している中で、経済発展が著しいアジア地域への関与によって活路を見出したいという思惑が見える。そのために日米関係を盤石にし、中国との連携を強めていくことがオバマ政権の戦略である。その意味でオバマ大統領がアジア訪問の最初を日本に設定し、東京演説にこだわった理由が見えてくる。しかし、政権交代したばかりの日本との関係は必ずしも順調ではない。国内的にも国際的にも政治経済情勢が変化しているにもかかわらず、日米両国とも前政権の負の遺産に縛られているからだ。オバマの東京演説には大統領選で唱えた「チェンジ」のメッセージは伝わらず、新鮮みを欠いたものになったのはそのためだ。アジア重視に傾斜しつつあるアメリカの変化が日米関係や対アジア関係にどのような変化をもたらすのかはまだ不透明である。
オバマ大統領、東京演説
ASEAN首脳会議閉幕へ
民主党鳩山政権がアジア重視の方針を打ち出し、「東アジア共同体」の構想を表明する背景には、日米両国のこうした情勢の変化も影響している。今回のAPECを機会に日米と中国その他のアジア諸国をめぐる情勢について検証してみよう。
■アジア歴訪 オバマ大統領、指導力に「?」 APEC重視も米国内に保護主義
(11月13日7時57分配信 産経新聞記事から)
【ワシントン=渡辺浩生】オバマ米大統領は13日から初のアジア歴訪をスタートさせる。一連の会議・会談ではアジア太平洋地域の経済統合や自由貿易促進などについて協議、域内の指導者としてアピールしたい考えだ。しかし米国内の保護主義の高まりや医療保険改革の難航を背景に、懸案の米韓自由貿易協定(FTA)は議会承認が棚上げされたまま。オバマ大統領の通商政策演説も先送りになっているのが実情で、米国の指導力の欠如を懸念する声が上がっている。
ホワイトハウスによると、オバマ大統領は日本、中国、韓国各首脳との会談やアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を通じ、地域経済の均衡した成長と経済統合の促進に向け、米国の指導力発揮を訴える見通しだ。
APEC加盟国向け輸出は米国の輸出全体の60%を占めており、「経済関与の拡大は、輸出拡大と国内雇用創出に結びつく」(ローズ戦略広報担当副補佐官)という思惑がある。
カトラー通商代表部(USTR)代表補(日本・韓国・APEC担当)は先月の議会公聴会で、APECは「米国が一員であり、指導力を発揮できる唯一の地域経済団体」と指摘。オバマ大統領は、APEC重視の姿勢を強調することで、鳩山由紀夫首相の唱える東アジア共同体構想を牽制(けんせい)する狙いもあるとみられる。
しかし、オバマ政権は自由貿易政策にあいまいな態度を続けており、「やる気が伝わってこない」(アジアの外交筋)と指導力発揮を疑問視する声もある。
韓国、パナマ、コロンビアとのFTAは前政権で調印されたまま棚上げ状態で、オバマ大統領が議会に承認を働きかける様子はない。米韓FTAに関して、国家安全保障会議(NSC)のベーダー・アジア上級部長は「大統領は韓国市場への米国製自動車の十分な参入を求めていく」と語る。
一時検討された通商政策に関する大統領の重要演説も宙に浮いている。失業率が26年ぶりに10%を超え、議会の保護主義的な空気に拍車がかかっている。しかも、長期化する医療保険改革の審議に労力を奪われ、他の重要案件が後回しになっているのが実情だ。
USTRによると、アジア太平洋地域では日、韓、インドなどによる約70件のFTAが交渉中。「われわれは、高まる動きから取り残されつつある」(カトラー代表補)という危機感も政権内でくすぶっている。
一方、政権は、APEC内の4カ国(シンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイ)が結んだFTA「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」について参加を検討しており、大統領の正式表明を期待する声もある。前政権で国家安全保障次席補佐官(国際経済問題担当)を務めたダニエル・プライス氏は、「TPP参加は地域の経済統合の指導力発揮に不可欠だ」と指摘している。
(引用終わり)
<コメント>
アジア太平洋地域の諸国と経済的な結びつきを強めるには、FTA(自由貿易協定)を締結することが不可欠である。しかも自由貿易を推進するというのはアメリカの通商政策の重要な柱である。ところが、オバマ政権になってFTAの議会承認などの具体的な動きが進んでいない。国内の失業対策や金融危機への対処、医療保険制度改革などの国内政治に忙殺されて、対外的な通商問題に後ろ向きと見なされてもしかたない。今回のAPECの会合でオバマ政権の積極姿勢が打ち出せるのか注目される。たしかにアメリカからアジア地域への輸出が増大し、今後も拡大傾向が見込まれる。それだけアジアへの依存が強まるわけで、この地域へのアメリカの関与や指導力が問題となってくる。
一方で、鳩山首相の「東アジア共同体」構想がアメリカに懸念や焦燥感を与えている側面もある。日本のアジアへの接近はとりもなおさず日中の接近であり、アメリカを出し抜いて日中が密接な協力関係を結ぶことをもっとも危惧しているのはアメリカだからである。あるいは「東アジア」という枠組みの中で、アメリカは排除されかねないという焦りを感じているはずである。そういう意味で今回のオバマ訪日とその後の中国訪問の目的は、こうした懸念を払拭して、日中の間にくさびを打ち込むことにあるのではないか。
アジア版EUと言われる「東アジア共同体」の構想は古くから存在していたが、主としてアメリカが異議を唱え、日本がこれに配慮してきた。東南アジア諸国の政治的経済的混乱もあって、本格的な協議が進まないできた。しかし、最近ではEAS(東アジア首脳会議)などの会合で「東アジア共同体」への協力関係の前進が見られるようになってきた。今後アジアの経済発展が続いていけば、将来、EUのように経済統合や通貨統合へ向かう可能性もある。この地域への関与と指導力を発揮したいアメリカが日中との綱引きをしている構図が浮かび上がってくる。
■オバマ大統領「アジア重視」演説 日本に配慮「米外し」牽制
11月15日7時56分配信 産経新聞記事から
オバマ米大統領は14日のアジア政策に関する演説で、日本との「揺るぎなき同盟」を基本に、アジア太平洋地域に積極的に関与する方針を示した。経済成長の一方で軍事増強を続ける中国をにらみ、鳩山政権発足後に摩擦が生じた日米関係の悪化を防ぐとともに、米国経済の回復を図るため、「世界の成長センター」であるアジアにおける米国の存在感を強めるねらいがある。(有元隆志)
◆積極関与アピール
オバマ大統領は「アジア太平洋で起きることは、直接米国に関係があることを米国民全員に知ってほしい」と述べ、米国内の雇用拡大のためにもアジアとの関係を深化させる重要性を強調した。
米国の10月の失業率は26年ぶりに10%を超えており、雇用対策は大統領の最優先課題となっている。米政府はアジア地域との貿易拡大によって、「より多くの雇用を創出できる可能性がある」(ローズ大統領副補佐官)とみている。
大統領は「アジア太平洋国家として、この地域の将来を形作る議論にかかわっていくつもりだ」と述べるとともに、東南アジア諸国連合(ASEAN)や日中韓で構成される「東アジアサミット」にもより正式な形で参加したいとの意向を示した。
鳩山由紀夫首相が掲げる「東アジア共同体」構想などが、米国抜きで進められないよう強く牽制(けんせい)したといえる。同時に、「ブッシュ前政権の東南アジアに対する関心が低かったため、中国の影響力拡大を許した」(元米政府高官)との反省から、アジアでの枠組み作りにもかかわっていく方針を明確にした。
(引用終わり)
<コメント>
オバマ大統領の14日の東京演説で、アメリカは「アジア太平洋国家」という言葉が初めて登場した。イラク・アフガニスタン政策の失敗と金融危機でアメリカの世界への経済的軍事的なプレゼンスが低下している中で、経済発展が著しいアジア地域への関与によって活路を見出したいという思惑が見える。そのために日米関係を盤石にし、中国との連携を強めていくことがオバマ政権の戦略である。その意味でオバマ大統領がアジア訪問の最初を日本に設定し、東京演説にこだわった理由が見えてくる。しかし、政権交代したばかりの日本との関係は必ずしも順調ではない。国内的にも国際的にも政治経済情勢が変化しているにもかかわらず、日米両国とも前政権の負の遺産に縛られているからだ。オバマの東京演説には大統領選で唱えた「チェンジ」のメッセージは伝わらず、新鮮みを欠いたものになったのはそのためだ。アジア重視に傾斜しつつあるアメリカの変化が日米関係や対アジア関係にどのような変化をもたらすのかはまだ不透明である。
オバマ大統領、東京演説
ASEAN首脳会議閉幕へ